第8話 暗殺部隊
共和国軍も帝国軍も聖剣を主とした戦闘スタイルだが、その両者には違いがある。
様々な武装部隊が存在する帝国軍だが、共和国軍は後衛についている先天性思念術士と幼少期から特殊訓練を受けている聖剣使い、つまりネオ達が所属する特務聖剣部隊以外は、後天性思念術士と、普通の訓練を受けた聖剣使いのみとなっている。
使う武器は聖剣と統一されているのだが、思念術士達の立ち回りは特務聖剣部隊と聖剣部隊では大きく異なる。
普通の聖剣部隊における思念術士達は1人が複数の聖剣使いに対して思念術を行使するが、特務聖剣部隊の思念術士達はパートナーに対してのみ思念術を行使する。
このような背景や、特務聖剣部隊の戦闘能力の高さにより、各ポイントには数人しか配置されないことが多い。
眼下に広がる戦場からは、様々な叫びが聞こえてくる。その中には絶命する瞬間に放ったものもあるだろう。
自分の命はどうでも良いが、隣にいる無表情で戦場を見つめる少女を失いたくない思いだけが僕の中で積もっていく。
帝国軍が退き始めたタイミングで命令が下された。
―只今をもって後方支援を開始する。繰り返す、只今を・・・
輸送車両の中から無線が聞こえる。
「それじゃ、始めるか」
「おっけー!」
ティトが聖剣を構える。
「ネオ」
「分かった」
剣を抜き、逃走している敵軍が密集しているであろう向かい側の山の麓に剣先を向ける。
「シズ、お願い」
「うん」
シズが思念術を開始したのを見て、ほぼ同時にレイも開始する。
約3秒後に剣へ、重量以外の重さがかかり始める。そして、その重さが乗った剣をティトと同時に山の麓へと軽く振る。
ネオとシズが生み出した冷気が木を凍らせる。そして、ティトとレイが生み出した風が突風となり、敵を襲う。
そこに大方の敵が居るならば、何らかの反応があるはずなのだが、剣を振った先には殆ど敵の気配を感じなかった。
「・・・手応え、あったか?」
「いや、全くなかった」
手で感じたのは僅かな人の気配と木と土を凍らせる感触のみ。
もう、完全に引いてしまったのだろうか。中規模進軍の割には引くタイミングが早すぎる。
「まぁ良いんじゃない。中規模侵攻なのに大したことなかったねー」
そう言ってレイは後ろの輸送車両に乗ろうと歩き出す。
その瞬間、輸送車両の陰から何人かが飛び出す気配を感じた。
「待って!!!」
それに気付いたティトと同時にレイの前に飛び出し、人影と対峙する。
「そういうことか。ようやくお前らと出会えたぜ」
この進軍は間違いなく僕達、特務聖剣部隊をターゲットとしたものだ。だが、引くタイミングと詰めるタイミングが噛み合わなかったのだろう。
本来ならば、僕達が敵軍に向かって思念術を行使したところで詰める予定だったに違いない。
そして、今目の前にいる部隊。
この暗殺に特化された立ち回り。そして話に聞いてた特徴と一致する兵士の外見。
間違いなく、去年の秋頃から設立されたと推測される帝国軍の暗殺部隊L2だ。
特務聖剣部隊の中でも、死亡者こそ居ないが、3人がこの暗殺部隊によって重症を負っている。
「回れ」
低い声で中心に居た人物が指示を出す。
だけどその前にシズの思念術は完了していた。さっきは聖剣を振った時に起こる現象だけを利用したが、今回は剣として相手に向かって振るう。
視認できる範囲には8人。そのうち、右半分はティトに任せ、左半分にいる相手にする。
後ろにいるシズとレイに敵が向かわないように調整しながら戦うが、相手が聖剣を熟知しているのか、間合いがなかなか上手く取れない。
「ティト! 後ろに下がって!」
このままだと埒が明かない。近接戦闘では自分やティトにも聖剣の特殊効果が影響する可能性があるから控えたけど、どうやら簡単に勝てる相手ではなさそうだ。
「了解!」
ティトが特殊効果の範囲外に出たことを確認して、剣を地面に刺し思念術によって高められた効果を全開にして放つ。
―アーティフィシャル・フロスト
しかし、放つ前に敵の指令役が「逃げろ!」と声を出し逃げていく。目の前一面に巨大な霜柱が出来上がったが、もはやそれはそこで戦闘があったことだけを示すものとなっていた。
「って流石だな。車までも氷漬けか・・・」
ティトが滑らないように氷の上を歩く。
「ごめん・・もう少し範囲を広げれば良かった」
「いや、追い返しただけでも充分さ。だけど、これで近接戦闘に弱いってことが完璧にバレたな・・・」
確かに、特務聖剣部隊に所属している思念術士と聖剣使いはそのペアだけで爆発的な戦闘力を誇る。
しかし、それはあくまでも遠距離からの一方的な攻撃であって、近接戦闘で1対2以上を相手にする時ははそこまでの力を発揮することが出来ない。
むしろ、近くにいる思念術士をかばいながらの戦闘になるので、不利な状況に陥ることが多い。
これまでは、前で敵軍を受け止め、後ろから大規模攻撃をする方法で帝国軍を退けてきたが、帝国軍が特務聖剣部隊の欠点に気付いたことにより、戦い方は大きく変わるかもしれない。
いや、変わりつつあるのだろう。
「聖剣を剣として使う状態だと、剣そのものの威力が上がるから当たれば殺せる。だけど、今の敵は間合いを完全に読んでたから当てることすら難しかった。ティトもそう感じなかった?」
「あぁ。頑張れば一人に当てることは出来ただろうが、その後の隙を突かれることは明らかだったからな。上手く味方との距離も開けていて、正直もう相手をしたくない敵だったな」
そう。頑張って一人を倒しても、その瞬間には隙が生まれる。その間に刺されるかもしれないし、シズ達に向かうかもしれない。シズ・・・そういえば、シズは。
「シズ!」
後ろを振り返ると、少し苦しそうに胸を押さえるシズが居た。
「大丈夫か!?」
慌ててシズに駆け寄り、尋ねる。シズに負担をかけてはいけないと知っていたのに、思念術頼りの技を使ってしまった。それも連続して。それに気付かなかった自分が憎い。
「だ、大丈夫だから。少し疲れただけだから!」
レイが心配そうにシズを見る。
「でもさっき・・・」
「レイ、私は大丈夫だから!」
「わ、分かった」
レイに力強い口調で答えると、もう一度僕の方へとシズが向く。
「ネオ。私は大丈夫だよ。ネオこそお疲れさま」
「・・・うん、ありがとう」
シズはそれだけ言うとティトがエンジンをかけて周りを地道に溶かしている輸送車両へと乗り込んだ。
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