第7話 中規模進軍

シズと夕食を食べ、紅茶を飲みながら部屋で過ごす。


 こういう時間にしか、内地から取り寄せた本を読むことができない。


 しおりを挟んでいるページを開き、文字を辿り始める。


「部屋のお風呂借りて良い?」


「いいよー」


 シズがお風呂に入り、部屋に1人となる。


「もう一度、やってみるか」


 本を置き、目を閉じる。


 実際に聖剣は取り出さず、そこにあるとイメージする。


 そして、何も考えていない状態から、聖剣に何かを移す為に、意識や自我を束ね始める。それを上手く飛ばすことが出来たら・・・。


「いや、これは違うな」


 自分でもこれは「思念」ではないと気付くことが出来た。


 何が違うのかは不明だけど、直感的にこれは違うと告げている。


 改めて、自分が思念術を使うことのハードルの高さを思い知らされた。


「どうしたの?」


 どうやら思念を作ろうと集中していた時間は三十分を超していたらしい。


 例え、発動出来ていたとしても実用性が皆無なことに気付き、少し笑えてくる。


「本の内容が面白かったんだ。髪は自分で乾かせる?」


「ネオがやって!」

 

「仕方ないなぁ。ほら、ドライヤーを持ってこっちにおいで」

 

「うんっ!」

 

 あぐらをかいた足の上にシズを座らせ、髪を乾かす。


 自分でやって欲しいけど、これくらいならしてあげても良いか、と思ってしまう。多分、これがティトやラウラに親バカだと言われる原因なのだろう。

 

 僕と同じ軍から支給されたシャンプーを使っているのにもかかわらず、美容室の帰りのようなサラサラになる。


「もう眠たーい」


「まだ乾いてないからダメ」


「少しくらい良いじゃん!」


 犬のように頭を振るシズ。とかしながら乾かしていたのに、そんなことをされたらボサボサになってしまう。


「ほら、目を閉じてて良いから。ジッとしていて」


「はーい」


 素直に大人しくなったシズの髪を丁寧に乾かしていた矢先、警報が鳴り始める。


 ―帝国軍による中規模進軍を確認。繰り返し、帝国軍による中規模侵攻を・・・

 

「だそうだ。シズ! 部屋に戻って用意して!」

 

「うん!」

 

 警報によると、今回は中規模だそうだ。久しぶりの戦闘に体が硬くなっていることを感じる。


「・・・何を今さら」


 未だに恐怖を覚えていう自分に失笑する。これまで、何百、何千という人を殺してきた。今さら恐怖を味わったところで、時は既に遅く、罪は償いきれないほどの大きさになっている。


「よしっ」


 両頬を自ら叩き、気持ちを入れ替える。全てを準備して部屋を出ると、ほぼ同時にシズも自分の部屋から出てきた。


「行くぞ」


「うん」


 そのまま走って特務聖剣部隊駐留場まで行き、到着したことを報告する。そのまま指示された輸送車両に乗り、待機する。


「俺達はいつも通り後衛だってよ。運転、頼めるか?」


 輸送車両にティト達が乗り込む。僕が運転する気で、最初から運転席に乗っていた。


「分かった」


 アクセスを踏み、基地を出発する。


「シズ、ポイントへの誘導を頼めるかな?」


「うん。でも方角も道もあってるからこのままで大丈夫。着いたら言うね」


 シズがティトから貰ったポイント座標を見て答える。シズは方向感覚にも優れているから、こういう時に凄く役に立ってくれる。


「了解」


 シズの言葉通りに方角を変えず、直進し続ける。


「ティト~、何か食べるものない?」


 車内でそう声を上げるのはティトのパートナーであるレイ。


 性格を分かりやすく簡単に言うと、シズの正反対。人見知りではなく、社交的であり、場の雰囲気を明るくしてくれる子。年齢はシズと変わらない。

 

「あるわけないだろ。戦場に向かってる最中に何言ってるんだお前は」


 ティトが呆れた声を出す。


「どうせ後衛なんだから、ただ見てるだけになるって絶対。あ、ネオ君は何か持ってる?」


「僕はないけど、シズは持ってるんじゃないか?」


 万が一の時を考えて、シズには必ず携帯非常食と飴を持たせている。


「あ、うん。持ってるよ、飴ちゃん」


「それ、渡してあげて」


「うん・・・はいっ」


「ありがとう! シズちゃん!」


「ううん、大丈夫」


「俺から言うのもアレだけど、ありがとな、シズ」


「あっ・・・・はい」


 訓練で2年間一緒に過ごしているからか、思念術士達とは普通に話せるようだが、やっぱりティトのような任務でしか関わりがない人は苦手らしい。


 ティトから急いで目をそらし、夜の平原地帯を見つめてる。


「ティト! そんな怖い顔しながらシズちゃんに話かけたらダメでしょ!」


「え? 俺、今怖い顔していたか!?」


 そう言ってシズに聞くティト。


「だ・か・ら! それがダメなの! 反省して!」


「あ、はい・・・」


 どうやらパートナーであるけど、部下であるレイに上司であるティトが怒られている。うん、何だか新鮮だ。


「別に私は・・・・」


 小さな声でシズが呟いているけど、後ろではレイとティトがうるさく騒いでいる。


「シズ」


 うん? とこちらを向くシズ。


「今、何か言っても後ろには聞こえないと思うよ」


「・・・うん、そうだね」

 

 後ろで頬を引っ張りあっているティトとレイを見て諦めたようにシズは呟いた。


「もう少し先がポイントだから、ネオ」


「分かった」


 4人を乗せた輸送車両をポイント座標近くで止める。この位置は国境近くの高台で、戦況を直視で確認できる。


「一応、何とかなりそうな感じだな」


「うん」


 数千人単位であろう軍勢が遠くに見える。味方も同じくらいだが、個々の戦力的には共和国側が圧倒的なので負ける心配はないだろう。

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