第5話 直接戦闘:剣か拳銃か
「よ、昨日も緊急出動はなかったな」
「そうだね。ティトは良く眠れた?」
「うーん、まぁまぁだな。だけど、最近は緊急出動が少なくて、逆に不気味にすら感じてしまうぜ」
剣技場の更衣室で訓練着に着替えながらティトと話をする。
「去年の今頃は毎日あって国境近くに泊まることもあったもんね」
「ホント、あれは辛かったぜ。思い出すだけで疲れが溜まる。嫌な経験だったな」
去年の今頃、5月の半ばは帝国軍による侵攻が1番多かった。
基地に帰ったら警報がなり、戦闘を終えて戻ってくると、また警報が鳴る。
しまいには移動による疲れを無くすため、国境沿いにある簡易基地に常駐していた。
「そう考えると、帝国は少し遠慮し始めたのか? 是非このまま放っておいて欲しいものだぜ」
「全く同意見だよ」
帝国はほぼ全世界を手中に収めているのだから、ここくらい好きにさせて欲しいなと思ってしまう。
「まぁ、そんな平穏も我が軍が手を出すが故に壊れる予定なんだがな」
そう言って聖剣ではなく、訓練用の木刀を持ち剣技場へと行くティト。
「勘弁して欲しいものだね」
遠征の事を考えると気が滅入る。しかし、考えない訳にはいけない。気持ちをリセットして、訓練へと向かう。
「ところで、一つ相談して良いかな」
対人形式の模擬戦を行った後の休憩中にラウラとティトに聞く。
「私に出来ることなら良いよ」
「何かあったのか?」
シズの事情を知っている二人にしかこんなことは話せない。
「シズに負担をかけずに遠征を乗り切る方法だよ」
「やっぱり、思念術は難しかったのね」
「うん。時間がどうしても足りない」
「そうね・・・」
元々、自分で思念術を使えるようにするというアイディアはラウラから貰ったものだ。
ラウラ自身は先天性ではないものの、思念術もある程度使える口で、パートナーの調子が悪い時はラウラが一人二役で戦場に立っている。
「ラウラは天才だからな。真似出来ないのは当たり前だぜ」
ティトが肩をすくめながら言う。
「あら、私は普通よ」
「「それはない!」」
「酷いわね」
ラウラは正真正銘の天才で、学力も良ければ聖剣を使わない剣術もトップクラス。さらには銃も軽く扱うことが出来る。
「剣術磨くしかないだろ。ネオは剣術上手い方だけど、まだまだ俺には程遠いぜ」
「そうね。思念術が使えないとなると直接戦闘をするしかないもの」
「そうか、そうだよね」
この答えは僕の中でもはじき出されたものだった。
だけど、直接戦闘となると敵を葬り去る為に、文字通り直接相手の体に刃を食い込ませなければならない。
人を斬るには想像以上の力が必要だ。
ティトのような体格が大きいと、剣に体を預けるだけで敵の命を絶つことが出来るが、僕のように普通の体格、もしかしたら平均以下の体格だったら腕の筋肉に頼るしかない。
そして、筋肉を使うような斬り方をしたら直ぐに体力が削れてしまう。
「やっぱり剣を扱えるように筋肉を付けるしかないのか」
「あ、拳銃とかはどう?」
「拳銃? それだったら剣を持つよ」
聖剣が台頭し始めてから、銃は聖剣が引き起こす超常現象によって銃弾が相手に届かない致命的な欠点が露呈し始め、今では護身用として運用している兵士がごく僅かにいるくらいのマイナーな武器となっている。
「いや、意外に銃も捨てたものではないわよ。一応、練習してみたら? この後、射撃場くらい付き合うわよ」
「ラウラがそこまで言うなら練習してみるよ。だけど、この後はシズの訓練を見学しに行くから少し難しいかな」
「・・・ネオ、親バカ過ぎない?」
ラウラが呆れたような声を出す。横ではティトが全力で首を縦に振っている。
「いやいや、普通だと思うよ?」
「「それはない!」」
あ、さっきラウラにしたことがそのまま帰ってきてしまった。
「普通はパートナーに部屋の鍵をあげないぜ」
「私のパートナーなんてごくたまにお茶するくらいよ」
「・・・それは放任主義なだけだぜ、ラウラ」
「あら、ティトもネオの仲間なの?」
「あ、訓練が再開するって! 行こ!」
ホント、どうしようもない理由でこの二人は喧嘩になるから先に止めておく。
喧嘩する程仲が良いって聞くし、本当は二人とも僕の知らないところで仲良くしてるんだなぁ。
なんだか、仲間外れにされた感じがして少し悲しい。
訓練は最後に対戦したティトから強烈な一撃を頭にもらい、幕を閉じた。
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