11話 脱出の余韻と、戦いに向けて

「先ず、森からの脱出成功を祝って!乾杯!」


 リョースケが乾杯の掛け声を出すと、皆は乾杯した。この世界にも乾杯ってあるのか。知らなかった。




《諸説ありますが、乾杯は飲み物などに毒が入れられていた場合に、他の人に毒を分けるために使われます。》


 そうだったのか。知らなかった。




 エルってすごいよな。




 祝脱出の宴会には、俺、リョースケ、ジュンジュン、エリーゼ、イルマ、ジーナ、アルフレッド魔法戦士団長さん、ラインハルト聖騎士団長さん、サウス先生が参加した。




 小規模である。その代わりにメンバーはかなりのエリート達だが。




「中村さん、ドラゴン退治に行くのですか?」


 と先生が聞く。


「まあ、はい。」




 ラインハルト騎士団長は、新情報を教えてくれた。


「<東方黄金竜帝王>討伐なら、<東方黄金森林>を通るのか。<東方黄金森林>はBランク級からAランク級の魔物が出るから、注意していけよ。」


「はい、ご忠告ありがとうございます。注意します。」




《東方黄金森林に出る魔物:オーク、ランク:B、オーガ、ランク:A、ゴブリン、ランク:C、アークゴブリン、ランク:C+、ゴブリンロード、ランク:B、劣化ヴァンパイア、ランク:B、東方竜、ランク:A。》


 なるほど。オークとオーガは定番だな。




 ゴブリンロードって、ランクBなのか。




 劣化ヴァンパイアは、Bか。




 東方竜は東方黄金竜帝王の統治下にある竜かな。


《竜社会は、<竜王>を中心に、東に<東方黄金竜帝王>、西に<西方黄金竜帝王>、北に<北方黄金竜帝王>、南に<南方黄金竜帝王>がいます。これらは、各地方をまとめるリーダー的存在で、彼らの下に、各地方の名がついた竜、その下にその他竜というように統治されています。中央集権国家です。》




 ……分かりやすい!どういう意味?


《ハア……。》


 溜息つかれた!




「いいえ、私たち成人してないので。」


「いいから一杯のみなよ~!ノリ悪いな~。」




 イルマが酒に誘われている!リョースケは飲んでしまった!酔った!エリーゼとジーナは早めに帰った!ジュンジュンは大人同士で、最近の世界情勢の話をしている!




「イルマ、帰るぞ。」


 ひそひそ声で言ってみた。


「分かったわ。」


 俺たちは宴会から抜け出した。時刻は大体午後十時!アバウトテン!




「先生ってお酒飲んだら性格変わるのね。」


「え⁉あれ、先生だったの⁉」


「そうよ。性格変わりすぎて最初は私も分からなかったわ。」


「あの暑さと酒の匂いで頭が回らなかった。成人女性ってことは先生って気付けなかった。」




 もう宴会は暫くごめんだ。




 これ、元の世界でも一語一句違わず、全く同じ事を考えていた記憶がまだ残っているのだが……。


《……。その記憶は正解です。》


 あ、やっぱり。っていうかなんでその頃を知っているんだよ。




「サトシ~?ついたわよ。」


「ありがとう。わざわざ王宮まで送ってくれて。」


「いいわよ、私も王宮見てみたかったし。」


「そっか。じゃあね!また明日!」


「じゃあね!」




 そして王宮に入ろうとすると、エリーゼがいた。


「エリーゼ、何してるの……。」


「随分仲良さそうにラブラブに歩いてきましたね。」


「???」




「サトシさんを取るなんて、許せません!」


 何があった⁉




「イルマさんのことが、好きなんですね。付き合っているんですか?」


「いや、付き合ってないし第一、俺の好きな人は―――。」


 危ない!ノリで告白するところだった!ギリギリセーフ!




「好きな人は?」


「……言えない。」


「そうですか。私はこんなにサトシさんを想っているのに……。」


 後半、「こんなに」より後が聞こえなかった。




 そんな下らないことを考えているうちにエリーゼは駆け出して行ってしまった。




 追いかければいいし、ここは追いかけるところなのだろうが、今は俺が追いかけて行っても傷つけるだけだ。


 俺はここで待っていることしかできなかった。


《それで、いいのですか?》


 ああ、これでいい。




 翌日……。


「おはようございます!」


「おはよう。」


 ……昨日の、何だったんだ。




《喧嘩です。》




「皆おはよう。」


「サトシくん、おはよう!」


 ぶりっこ全開で話しかけてきたのは、魔法学院魔法部門準首席入学の、ルーシー=フォン=トマスだ。




「ああ、おはよう……。」


「どうしたの?元気ないね……。」


 まさかお前がウザいからとは言えない。




「ちょっと寝不足なだけだ。」


「そうですか。サトシさん大丈夫ですか?」


 エリーゼは昨日のことなんてなかったように振る舞っている。




「ああ、大丈夫だ。心配ありがとう。」


「良かったら膝枕でもしましょうか?」


「嬉しいけど、もうホームルーム始まるぞ。」


「そうですね。」


 すると、エリーゼは去っていった。




 そういえば、いつもホームルームギリギリには来るはずのリョースケの姿が見つからない。何かあったのだろうか。




「珍しくニッタニシさんは休み、ですかね……。」


 リョースケが入ってくる。


「すみません、遅れました。」


「理由を聞いても?」


「寝坊です。」




 ああ、これは酒飲みすぎたな。未成年なのに、飲みすぎだよ。


「……呆れて言葉も出ません。座りなさい。」


 リョースケはおとなしく着席した。




 授業後……。


「リョースケ、作戦会議行くぞ。」


「眠い。いつにもまして眠い。」


「酒なんか飲むからだろうが。」




 あきれるわ。なんで酒なんて飲んだ?


「なんで酒を飲んだ?」


「誘われて仕方なく、だよ。」


 ……ああそう。


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