第45話

※短めですみません。三日前から風邪をひいて薬を飲んでいるのですが、すごく眠くなって上手く書けませんでしたm(__)m



 泉さんが両手で抱えるように待っていたノートを広げた。ノートを広げた泉さんはなんだか得意げな顔をしている。でもその視線は俺たちに向けられることなく、自分のノートを向いままだった。


「これは……黒と白のひよこ? ですか……?」


 そこに描いてあったものは黒と白の二羽のヒヨコの絵。ただそのヒヨコには羽とは別に歪な腕と手がある。


「あ、ごめんなさい。これはムネニーク=ピヨッコとササミ=ピヨッコの怪人時の姿だった」


 なんと、この目つきは少し悪いが愛らしい黒いヒヨコが、俺がやることになっているムネニーク=ピヨッコ怪人の姿だったらしい。白いヒヨコはアホ毛とふわふわ感があってもっと可愛らしいけど、やはり目つきは少し悪い。


「そ、そうなんですか……」


 マッスルレンジャーに登場する怪人を見て自分なりにイメージを固めていた俺。俺のイメージとかなり違っていて背中に変な汗が流れる。変な怪人役を受けてしまったのではないのかと……


「あ、でも監督が言っていたのはこっちよ」


 そう言った泉さんがペラペラとノートをめくっていく。ちらちらと色々なキャラクターデザイン? アースレンジャーの姿や怪人たちの姿が見えてもっとゆっくりめくってほしいと思ったが、口にはしない。だって俺が演じる怪人の姿の方がもっと気になっているから。


「これだわ、ムネニーク=ピヨッコが擬人化した姿。異端怪人だけあってムネニーク=ピヨッコ怪人とササミ=ピヨッコ怪人の普段の姿はこんな感じで、まるで擬人化したような、不完全な怪人の姿をしているの。

 怒りで感情が昂っていたり、自ら気合いを入れて完全体の姿を望むと、先ほどの完全体の姿になれる。当然完全体の姿では力が増すが、その分、体力の消耗が激しいの……あったわ、これね」


 まあ、そのあたりは昨日、合格の通知をいただいた時の文面に少し触れてあったから驚きはしないけど、


 ――え! これがムネニーク……


 そこに描かれていた怪人の姿絵は、なんとなく俺の顔によく似た人物が悪の秘密結社の戦闘服を着ている。まるでコスプレでもしているかのような姿絵だった。不覚にもちょっとカッコいいと思ってしまった。


 不完全な怪人は、耳が小さな羽に見え、背中にも大きな黒い翼がある。他にも、両手が人のもののそれだが両足は鳥のもので、額にもちょっとした紋様が入っている。でもそれだけで顔はほぼ素顔のままだった。


 ――思ってたイメージとかなり違うんだけど……


「あ、あの特殊メイクなんかはしないのですか……?」


「ん? しますよ、少し色っぽくね。あとこれも」


 色っぽいっというのがどの程度なのか、白黒で描かれた姿絵からは伝わってこないが、泉さんが指差したのは俺の姿絵の額、その額にある紋様だった。


「えっと、他には……」


 俺としてはパッと見てもこの怪人が俺だと気づかれない程度の特殊なメイクはしてほしいいんだけど、


「あ、柊くん、紋様のこと、今さらっと流したよね? 酷いなぁ。私は気に入っているのに」


「そうなんですか」


「そうなんです。ふふ、聞いて驚かないでね、なんとこの紋様は鳥の王様を表す紋様なんだ。あれ、この怪人は誕生してから間もないから王子様と言った方がお似合いかもね」


「は、はあ」


「それで柊くんが私のそのイメージとぴったりだったのよ。

 いえ、むしろ柊くんを見てピンっと閃いたと言った方がいいのかしら。柊くんを見てからどんどんアイデアが浮かんで候補を絞るのに苦労したくらいなのよ」


 泉さんはそうは言うが、泉さんの視線はずっと開いていたノートに向けられたままだった。このデザインがよっぽど気に入っているのだろう。


「大変だったのよ」


 そこで北条監督が怪人の姿(キャラクターデザイン)は決まっていたけど、不完全体の方はまだ決まっていなくて、キャラクターのデザインも担当していた泉さんがオーディション応募者を見てイメージを固めたいということでオーディションの審査員になっていたと教えてくれた。


「黒木さんもよ。兄以外になかなか心を開かない妹怪人というイメージにぴったりだったの」


 ――なるほど。


 先輩は無意識に男性が苦手で無愛想になる。でもそれはなぜか俺には該当しない。上手く利用すれば兄以外にはなかなか心を開けない妹のイメージにぴったり合う。でもそれは実力でなくイメージと合っていたからだとも捉えられる。


「ありがとうございます」


 先輩も分かっているのか、泉さんに向かって頭を下げているが、その顔は少し悔しそうにも見えた。


 それからレイコ義母さんと北条監督がオーディションでのことを楽しそうに話していたが、


「お二人は少し時間はあるかしら」


 不意に北条監督が俺と先輩に顔を向けてくる。


 ――困った……


 俺はよくてもレイコ義母さんやマキさんの予定が分からなかったからだ。だから俺はレイコ義母さんに視線を向けて確認してみた。


 するとレイコ義母さんが頷き返してくれるので、北条監督にもそう伝えても大丈夫そうだ。


「はい大丈夫です」


「私も大丈夫です」


「じゃあ、少しだけアフレコに挑戦してみる? 内容はオーディションで実演していたものとほとんど一緒なのよ」


「「?」」


 北条監督から詳しく話を聞くと、俺たちがオーディションの時に実演した部分は怪人の完全体(着ぐるみ)でのシーンらしく、アフレコが必要になる部分だった。


 ではなぜあの部分を実演させたかというと、北条監督の気まぐれ、ということではなく、初めてアフレコに挑戦する時に、実際に実演していた方が感情を込めやすいだろうの判断してのことだった。


 まあそれは実際にアフレコに挑戦しててよく分かった。


「柊くん。そこはもっと感情を込めてほしいわ」


「は、はいっ」


 この怪人(着ぐるみ)は目がパチパチ、口がパクパク動きはするがそれだけ。感情が非常に読みづらかったのだ。

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