第44話

※すみません。時間がなくて短くなりましたm(__)m



 翌日、俺はレイコ義母さんとマキさん、それに先輩と一緒に東西映像の特撮ヒーローの撮影スタジオへと向かった。


 ただし俺たちが撮影入りするのはまだ一週間も先。今日は挨拶をするためだけに向かっているのだ。


 俺としては担当者から指定された日よりも前に顔を出して迷惑じゃないだろうか? という不安がない訳でもないが、レイコ義母さん曰く、監督とアポが取れたから。迷惑なら普通に断られるから、と笑みを浮かべていた事を思い出す。


「……すごいですね」


 思わずそんな声が出てしまったが、なぜそう思ってしまったのかというと、俺と先輩がオーディションを受けた建物の奥にはさらにとんでもなく大きな建物が二つ存在していたからだ。


「は、はい。え、えっと、こちらが撮影スタジオになるんですけど、中はも、もっとすごいですよ」


 案内してくれているのは、俺たちが到着前から受付カウンター横でわざわざ待っていてくれた撮影スタッフの方らしいが、見た目は二十代前半の優しそうな女性だ。失礼だと思うが、いかにも新人さんというような雰囲気を纏っている。


 ただ俺と視線が合うとすぐに顔を背けられてしまって地味に傷つくんだけどね。


 ちなみにもう一つの建物の方で今放送中のマッスルレンジャーを撮影しているらしいが、このスタジオが出来てからはロケ地に向かう必要がほとんど無くなったらしいが、その意味は建物の中に入ってすぐに理解した……


「何ここ……」


「うわ……」


「別世界ッスね」


「大したものね」


 いくつかの部屋を横切り案内されて入った広い空間。いや、撮影スタジオは、3Dホログラムで再現された世界が広がっていた。


 ――すごい……ん?


 その世界はいくつか区切りがあり、今は外の風景が再現され、高校生の制服を着て赤いリストバンドをした人が怪人と向き合っている。


 ――あの人がレンジャー役の人かな……あれ?


 役者さんがいるのに、映像が遮断されて途切れてしまうということがなく、その役者さん自身に背景が反射して映っていることもない。

 どういう仕組みでそうできているのか、俺には理解できないが、最先端技術の凄さを改めて実感した。


 そんな撮影現場を横目にしながら俺たちは女性スタッフから一つの部屋に案内された。


「こ、こちらでお待ち下さい」


 五分くらいだろうか、俺たちは女性スタッフから案内された部屋のソファーにかけて待っていると、


「お待たせしてごめんなさいね」


 二人の女性が入ってきた。どちらもオーディションの時に見たことのある女性だ。


「初めまして、リアライズ芸能事務所、代表の柊木麗子と申します。本日はお時間を割いていただき誠にありがとうございます……」


 レイコ義母さんが立ち上がり軽く頭を下げると名刺を差し出した。


「あらあら、これはご丁寧に、私はアースレンジャーのメイン監督を務めてます北条忍です」


 ――え!


 俺は驚いた。俺はてっきりオーディションの時に俺に質問してきた厳つい感じの五十代男性がメイン監督だと思っていたからだ。


 この方はオーディションの時には、にこにこしながら俺のことを見ていた上品な感じのする五十代女性で、たしか先輩には「男性が苦手だというのは本当ですか?」と質疑応答の時に尋ねてきた女性でもある。


 先輩はプロフィールにもそう書いていたらしいから、その質問には正直に答えていたが、それから先輩は明らかに元気がなくなったのを覚えている。


 北条監督は義母さん、マキさんと挨拶をして俺と先輩の方に顔を向けてきた。


「柊くんと黒木さんもよろしくね」


「「はい」」


 俺と先輩は慌てて頭を下げた。


「えっと私は特撮番組の絵コンテライターをしているもので、泉浅子といいます」


 この方もオーディションの時にいた三十代の女性だった。もう一人いた別の芸能事務所の男性の自己PRや実技のときにくすくすと笑っていた印象が残ってる。


 ――しかし、絵コンテライターって何だ?


 俺が不思議そうな顔をしたのが分かったのか、


「ふふ、とりあえず掛けましょうか」


 北条監督が俺を見て笑みを浮かべたあと、皆をソファーにかけるよう勧めてくれた。ありがたかったので俺たちはその言葉に従った。


「でも知らなかったわ。レイコさんが新しくできたリアライズ芸能事務所の代表者をしていたなんて。藤堂グループはこういった事業には手を出さないと思っていたわ……」


「はい。そのつもりだったのですが……」


 そう言ってから北条監督が俺の方に視線を向けてくればレイコ義母さんも俺の方に視線を向けてくる。


 ――はて?


 二人がタイミングを合わせたように俺の方を向いてくる意味が分からないが、それよりも二人の口ぶりからして、二人が元々知り合いっぽいことの方が気になった。


「あの、レ……社長と北条監督はお知り合いなんですか?」


 せっかく二人から顔を向けられたので尋ねてみる。


「ええ……」


 レイコ義母さんの話によると、レイコ義母さんのお兄さんには奥さんが5人いるらしいのだが、北条監督はその中の一人の奥さんのお母さんになるらしい。


 ちなみにレイコ義母さんの実子である夏人と、北条監督の孫は同い年で、お兄さんの家でそのお孫さんの誕生会の時には、よく会っていたらしい。半引きこもり状態になりつつあった俺以外と……


「そうだったんですね……」


 ――聞かなければよかった。


 正直なところ恥ずかしくて顔が火照りそうになっていたけど、なんとか耐えたが、


 ――!


 もしかして、今回俺たちがオーディションに合格したのは実力ではなくてレイコ義母さんのおかげなのでは? そんなことをつい思ってしまった。でも俺のそんな考えが顔に出ていたのか、


「柊木くん。先に言っておきますが、私はたった今レイコさんがリアライズ芸能事務所の代表者だと知ったの。だからこれと、オーディションの件とは全く関係ないわよ」


 はっきりとそんなことを言われてしまった。疑ってしまって申し訳ないと思う。


「あ、いえ、そんなことは……」


「重要な役だったのよ。今回お二人を合格にしたのは純粋にあなたたちの演技を見て決めたのよ。

 特に柊くんの理解力、判断力、記憶力には驚かされました。もちろん容姿もね。でも特に容姿にこだわっていたのは浅子さんの方よね。ね浅子さん。ちょうどいいからそれを見せてあげて」


「か、監督。それは言わないで……うう。柊くんと黒木さんは私のイメージにぴったりだったんです」


 泉さんが両手で抱えるように待っていたノートを広げた。

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