第27話
朝、教室に入ると、一部の女子生徒の集団が騒がしい。
――浦山さんだっけ?
俺がその集団に目を向けていると、
「何だろうね。ちょっと聞いてくるよ」
コミュ力の高いサキは、そう言ってから浦山たちのグループに朝の挨拶を元気にしてから一人交じる。
「おはよ〜。ねぇねぇ、どうしたの」
「おはよ〜えっ、サキ。実はね……」
なんでもないように普通に会話に交っていくサキを見てると本当にすごいと思う。あれは尊敬できるレベルだ。
「あはは、サキ行っちゃったね」
そんなアカリの声を聞きながら、俺たちはさっさと自分の席に着く。着いてからアカリがナツミの方に身体を向けて雑談。俺もラノベ小説を取り出す。
――続きでも読もう……
一度だけ委員長と川崎さんから何を読んでいるのかと尋ねられラノベ小説だと答えたことがある。
もしかして二人ともラノベ小説が好きなのか? と一瞬期待したが話は広がらずそれっきりだった。二人は好きじゃなかったんだろうな……
――ん?
俺はマンガやラノベ、ゲームが好きだと伝えているか、逆に
こういうことは一度気になると、なんか気になってしょうがないんだよね。
「えっと、あのさ。今さらなんだけど、二人の好きなことって何かな? ほら趣味とか……」
「「え」」
雑談をしている二人に突然話しかけたものだから、二人は揃って驚いた顔を俺の方に向けた。
「いや、ほんとはサキにも聞きたいんだけど今はあっちにいるから……
サキにもアカリにもナツミにも、一度も聞いたことがなかったなぁと思って」
一度、浦山たちといるサキに顔を向け二人にそう言ったのだが、
「そ、そうなんだ……」
「う、うちは……」
二人は顔を見合わせて口籠り言葉に詰まっている様子。
そんな様子に俺は聞かなきゃよかったと思い、すぐになかったことにしようとした。
「いや、ごめん。やっぱり今の無しで」
そう言ってから開いたままだったラノベ小説に視線を落とす。すると今度はアカリとナツミが焦ったように身を乗り出してきて、
「いや、聞かれたら困るんじゃなくて……ちょっと、ヤマトこっち向いて聞くし……」
「そう、言いたくないわけじゃなくて、その少し恥ずかしかっただけなんだって」
そう言いながら俺の肩を揺らした。まあ、アカリとナツミの力が意外に強くて、俺は頭までがくんがくんと揺らされとても小説を読める状況じゃなくなったんだけど、それから二人は恥ずかしそうにしながらも趣味について教えてくれた。
ナツミの趣味は手芸で、今はラップブレスレット作りにハマっているのだと、腕に巻いているブレスレットを見せながら話してくれた。長めに作ってチョーカーとして使ったりもするんだとか。
サキやアカリがつけていたのもナツミの手作りらしい。「すごい」と褒めていたら、今度は俺の分も作るって張り切っていた。お揃いを作りたいんだとか。
次にアカリだけど、趣味はDVD鑑賞だと教えてくれた。意外にも普通でどうして恥ずかしがったのだろうと首を捻っていたら、ナツミが俺の耳元でこそっと「アカリは筋肉が好きなんだし」と教えてくれた。
まあ、そのことはすぐにアカリにバレてナツミの秘密その2『実はお化けが怖い』と言うことを涙目で打ち明けていた。まあ、アカリはそれも知ってるって言ってたな。
しかしアカリは筋肉が好きらしいけど、一体どんなDVDを観ているのだろう。少しだけ気になった俺。
「何なに、どうしたの?」
そこでうまく情報を仕入れてきたらしいサキが戻ってきたんだけど、
「趣味? あたしはヤマトっちだよ」
とさらっと変なことを言ってから、
「それで浦山たちに聞いた話はね……」
すぐに話題は浦山グループで聞いてきた話に移った。趣味が俺って何? と一瞬思ったけど、その話が徳川たちの話だと知って俺の意識もそちらに向く。
「なんかさ、浦山たちの話もごちゃごちゃしててどれが本当の話なのよく分からなかったんだけど、今噂になっているのは徳川と本田が転校するらしいってことかな……」
それからいつまでこの学園にいるのかとか、どうして転校するのかとか、信憑性に欠ける話ばかりで、そうこうしている内に担任のハゲてる先生が教室に入って来て朝のホームルームが始まった。
ちなみに徳川は休みだった。
――――
――
その日の放課後。
「ねぇねぇヤマトっち。テストも終わったしさ、みんなでカラオケに行こうよ。パーと騒ごうよパーっと」
「ヤマトどうかな?」
「うちヤマトの歌聞きたいし。今日はうちたちでヤマトの分は奢るし」
「そうそう。だから行こうよ」
今まで誘われなかったのが不思議なくらいだと思ったが、彼女たちはアパート暮らしで自炊している。コツコツやりくり倹約して月に一回か二回行くことができるらしい。
見た目ギャルだけど彼女たちはりっぱな倹約家だった。やはり人を見た目で判断してはいけない。
「分かった、けど……俺、実はカラオケに行ったことがないんだ……」
そう地味偽装していた俺には友だちがいないからカラオケなんて行ったことがない。
一応家にはカラオケルームなんてモノがあって業務用の通信カラオケが設置してあるから最新曲もバンバン歌えるんだけど……
俺は憂さ晴らしだから付き合ってくれと父さんに誘われた時にたまに使うくらいだった。
――ん?
そこでふと気づく。俺の家で歌えばお金なんて要らないことに。その分お菓子やジュースを買っていけばいいのではと。
「あ、ちょっと待って少し聞いてみる」
「へ? あ、うん」
「誰に?」と言いだけで少し戸惑った様子のサキを尻目にそれから家族のグループチャットにLIFEを送る。
その内容は友だちと一緒に家のカラオケルームを使っていいかという簡素な問い。そのLIFEに、
《家族の部屋》
メグミ:いいよ。
レイコ:いいわよ。
サクヤ:使っていいわよ。
カナコ:もちろんよ。
すぐに母さんたちから、しかも四人同時にそう返事が届く。
ヤマト:ありがとう。
俺はそう返事して、それでLIFEも終わりにするつもりだったのだが、
メグミ:彼女?
レイコ:当然彼女よね?
サクヤ:彼女さん連れてくるのね?
カナコ:もちろん彼女さんよね?
ピロピロピロピロンと母さんたちから、またしても四人同時にLIFEが届く。
――ええ、これ返さないといけないやつ……?
俺が返事をしないでいると「早く答えなさい」と催促の嵐。
――はあ、やっぱり返さないといけないんだ。まあ、どうせ母さんたちには俺が彼女ができたこと話しているしな……
俺は面倒だと思いつつも仕方なく返事を打つ。じゃないと後が怖くなる。
ヤマト:そうだよ。
メグミ:お、やるね。人数は?
レイコ:やるじゃないヤマトくん。それで何人なの? 六人? それとも七人?
サクヤ:一人じゃなのよね?
カナコ:ヤマトくんなら四人くらいかな?
そんな返事が返ってきて余計に面倒になった。レイコ義母さんなんて多すぎだし。
――いい加減終わりたいんだけど……
いつまでこのLIFEを続けなければいけないのかと俺がそう思っていたそんな時だ、
タケル:ヤマト、俺も一緒に歌ってやろうか?
メグミ:それはダメよ。
レイコ:タケルくん。今夜はお説教ね。
サクヤ:ダメに決まってるでしょ。
カナコ:タケルくん。それ笑えないよ。
思わぬ父さんのLIFE参加でうやむやになり助かった。
ただ矛先になった父さんは後で大変なことになるだろう(今までの経験から)、だからありがとうと父さんの個人チャットに送っといた。
すると父さんから「俺に栄養補助食品を買っといてくれ」との言葉にペコペコ頭を下げるおじさんスタンプが添えられて届いた。
だから俺も「分かった」と猫がペコリと頭を下げているスタンプを送る。
父さんからのおじさんペコペコスタンプはかなりまずいって合図だ。栄養補助食品は必ず買って帰ろうと思った。
――――
――
「待たせてごめん」
俺が家族にLIFEを送っている間に談笑していた彼女たち。いつの間にか委員長と川崎まで加わっていた。
「あ、ヤマトっち終わった。それで行けそう?」
サキのそんな声に彼女たちの視線が一斉に俺に向く。皆が皆、断ったらダメだよって雰囲気を向けてくる。まあ断らないんだけど。
「ああ、うん。大丈夫だったんだけど。そのカラオケってさ、俺の家でどうかな? 家にはカラオケルームがあるんだけど最新曲もちゃんと歌えるようなってるんだ」
「「「「「え?」」」」」
俺がそう言うと彼女たちは揃って固まるというか反応が薄い。
――あれ……?
俺の伝え方がまずかったのだろう。そう思いもう少し詳しく話してみるが、
「ほら、家だとお金もかからなくて歌い放題だから、その方がいいかなぁと思って家に確認したんだけど……」
それでも彼女たちの反応が薄くて俺の言葉はだんだんと尻すぼみになってしまった。
「「「「「……」」」」」
そしてとうとう皆の反応の薄さに耐えきれなくなった俺は、思わずやっぱりやめようと伝えようとしたその時だった。
「……嫌なら……」
「……行く! ヤマトっちの家行く」
身を乗り出したサキが勢いよく返事をする。
「私も行く」
「うちも」
「わ、私もいいかな……」
「アキが行くなら、私も行きたい」
するとそれを皮切りにアカリやナツミ、さらに委員長に川崎までも俺の家に来ることに決まった。
そして、学園の玄関では、
「あ、ヤマトくん。昨日はありがとう」
なぜか俺の名前を呼ぶ黒木先輩がいた。先輩は俺たちにお礼を言いたかったらしい。だから先輩は、
「それにサキさん。アカリさん。ナツミさんも昨日は相談に乗ってくれてありがとうね」
サキ、アカリ、ナツミにもお礼を言っていた。
委員長と川崎は蚊帳の外なので、頭に疑問符が浮かんでいたが、委員長は突然ハッと何かを察したように自分のスマホを眺めてから一人納得したあとに川崎にも何やら伝えている。
委員長も意外と勘がいい。俺たちの繋がりを察したようだ。
「それでヤマトくん。後で少し時間いいかな? 伝えておきたいことがあって」
たぶんオーディションの件だろうと思い俺は頷く。
「分かりました」
そらから俺の家に向かっているのだが、
「あら、どうかしたのヤマトくん?」
なぜか付いてくる黒木先輩。俺が視線を向けると先輩は不思議そうに首を傾げる。
「いえ、その先輩の帰る方向はこっちなのかなぁ、と思って……」
「違うわよ」
違うのに先輩は俺たちに付いてきているらしい。俺の疑問は募るばかりだったが、不意に先輩が、口元に手を当てておかしそうに笑った。
「ふふ、ははは……」
これには俺以外にもサキやアカリ、ナツミ、委員長や川崎、皆が首を傾げる。
「社長から……ふふ、今日はヤマトくんについていくと勉強になるって言われたのよ、ふふ、黙っててごめんね」
先輩はそう言ってから謝まっているが、まだ顔が笑ってる。
――うーん。先輩の笑いのツボがイマイチよく分からない……
よく分からないが、どうやらこれはレイコ義母さんの仕業だったらしい。
それだとこちらにも非があるので何とも言えない、というかレイコ義母さんが先輩を振り回しているのだから、断然こちらの方が悪い気がしてきたのでとりあえず義母さんの代わりに俺が頭を下げておこう。
「こちらこそ義母さんがすみません」
それからお菓子とジュースをコンビニで買いしばらく歩くと家に着く。
「ここだよ」
俺がインターフォンを押して中から門扉のロックを外してもらい振り返ってみれば、
「ここがヤマトっちの家」
「うそ……」
「豪邸」
「……」
「うわぁ……」
彼女たちは揃って口を半開きにして家を見上げていた。
彼女たちは俺が初めて連れてきた友だち。その顔が引っ越してから初めて訪れ驚いていた自分と重なりなんだか懐かしかった。
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