第2話

 それは俺が小学生時代……


 自慢じゃないが、俺は勉強やスポーツ、やればなんでも人並み以上にできた。


 小学生時代なんて足が速いだけでもモテる、しかも俺は顔がそこそこよかった(自称)から、クラスでは常に女子に囲まれてチヤホヤされていい気になっていた。


 まあ、そんなんだから男子からは嫌われ男友達なんて一人も居なかったけど。


 女子の友達がいるからいいだろう、そう思うだろうが、それもちょっと違う。

 というのも俺を囲む女子達は常に互いを牽制しあっていてギスギスしていた。非常に居心地が悪かった。


 何度かあった中でも今でも心残りが、ある一人の女の子と親密になりかけたんだけど、次の日からその子だけが、仲間外れになったりいじめられたりしていたらしく、俺が気づいた時には、その子は他の学校に転校した後だった。

 気づいてやれなくて悪かったなと今でも時々思い出す。


 まあ、そこなことが大なり小なり続けば俺の心も荒む。その頃は毎日が憂鬱で面白くもなんともなかった。


 けど、それがある時から変わった。俺にとっていい方向に。


 それは少子化問題がより深刻化した時期、これまで打ってきた政策が実を結ばず、国はかなり追い込まれていたらしい(あとで両親に聞いた)。


 増える高齢者に独身貴族、進む晩婚化、年々低下し続ける出生率と日本人の人口。


 国はその打開策として思い切った政策、一夫多妻制、一妻多夫制を導入した。


 当然、批判の声は数多く上がったらしいけど、意外なことに成果はわりとすぐに表れ、結果が伴えば批判の声も減る。定着するにもそう時間はかからなかった。


 信じられないだろう。だが本当。これが働き方改革、育児や介護の両立などにも繋がったことが大きいのだろう。


 その理由として、働き続けたい女性もいれば主夫になりたい男性もいる。

 子どもは欲しいが男に束縛されたくない女性もいる。

 家庭的な者がいればその逆もいる。子どもが好きな者がいればその反対も。自分の時間を大切にしたい者だっている。異性が好きな者がいれば同性が好きな者もいる。


 一妻多夫制、一夫多妻制は強制ではないが、それらの不安を全て払拭、とまではいかないまでも、かなり改善することになった。


 極め付けは多方面をシェアし合うことで、世帯収入が増え生活が安定したこと。


 この効果は非常に大きく、悩みを補える共有しあえる相手が増えたことで子育てに対する精神的不安、子どもの将来に対する不安が軽減され出生率増加に繋がった。後押しする補助金や手当てなどもあるらしいけど、俺は知らない。


 そして俺の家庭もガラリと変わった。


 ほぼ毎日のようにうちの家に遊びに来ていた両親の同級生、母さんの親友が三人いたんだけど、その親友の三人が俺の義母さんになった。


 いやぁ、あの時は驚いたけど、家族になれて母さんと義母さんたちは手を取り合って喜んでいたから俺までうれしくなったものだ。よかったと思う。大変なのは父さん、経済的にじゃなく夜の方、少し細っそりしたかな?


 それに何気に義母さんたちの会話は楽しいし俺も救われた。その時の会話が、


『ヤマトくんは、タケル(ヤマトの父)くんに似て顔立ちが整ってるから、これから大変ね、というか今も大変?』


『そうなのよ。だからこの子、友だちの一人も作れていないのよね』


『あーそうか、タケルくんもすごかったもんね。何か力になってあげたいけど……』


『んーそうだわあれよ! タケルくんは地味な格好して素顔を隠していたわ』


『そうね。たしかタケルくんもヤマトくんと同じようなことで悩んでいて、そんなことしてたわね』


『懐かしいわ。顔じゃなくて俺自身を見てくれる人を探してるんだって、ふふふ、そこで私たちのグループと仲良くなったよね』


『そうそう懐かしい。でもほんと皆とこうして一つの家族になれてほんと嬉しいわ』


『それは私が一番思ってる。皆が一歩引いてくれたから、私だけがタケルと結婚して……』


『はいはい。そこ、過ぎたことで暗くならない。今はもう私たち家族でしょ』


『『うんうん』』


『皆ありがとう』


『あ、ヤマトくんだけ、除け者にしてごめんね。えっとそれでね。ヤマトくんも地味な格好してみる?』


『そうよ。ヤマトそれがいいわ。ちょうど新しく家を建てることになったから、この校区から離れて、新しい学校に通うことになるんだから……え? 今初めて聞いた。まあまあ小さい事は気にしちゃダメよ』


『ヤマトくんも、上辺だけじゃない、ヤマトくん自身を見てくれる素敵な人に出会えるといいわね』


『きっと大丈夫よ。タケルくんだって出来たんだもの。きっと素敵な出会いがあるわ。私たちみたいにね』



 学校生活がうんざりしていた俺は母さんたちの提案に乗った。転校を機に今の姿、地味な姿になったんだ。


 するとどうだ、俺の取り巻く環境は一転した。男子はもちろんのこと女子からも相手にされなくなった。なんだかうれしくなった。うれしく思うってことは俺の心は相当病んでいたと思う。


 一人だと学校生活は意外なほど過ごしやすく。他人に気を遣わない遣われないで楽だった。


 まあ、一人の時間が増えたから一人でも楽しめるゲームや漫画、ラノベにハマってしまったんだけど、それはそれで楽しかったから俺に後悔はない。


 ちなみに引っ越し先は、想像以上に豪邸で義母さんたちって何してる人? と思わず尋ねてしまった。笑って誤魔化されたけど。


 その翌年(小六の頃)には実弟一人と異母弟三人、春人、夏人、秋人、冬人、の計四人の弟が、さらにその翌々年(中二の頃)には実妹一人と異母妹三人、雪子、月子、風子、花子の計四人の妹ができた。大家族。皆父さんに似てるって喜んでたし、非常に仲がいい。


 ――――

 ――


 地味な姿をしてから初めて向けられる熱い視線。頬を染めているギャル三人が何かを期待するかのように俺を見ている。


 ――んで、これが母さんたちが聞かせてくれ状況なんだろうか? いや違うな、橘は勘って言った。俺のことを気にかけてってことじゃない。たまたま、

 だもんな……んー、これはどうしたらいいんだ。


 俺の感覚が狂ってなければ少なからず好意をもたれてると思う。まだ女子に囲まれていた小学校時代、その時の女の子たちから向けられていた視線に近い。


 少し前まではからかわれ、変態扱いされてたんだよな。

 どうしたものかと思い悩んでいると橘が慌てた様子で口を開く。


「ま、まあ、ヤマトっち。細かいことは無しにして、席も近いんだし仲良くやろうよ。あたしのことはサキって呼んで、というか呼んで欲しいな、へへへ」


「そ、そうそう、なんならわたしたちの仲間入りなよ、わたしはアカリね」


 と田中が言い切ったそばからそっぽを向き、ちらちらと俺の反応を気にしている。


「も、もちろんうちのことはナツミって呼んでいいわ。っていうか、ナツミって呼ぶのよ」


 先ほどまでと明らかに口調が違う鈴木。冷たい印象だっただけにより顕著だ。でも恥ずかしいからって何度も脚を組み直すのはよくない。下着がちらちら見えるし気になるが、さて、ほんとどうしよう。


「えっと……また今度で?」


「えー」「ちょっと」「なんでよ」


 彼女たちはまだ何か話したいようだったけど、ちょうどタイミングよく担任の先生が教室にきて、ホームルームが始まった。ナイス先生。

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