第31話
「こっちから行くぞ!」
先手必勝。
速度を乗せたまの拳で半ばタックルをするかのように、カナンの腹に拳を叩き込む。
それけで、カナンの腹には穴が空いた。
だというのに。
「フハハハ」
この魔人は笑っている。
俺とカナンの間に吹き出た炎から距離を取る。
次にカナンを見たときには腹の傷はなくなっていた。
「俺と同じってことかよ。不死身同士の戦いなんて不毛じゃないか?」
「そうはならんさ。我の再生は魔力が尽きるまでだ。永遠の再生など存在せぬ」
俺は多分永遠だけどな……。その言葉は飲み込んで、再度カナンに飛びかかり打撃を叩き込む。
手刀、拳、蹴り、俺ができる全ての打撃をがむしゃらに叩き込んで、再生を誘発させる。こうして戦っておけば、いつかは相手の魔力はなくなるはずだ。
しかし、こちらが優勢のはずなのに不安が拭えない。
カナンは先程から殴らればかりだ。受けの技、回避の技は使っているが攻撃は全くしてこない。
「……やはり汝は自らの弱点には気づいておらぬようだ」
「なッ!?」
突き出した拳がカナンに掴まれた。そのまま関節を取られ背中まで捻られ動けなくなる。
完全に捕らえられた。このままでは動けない。どうにかして抜け出さなければ。
「先程の復活では時間が経っていたのにも関わらず、息が切れていた。汝の再生は致命傷を再生できても、体力までは再生できぬようなのでな。こうして無闇に攻撃をさせ体力が尽きるのを待っていたというわけだ。……さあ、復活できぬ程に燃やし尽くしてやろう。『業火』!」
カナンの掌から伝わる炎が勢いを増し、俺を燃やしていく。カナンが手を離した後も、その炎は消えずに俺の体を灼き尽くしていく。
「ぐあああああああああああああ!」
「もはや何をしようと、その炎は消えぬ。我が『悔炎』の炎は罪を灼く炎。汝が死を迎えるまでその炎は消えぬ」
肉が、体が焼かれ崩壊していく。
――ああ、もうダメだ。
諦めて、目を閉じよう。……足音が聞こえる。足音が俺から離れていく。カナンが俺を倒したと思ってこの場を去ろうとしているのか。
倉庫に使われていた材木が焼け落ちる音がする。既に炎は倉庫を飲み込んでいるようだ。
ティオネやリーシェはもう逃げただろうか。炎に飲み込まれていなければいいが。
いや、生き延びていてもカナンに魔人にされてしまうか……。
それは嫌だな。
ああ、嫌だ。
みんなが死ねば俺はまた孤独になるのか。あの遺跡の中に居た時と同じように。
脚を引きずり腕を持ち上げる。
体中が痛い。呼吸をする度に肺に炎が流れ込み内側から体を焼いていく。
再生していくそばから皮膚が焼かれ消失してく。
めちゃくちゃ痛い。気を抜けば意識が飛びそうなほどに。
それでも。
「なっ!何故動ける!」
立ち上がり、カナン燃え盛る拳をカナンに叩き込む。
「痛みなんて……『歪み』のせいでもう慣れてんだよ。それに、俺がお前を倒さなきゃ、この街の人を守れねえだろうが!」
殴る。殴る。殴る。ただひたすらに殴る。
『歪み』から変換した魔力が尽きれば、体の底から『歪み』を引きずり出し、拳に纏って殴りつける。
カナンが俺を燃やしてこようが、腹を手刀が貫通しようが、
今ここで。この魔人を倒せなければ、街の人はお互いを殺し合って死ぬ。この魔人のせいで、何人もの人が死んでいる。
俺が自分の手にかけてしまった人々もいる。
だから。この魔人だけは絶対に倒さなくては。
「くっ、うおおおおおおお!負けぬ!天命を!王命を果たすまでは、我は負けられぬ!」
ただ大量に浴びせられる拳の雨を縫って、カナンが炎で強化された武技を繰り出す。
『歪み』で黒く光る拳と赤く燃える拳の応酬。俺の耐久力とカナンの魔力を互いに削っていく。どちらが倒れるにせよ、確実に終わりは迫っていた。
ノーガードで互いに最大威力の攻撃を喰らわせ続ける。俺の体も、カナンの魔力も既に限界を迎えていた。
永遠に続くかと思われた不死身同士の戦いの終わりは、あっけなかった。
先に体力が尽きたのは俺だった。俺はふと膝から力が抜け、崩れ落ちた。
この場に他に誰かが居たなら、どう見ても俺の負けだと言うだろう。しかし、その時の事実は違った。
崩れ落ちた俺は偶然にもカナンの最大の力を込めた拳を躱し、圧倒的に有利な状況を作り出していた。
片膝をついたまま俺は、訳がわからない内に最大限に強化した拳を叩き込んだ。
ドス黒く光る拳がカナンの体を貫いていた。
もう修復はされない。カナンの魔力が尽きていた。
「終わった……か」
……疲れた。体中から血が吹き出ているのが分かる。少しだけ、気を失いそうだ。
どさり。カナンの体が倒れたのを見て俺も倒れた。
もはや、何も見えない。
ああ、倉庫が燃える音がする。
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