第23話

 ギルドに着いた俺達は掲示板の前で今日の依頼を決めていた。


「これなんかどう?」


 ティオネが掲示板に貼ってある一枚の依頼書を指す。

 内容は……街はずれの草原で魔物が出たから狩ってほしい?


「う~ん。最近同じような依頼ばかり受けているな」


「しょうがないでしょ。今はハイルのランクにあってる依頼は出ていないみたいだし、来るのが遅すぎたみたいね」


 周りを見ても、すでにいつも酒場で飲んでいるような連中もほとんど出払っているようだ。俺達も大抵は朝早くに依頼を受けて、昼に帰ってもう1つ依頼を受けるか買い出しにいくのが定番だから、朝とも昼ともいえないような時間にギルドに来たのは初めてだ。

 仕方なくティオネが指した依頼書を取って受付に持っていこうとすると、受付のお姉さんが向こうからやってきた。


「ハイルさん、おはようございます。今日は遅かったですね」


「ああ、お姉さん。今日は朝にちょっと用事があったので。何か俺に用ですか?」


「はい。ハイルさんに、こちらの依頼を受けて頂きたいんです」


 お姉さんは1枚の依頼書を出して俺に渡してきた。

 内容は、隊商の護衛で西にある山を越えたさきにある街までか。

 しかし、こういった護衛の依頼は通常ならば俺よりも高いランクか、俺と同じランクでも大所帯でパーティーを組んでいる冒険者に回される仕事のはずだ。


「この依頼を俺に?」


「そうですね。普通こういった依頼はハイルさんよりも経験を積んでいる冒険者に回しますが、今回は依頼者からの指名がありました」


「指名?一体どうして俺を指名なんて……」


「それは分かりません。ただ、依頼主の方はこの街に支店を持っている商会の支店長です。その方は是非、このシルバーフォート史上最速でDランクになった冒険者に受けてもらいたいと仰っていました」


 俺に目を掛けてくれそうってことなのか?俺は相手の事を何も知らないけど。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、ティオネが耳打ちしてきた。


「ハイル、よく見なさい。この依頼の報酬」


 ティオネに言われた通り、依頼書の報酬欄を見てみると、そこには俺が1カ月かけて稼いだ金額の倍以上の報酬が記載されていた。


「受けます」


 気付いた時には俺は承諾の返事を返していた。

 我ながら現金な奴だと思う。

 出発の日付は明日だというので、今日は明日の準備のために色々買ったりすることにした。


 そうして次の日、俺達は隊商の人達と街の外へと続く門で待ち合わせていた。

 俺達が集合場所に行くとすでに彼らは準備をしていて、馬のような生物が引く幌馬車に荷物を詰め込んでいる。

 見た目も馬っぽいが、なんか異様にデカい。これが俺の知っている馬かどうか怪しいが、世話をしている人も馬と言っているし、馬でいいのだろう。多分。

 集まっている10数人の人の中から、指示を出している、金色の髪を男性に話しかける。


「おはようございます。冒険者ギルドから来ました。護衛役のハイルです。こちらは相棒のティオネです」


「よろしくね」


 男性は俺達が話しかけると、振り向いて挨拶を返す。その動作はどれも機敏でなんだか全体的に真面目な印象を受ける。


「おはようございます。ハイル様とティオネ様ですね。異例の速さでの昇進についてのお噂はわたくし共の耳にも入っております。わたくしは、オーディス商会シルバーフォート支店貿易部長トレ・ハマニクスと申します。本日は急にも関わらず依頼をお引き受けして頂き誠にありがとうございます」


 彼は息をつかずに言葉を放ち、そして一度呼吸をしてから、再び早口で話始める。


「申し訳ございませんが、出発には今少しの時間がかかります。少しの間お待ちください。……おい!何をしている!」


 行き成りハマニクスが大きな声を出したと思うと、1人の作業員を指さしていた。

 どうやら、作業員の1人が荷の入った木箱を落としてしまったようだ。

 ハマニクスはその作業員に近づき、何か小声で叱って、再び戻ってきた。


「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。私は今回の隊商には参加いたしませんので、部下達をよろしくお願いします。それでは失礼致します」


 ハマニクスが去って、代わりに部下がやってきて今回の行き先や護衛中の注意点などを教えてくれた。

 彼はオーディス商会に仲間と一緒に護衛として専属で雇われているそうで、今回は俺に色々教えてくれるそうだ。

 今回は彼らが先頭と最後尾を守ってくれるらしく、俺達は丁度真ん中の馬車に乗って待機することになった。


 そうして、説明が終わり俺達は山を越えた先にある街へと出発した。

 これから行く街は、特産品やこれと行った特徴が少なく、シルバーフォートへの交易のための補給路として存在しているらしい。そこもグリーンバレー領の端っこで、クリスティアの管理する街の1つだという。


 街から出て3時間ほどで、街が遠く小さく見えるほどに離れ、段々と街から遠くに見えていた山が近づき坂道が増えてきた。

 驚くほどに何もなく、隊商の人達も俺達を見てこそこそ喋るばかりで、こちらから話しかけても適当に話を打ち切られる。

 あくびをしながら、そういえばシルバーフォート以外の街へ行くのは初めてだと考えていると、ティオネが近づいて耳元に口を寄せた。


「ねえ、さっき出発の前に作業員が木箱を落とした時、中身を見た?」


「いや、見てないけど……」


「木箱の中身は武器だったのよ。おかしくない?」


「何が?」


 何もおかしくはないだろう。事前になぜか、アーバー(ギルドマスター)から受けた説明でオーディス商会は武器やアーティファクト、食料品や衣類、雑貨なんでも扱う商会だと聞いていた。

 だから、武器が運ばれていようとなんの問題もないのだ。


「……あんたって時々すごい頭が悪いんじゃないかって思うわ」


「なんだと?そんなことはない……あるかもしれないな。それで、結局何がおかしいんだ?」


「認められると反応に困る……。アーバーが説明の時に、街の中の武器の数が少なくなってるから、商会に武器を発注したら在庫がないと言われたってボヤいてたでしょ?それなのに、何故か武器を街から運び出して行ってるはおかしくない?」


 確かにそれは変だ。確かにアーバーはそんなことを言っていた。

 そういえば、何かもう1つ言っていたような……。

『この指名依頼は何か不自然だ気をつけろ』だったか?

 言われた時は考えすぎだろうと思って気にしていなかったが。


「なあ、ティオネ。やっぱり怪しいな。この隊商……」


 俺がそう言って、御者と少し話をしようと立ち上がった時だった。


「うぉっ」


 馬車が急に止まり、木箱とティオネが転がる。俺は少しよろけたが踏み留まった。

 何があったのかと馬車から顔を出して御者に聞こうとした時、大声で誰かが叫んだ。


「待ち伏せだ!敵がいるぞ!」

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