第15話
鳥の声が聞こえ、光が顔を照らす。目を開いたら朝だった。
「俺……もしかして眠っていたのか?」
本来ならあり得ないはずだ。
俺はあの老神のせいで、200億年も気絶も眠りもなくなるような呪いを掛けられていたのだから。
それが、固いベッドの上で寝転がっていたら、いつの間にか眠っていた。
どうやら俺の体は、あの遺跡を出たことによって変わりつつあるらしい。今更普通の人間に戻りつつあることが、俺にとって良い事なのかどうか……。
「……考えても仕方がない。とりあえず朝食取って仕事に行こう」
むにゅ。
ベッドから降りようと手をつくと、何かが手に触れた。
一体何かと目を向けると、そこには信じられないものがいた。
「ん~。何、もう朝?まだ眠いのに~」
身長1mほどの少女が俺と同じベッドでうつぶせに眠っていたのだ。
俺の手が少女の背中に当たっていたらしく、少女は顔を上げると、茫然としている俺の手をはねのけて起き上がり、伸びをした。
銀色の神秘的な髪に薄灰色の目、透き通る肌、白いワンピースみたいな服を着た少女は神秘的だ。まるで……。
「まるで妖精みたい?その通り私は妖精よ!」
「いや、子供を誘拐したみたいになっているなって……」
「なんでそうなるの!私はちゃんと大人よ!」
自称妖精の少女の拳は鋭く弧を描きながら俺の腹に突き刺さった。別に痛くなかった。
少女は拳をさすりながら、少し涙目になっている。
「あなた、どんな腹筋してるのよ。殴ったこっちの手が痛いわ」
「なんかごめん。ところで君は一体どこから来たんだい?お父さんやお母さんはどこ?人の部屋に勝手に入っちゃいけないよ」
少女の頭をなでながら両親の場所を尋ねる。
このままここに居られたら、最悪俺は変質者扱いで逮捕されかねない。この子には早く親の元へ帰っていただかないと。
「だ・か・ら!私は子供じゃないの。私は妖精のティオネ。妖精に親なんていないし、帰る所もあんたに壊されたから無くなったっての!」
「妖精……ってなんだ?そもそも俺が君の家を壊したって、どういうことだ?」
話がまるで分からない。とりあえず、暴れる妖精ティオネをなだめて話を聞こう。このままでは騒ぎを聞いて、誰かが部屋の中に入ってくるかもしれない。
昨日買っていた菓子や軽食を与えると、落ち着いたようでアメを舐めながら事情を説明し始めた。
「私は、昨日まで森の樹木の妖精として平穏に暮らしていたの。森の動物と色々しながら楽しくね。でも、それもあんたのせいで全て台無しになったのよ!」
「俺のせい……もしかしてあの爆発のことか?」
「そうよ。あんたが森の半分を破壊したせいで、私の宿っていた樹木も巻き込まれて消失したわ!まあ、私はなんとか避難できたけどね」
ティオネはアメを飲み込んで、次のクッキーに手を伸ばす。本当によく食べるやつだな。この妖精は。もう俺の買った菓子はほとんど残っていない。
「そうか。それで俺の元に復讐しに来たのか?悪いが俺にしてやれることなんて何もないが……」
「それは知っているわ。昨日寝ているあなたの魔力を頂いたときに記憶を読んだもの。まさか異世界人で不死身なんてね~」
菓子をおいしそうに頬張っているティオネの表情は緩み切っている。さっきまでの怒りの形相が嘘みたいだ。
「全部知ったうえで、ここで眠っていたのか。それなら一体何が目的なんだ?」
ティオネはベッドから降りると、ふわりと空中に浮かび部屋の中を飛び回った。
「私達妖精が生きていくには魔力が必要なの。普通の人間では、まかないきれないくらいに膨大な魔力が。だから、大抵は森や火、水といった自然やその他の概念に宿って生きているの。でも、それは1つの場所に縛られるということ。精霊魔法で人間と契約すれば、色々な場所に呼び出されるけど、それは一時的に本当に短い間だけ。私が欲しいのは、本当の意味での自由」
黙ってティオネの言う事を聞く。
魔力で形成されている半透明の羽が、朝日を反射して輝いている。
「だから、私はあなたに宿ったの。これからよろしくね、ハイル」
振り返ったティオネは衝撃的な言葉を放った。
俺に宿る?妖精が?もしかして、この小さな女の子がこれから先ずっと、俺についてくるのか?そんなの傍から見たら本当の変態にしか見えないじゃないか。
「そ、そんな勝手に。俺はまだ許可した覚えはないぞ。それに俺には何の得もないじゃないか!」
「あるわよ。例えば、扱いきれていない膨大な魔力も、私が補助して上げればもう少し上手に使えるようになるし、私の属性が『空』に変わったから異空間に物をしまっておけるようになるし」
確かにいいことづくしだ。俺もあんな大爆発なんて二度も起こしたくはないし、異空間に物をしまえるようになるのも、よく分からないが便利そうだし。
「というより~。あなた私の住処を壊しておいて、何もしないつもりなの~?」
「ぐっ、そこを突かれると痛いな……。分かった。これからよろしくな。ティオネ」
「やった!それじゃあ手を出して」
俺は言われた通りにティオネに手を差し出す。差し出された手をティオネが握ると、何か暖かいものが流れ込んでくる感覚がする。
「これで本契約完了!これから私とハイルは精霊契約で結ばれた相棒だよ」
さて、昨日から大勢の人々に会ってきた。俺を仕事上のパートナーとして扱った人、警戒していた人達、警戒しながらも親切に案内してくれた人。
しかし、旅の仲間、相棒と呼べるような人はこれが初めてだ。
俺達はお互い笑みを浮かべ、そして今日を始めるために外へ出た。
「おはよう。様子見に来たよハイル!……まさか本当にヘンタイだったの?」
訪ねてきてくれたリーシェに、また勘違いをされてしまった……。
この展開、初めて会ったときにもやったよな?
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