第14話
フレイと分かれてから、1時間くらい街の中を散策しながら外へ出た。
アーバーから持たされた金で食べ歩きとか冒険用具の購入とかしたんだが、その話はまた今度にしよう。
出ていく際にも少しだけ門番に、荷物を調べられた。そんな怪しい格好をしていたかな。
「ちょっと迷ったが、ようやく森についたな」
そうして、俺は依頼のミドリ草があるとされている場所までやってきた。門から少し離れた場所にある森で、月に照らされた綺麗な森だ。
「さー、依頼のミドリ草とやらはどこだ」
依頼書に描かれている絵を見比べながら、草むらをかき分けて薬草を探しているのだが、なかなか見つからない。もう夜だし見通しも悪くて、ほぼ何も見えないし仕方ないか。
「こうも見つからないとなると、他の方法を試してみるか」
深呼吸をして、空気を肺から換気する。
「森の空気が新鮮だ~……じゃない!今は仕事中だ」
もう一度、深呼吸をして集中する。体の中の魔力を感じ取り、体全体から少しずつ放出する。イメージはソナーだ。体から放出した魔力で空気を揺らして、感覚を強化した皮膚で読み取る。名付けてマジック・ソナーだ。
最初の内は、揺れが激しく何も読み取れなかったが、だんだんと収まっていく。
「よし、完璧だ」
今の俺にはこの森全体の様子が見て取れる。土も草も木々のざわめきも。
そして……。
「グルルル……アオーン!」
俺に寄ってきたオオカミの群れも。
一見するとただのオオカミだが、俺にはその違いが手に取るようにわかる。
その脚は一度組み伏せられれば二度と抜け出せず、その毛皮は磨かれた刃でさえ通さない程に硬いだろう。
つまり、捕まったら終わりということだ。
「いや、落ち着いている場合じゃないだろ!まずい、逃げろ!」
俺は踵を返して走り出す。お前の筋肉は見せ筋かって?しょうがないだろ、戦闘なんてやったことないんだから!
「グルルッ!ガウッ!」
俺の逃げ出した方向へと3匹のオオカミが回り込んできた。まずい、変に冷静に分析していたせいで、初動が遅れた!
足を止めた俺を見て、後ろから一匹のオオカミが俺に飛びついて押し倒した。
そのまま、首に噛みつき俺は意識を失った……。
なんてことはなかった。
首からは血が飛び出ているが、オオカミが噛み千切った部分から即座に再生していく。激痛は走っているが、そもそも俺はあの地獄のような苦しみを耐えていたんだ。この程度なら大したものではない。
だが、おそらくこの時の俺はパニックに陥っていたのだと思う。噛みついているオオカミの獣臭い吐息、勝利宣言のように遠ぼえを挙げるオオカミ、そしてマジック・ソナーによって増えた普通ならあり得ない程の情報量。
だから、俺は無我夢中で叫び、マジック・ソナーで放っていた魔力を全開にしてしまった。。
「誰か助けてくれー!」
その声と共に、俺の体を中心に爆発が起きた。
「ギャウッ!?」
俺の首に噛みついていたオオカミが真上に吹っ飛んだ。俺はまるで周囲に空気の膜ができたように浮いて、そして次の爆発が始まった。
轟音と閃光が周囲に広がり森を包み込んでいく。
そうして、全てが収まり俺は辺りを見回した。
「嘘だろ……?」
周囲にいるオオカミたち、森の草木など森を構成するすべてが消し飛んでいた。
まるで爆心地のように、俺を中心に円形に森がえぐれていた。
あんなに見通しの悪かった森が、森の中心から入口まで貫通してしまった……。
「と、とりあえず……採取を終わらせよう」
俺はマジック・ソナーで確認していた位置まで、ミドリ草を取りに行った。
「おや、どうしましたかハイルさん。もうカウンターは閉めるところなんですが。……今、採取に行ってきたんですか!?大丈夫でしたか!?ハイルさん!」
依頼完了の報告をしにカウンターにミドリ草を置くと、受付のお姉さんがカウンターから身を乗り出して心配してきた。
「あ……はい。大丈夫です。ミドリ草採取してきました。そんなに心配するなんて、何かあったんですか?」
「ハイルさんが採取に行った森で原因不明の大爆発が起きたと、連絡があったんですよ!夜に街の外に採取依頼をしに行くことも信じられないのに……本当に大丈夫なんですか?」
これは確実に俺のやった爆発だ。なんだかすごく心配させちゃったし、自分がやったと言った方がいいんだろうか。
「実は、あの爆発は俺が起こしたんです。すいませんでした」
頭を下げて、お姉さんの様子をうかがう。
「……もう。冗談が言えるくらい元気なら大丈夫ですね」
あれ、信じてもらえていないみたいだ。お姉さんは俺から受け取ったミドリ草を確認して、俺のギルドカードをカウンターの下で操作をした。
「はい。これは今回の報酬です。依頼の履歴はギルドカードに残りますが、適正ランクよりも下の依頼を受けたので功績とはカウントされません。……ああ、そういえばギルドマスターが呼び出していましたよ。そこの扉の奥にいます。……すごく怒っているようでしたけど、なにかしちゃったんですか?」
アーバーは俺がやったと分かっているみたいだな。多分お叱りを受けることになるんだろう。……ギルド脱退とかさせられないだろうか。それだけが心配だな。
「ふぅ……なんとかなったな」
なんやかんやあって、アーバーには許してもらえた。
最初は扉を開けた瞬間、威圧してきたアーバーを見て路頭にさまようことを覚悟した。
それでも、自分から森の爆発は俺の仕業だという事、わざとではなくオオカミに首を噛まれて驚いて爆発させてしまった事を、誠心誠意説明したら威圧感がなくなっていた。
こんな大きなやらかしをしても、誠意を込めて謝れば許してくれるなんて、アーバーは優しいな。
俺もあんな器の大きな大人になりたいものだ。……年齢でいえば俺の方が相当上なんだけどな。
なんにせよ今日は疲れた。
200億年のぼっち生活からいきなり大勢の人といるところにきたし、色々なこともあった。そして、日が暮れてから仕事をしに行くものじゃないな。心が疲れる。
次からはおとなしく日が昇っている時間に依頼を終わらせよう。
俺はギルド直営の宿屋で食事をとり、睡眠を取りに行った。あのクソ老神の呪いのせいで眠れないので、目を閉じて横たわるだけだが。
シルバーフォートのギルドマスター、『巨鋼(きょこう)』アーバーはため息をついて、執務室のソファにその巨体を沈ませた。
「まったく、本当になんてものを解放しやがる。調査団のやつらめ……」
現役時代は豪快、無双、傍若無人の名で知られたこの男を悩ませる問題は今2つだった。
1つはこの街を腐敗させる、領主の弟フェルナンド・シルバーフォート。
そしてもう1つは新しく自分のギルドに入ってきたニーデ・ハイルとかいう意味不明の人物。
創世の古代人も、あの規格外の魔力も、冒険者として各地を放浪したアーバーにも到底理解できないものだった。
「魔力を制御できず、その上、ハッ、不老不死だと?バカバカしい……」
思わず口をついて出てしまったが、これがアーバーの本心である。
ハイルはシルバーフォートの近隣にある森を1つ破壊した。あの規模の森なら幾つでもこの近隣にあるし、無くなったからと言って困ることはない。
ただ、恐ろしいのだ。聞くところによると、森1つが半分消失したらしい。
それを、ただ『オオカミに教われて驚いた』から、なんて理由でやってしまうハイルが恐ろしかった。
そうして見せてきた首元に残っていたのは、Bランクの魔物『スクアッドウルフ』の牙が残っていたことも、また恐ろしかった。
スクアッドウルフは5~10匹の群れで狩りをする。一度捕まれば、複数引きで肉を引き裂かれ二度とは抜け出せない。
「アレは不死身の化け物だ」
無敵と言えるほどの再生力を持つ魔物は殺したことがあった。仲間と何度も致命傷を当てて殺して見せた。同じことをしてもハイルは殺せないだろう。
「こちらに敵意を持っていないことだけが幸いか……」
わざとではない。それだけが唯一の救いだった。
それは、今日クリスティアと結んだ誓約が証明してくれていた。
クリスティアは、身元の保証という実質ほとんどコストの掛からない『餌』と引き換えに、自分達の安全を保障して見せたのだ。あの娘は天才だと、確信した。
だから、アーバーは決めた。
「俺は、もう知らん。俺が頭を働かせたって、アレには勝てんわ。酒でも飲んで寝るに限る」
アーバーは酒の入った瓶をサイドチェストから取り出して、一息に飲み干した。
その頃、ハイルといえば。
「この肉うっま……こんなの叙〇苑でも食ったことねえよ……」
のんきに酒場でマンガ肉を堪能していた。
「あいつが、私の森を破壊した男ね……」
ギルドの窓からのぞき込んでいる何者かに気づかずに。
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