第13話
「なあ、あのカウンターは何をするところなんだ?」
「あれは、採取した素材を鑑定に出すためのカウンターにゃ」
「なんで、1階と2階両方に酒場があるんだ?」
「2階にあるのはギルド直営の宿屋の客専用にゃ……さっきから、どれだけ質問するのにゃ」
冒険者ギルドに到着した俺は、フレイを質問攻めにしていた。若干フレイは疲れ気味だが、しょうがない。
俺は日本に居たころはそれなりにライトノベルを読んでいるタイプの人間だった。そんな異世界に憧れていた俺が、剣と魔法の世界の象徴である冒険者ギルドになんてきたら興奮するに決まっているだろう。
「さあ、ついたにゃ。ここが冒険者登録のカウンターにゃ」
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ!新規登録の方ですか?」
気付けば、受付のお姉さんが俺に微笑みかけている。
そう。これだよ。俺がやりたかったのは!
あんな暗闇の中で200億年も何もせず生きているのは本当につらかった……。
「ほら、突っ立ってないで紹介状をさっさと出すにゃ……な、なんで泣いているのにゃ?」
おっと、いけない。テンションの上がった俺は外套のポケットからアーバーから受け取った紹介状を出すと、受付嬢に渡した。
「お預かりします。……これはギルドマスターからの紹介状ですか?登録試験免除に宿や当面の食事の世話まで……?一体あなたは何者……いえ、冒険者に詮索は不要ですね。少々お待ちください」
何か一人で納得したお姉さんは、カウンターの下で何か作業を行っている。
なんかこうやって待っていると、日本での役所を思い出すな。
お姉さんが作業をしている間に並行して、冒険者ギルドについての説明を受けた。
冒険者と彼らが受ける依頼はFからAまでのランクがあり、自分と同じランク以下の依頼しか受けられないそうだ。そうして依頼をいくつか達成すると功績が認められ、ランクが上がる。
ちなみに、アーバーが俺に登録試験免除とかいうお膳立てをしたから、本来ならFから始まる所をEから始めることになっているそうだ。
だが、さきほども言った通りに俺は初心者だ。冒険者の常識なんて何も分からない。であればFと同じところから始めた方がいいだろう。
「俺はEランクなんですが、Fランクの依頼を受けてもいいですか?」
「はい。構いませんよ。ただ、自分より下のランクの依頼を受けても、功績は認められずランクが上がることはありませんので気を付けてください。依頼はそちらの掲示板にあるものを持ってきてください」
俺の質問に答えると、お姉さんはカウンターの下から、一枚の銅色のカードを取り出して渡してきた。
「はい。それではこちらはギルドカードになります。身分証にもなりますので、なくさないようにしてくださいね。……あ、それと。ギルドマスターからのご命令で、ハイルさんはギルド直営の宿屋や酒場を無料で使用できます。使用する時もギルドカードを見せてください」
「わかりました。ありがとうございます」
さて、最初の内はここら辺の地形を確認するという意味でも簡単そうな採取の依頼を受けよう。
依頼が貼ってある掲示板まで来たが、Fランクの依頼だけでも沢山あり、どれがいいのか分からない。
「なあ、フレイ。どの依頼がいいと思う?」
「そうだにゃあ……。やっぱり初心者の頃はこういう薬草採取がいいと思うにゃ。あっこれとかどうにゃ。『ミドリ草の採取』私がギルドに入って一番最初に受けたにゃ。懐かしいにゃ……」
「フレイは冒険者だったのか?」
「にゃ!?違うにゃ!いや、違くはないけど……とりあえず忘れてほしいにゃ!」
俺がそう聞くと、フレイは慌てて誤魔化そうとする。
とりあえずフレイにお勧めされた依頼書を持って、受付を済ませる。
やはり、調査団に入る前は冒険者だったのだろうか。でも、そんなに隠すようなことなのだろうか。
「おい、あれ見ろよ。Bランク冒険者の『赤風』フレイだぜ」
「確か引退して調査団に行ったって聞いたが……ここにいるってことは帰ってきたのか?」
「俺、パーティーに誘ってみようかな」
「いや、俺は盗賊になったって聞いたが……」
「馬鹿、盗賊になっていたらこんな所にいるわけがないだろ」
そうやって考えていると、周りが騒がしくなっていた。どうやらフレイの事について話しているらしい。『赤風』?二つ名があるってことは相当有名な冒険者だったのか?
フレイの顔を見ると、どうやら周りに騒がれることはあまり、嬉しい事じゃないらしく顔を隠して歪めている。
「え、ちょっと?どこいくにゃ!?」
俺はフレイの手を引いて、小走りで冒険者ギルドを出る。フレイが居たくないのなら、こんな所にいつまでも、いるわけにはいかない。
フレイがここにいるのは、俺の案内をアーバーに頼まれたからなのだから。
そうして、街を歩き続けて噴水の流れる広場まで来て、手を放した。
「はあはあ、いきなりどうしたのにゃ。というか、街の端にある冒険者ギルドから真ん中までこんな速さで走るなんて、どんな体力してるにゃ……」
俺が振り向いてフレイの方を見ると、フレイは膝に手をついて肩で息をしていた。
「あ、すまん。速すぎたか。でも、できる限りあそこから離れた方がフレイもいいかと思って」
「は?別に早くないんだにゃ?斥候職をなめるにゃ……って、え?もしかして私のためにあんなに急いで、あそこから出たのかにゃ?……それは、ありがとうにゃ」
フレイがショートカットにしている赤髪をくるくるしながら答えた。
嘘だろ……?こいつが俺の首を狙っていたやつと同じだっていうのか?
「ああ……うん。まあそんなところだ」
「私の過去については、もうちょっと仲良くなってから話をするにゃ。それじゃあ私は他の仕事があるから、もう行くにゃ」
そうしてフレイはどこかへと駆けていった。
さて、俺も自分の仕事をしに行くか。
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