第11話
「ここが貴族のお屋敷ってやつか……」
ウェスターについていきながら考古学院支部の裏手にある大きな屋敷に来た。勿論後ろにはフレイがついたままだ。今もなお俺の首を狙っている。
「そうだよ。失礼のないようにね。わざわざ私の服まであげたのだから。それと君はまだ信用されているわけではないのだから、不用意な真似もしないようにね。」
「そうにゃ。素直についてこなかったら首をスパっとするにゃ」
「マスコットキャラみたいなしゃべり方しているのになんて物騒なことを言うんだ」
気を取り直して中に入ろうとすると、門衛が武器をかざして道をふさいだ。
「どうしたのかな?今日私が来ることは既に君たちにも伝わっていると思ったのだが」
「はい。それは知っています。しかし、領主様からは来るのはウェスター様おひとりと聞いています。後ろの方々は誰でしょうか」
「アーティファクト関連の問題で緊急に相談しなければいけないことが発生してね。後ろの2人はそのためについてきているんだよ」
「……出会う人員が増える場合は事前にお伝えして頂かなければ困ります。あなた以外は通せません」
融通の利かない門衛だ。領主の屋敷ともなると、これくらいのセキュリティの強さでないといけないのだろうか。
しばらく、ウェスターと門衛は言い合いをしていると後ろから筋肉の気配を感じた。
「おいおい、別にいいんじゃあないか?1人や2人増えたって、大した問題じゃあないだろう」
後ろを振り返ると、2mをゆうに超える巨大な色黒の男が仁王立ちしていた。その髪は既に白く、肌には数多のしわが刻まれているが、俺には分かる。この男の筋肉量は俺やウェスターをはるかに超えている。その証拠に彼はこの寒中でもシャツ一枚という薄着だ。尋常でない発熱量ということだ。
「なあ、この男は何者なんだ?」
「信用されてないって言われてるのに、いきなり話しかけてくるなにゃ。この人は冒険者ギルドシルバーフォート支部組織長……長くて噛みそうだからギルドマスターって呼ぶにゃ。この人はこの街の冒険者ギルドマスターのアーバーにゃ」
「冒険者ギルド……そんなものがあるのか」
心が躍るな。やっぱり魔物と戦ったり、俺がいたような遺跡の調査とかをするのが仕事なのだろうか。
「ですから、そう言われても領主様に危険が及ばないように防ぐのが我々の仕事ですので」
「じゃあ尚更に問題はないな。例え身元の分からない人間が暴れようが、俺が止めりゃあいいんだからな」
アーバーが言うと、門衛は納得はできないようだが、これ以上は問答をしていては主人の客に失礼になると考えたのか渋々道を譲った。
後々分かったが、この考えは間違いだった。この門衛は失礼になるから道を譲ったのではなかった。単純にアーバーの言う事が正しかったからだ。アーバーが止められないような敵が現れてしまえば、この街でその敵を止められる者はいない。アーバーはそれほどまでに強い。
屋敷の中に入り、使用人に案内され廊下を歩いていると、様々な絵画や工芸品のようなものを見かける。街を見ていても思ったが、やはりこの異世界の文化はそれなりに発達しているようだ。
「アーバーさん、助かりました。あなたのおかげでこの寒い中、長時間待たされるのを回避できましたよ」
途中でウェスターが、アーバーに礼を言った。
「なに、別に構わんよ。俺もそこの魔力を垂れ流している男の正体が気になるしな……」
そういってアーバーは俺の事を睨みつけて……いやこれは観察しているのか。俺の所作や反応から力量を図っているのだろうが、残念なことに俺は戦闘に関しては素人だ。アーバーが得られる情報はないだろう。
それにしても、この魔力というのは意図的に隠せたりしないものだろうか。これから先もこういう男に見られる趣味はないんだがな。
「それについては、クリスティア様とお話しする際に伝えます。……ああ、クリスティア様というのがこの街の領主様だよ、ハイル君」
「俺はこの辺りの名前の文化の事をあまり知らないんだが、名前から察するにその方は女性なのか?」
「ああ、そうだよ。彼女の御父上で先代の領主様が没されてから、長男である弟様が後を継ぐのが貴族の常識だったんだが……。色々あって彼女が領主となったんだよ」
そう語るウェスターの声は少し弾んでいる。クリスティアとかいう人に好感を持っている感じだな。
しばらくすると、応接室についた。使用人の開けた扉から中に入り、ソファに座らされしばらく待つとまた別の扉から女性が入ってきた。
それは、厳しい印象を持つ女性だった。穏やかさを印象付けるような緑の長髪と黄色い瞳を持っているが、鋭い眼光と豪華な装飾品に身を包んだこの女性から穏やかさなんてものは、みじんも感じない。
「見慣れない人間が1人いるな。そしてフレイもいるのか……今回は3人での会談だったと記憶しているが?」
冷たく発せられた声は少し困惑が含まれていた。
「突然になり申し訳ありません、クリスティア様。本日は元から予定していた議題に加え、緊急に相談したいことがあります」
ウェスターが頭を下げると、クリスティアは上座のソファに座って続きを促した。
唐突の事にも関わらず慣れているのか、クリスティアは黙って話を聞いていた。
そうして、話を聞き終わってからゆっくりと口を開いた。
「……つまり、そこの男は創世以前より存在していた古代人だと?本気で言っているのか?そんなことを考古学院に報告しても、一笑に伏されるぞ」
「あんまり信じられんなぁ……。帝国からのスパイや蛮族の同胞という方がまだ信用できるぞ」
まあ、その内容はこの世界に生きる人にとっては少し突飛な物だったようだが。
でもわかるよ。俺だって日本で暮らしている時に、それなりの地位を持った人間が「この人は地球が出来たころから存在している不死身の男です!」とか言って見知らぬ男を紹介し始めたら、まず疑う。
働きすぎで頭がおかしくなったのかと。
「いえ、それはないでしょう。この報告はリーシェからの物で元は彼女の祖父ヴィモースコの論文に乗っていたものですから」
「ヴィモースコ……。数々の古代の謎を明らかにしている中で、本人だけが一番の謎と言われていた、あの考古学者か。確かに情報の元がそれだというのなら少しは信用に値するな」
クリスティアは顎に手をあて少し考えてから続けた。
「いいだろう。信用してやろう。ウェスター、今回の事が本当ならば、貴様と調査団の新入りが考古学院に挙げる功績としては最高の物になるだろう。そして、そこの男……ハイルだったか。この街で人並みに暮らすのが望みだと言ったな?いいだろう、1つの条件と引き換えに私がそれらを保証してやろう。ウェスターには報告の、ハイルには身元の保証だ」
「条件ですか?一体何をすればいいのでしょう」
「ああ、条件だ。そうすれば私も信用してこの男を利用……いや、市民として保護することができるからな」
今この人利用って言いかけたぞ。本当に大丈夫か?怪しい契約書にハンコ押させて地下労働へ、みたいなことにはならないよな?
「おい、誓約書を持ってきてくれ。アーバー、これであれば貴様も納得できるだろう?」
「いえ、俺はクリスティア様が保証するというのなら、それに従います」
アーバーがクリスティアに頭を下げる。
嘘だろ。先程までのガキ大将がそのままおっさんになったような人はどこへ行ったんだ?
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