第7話
俺は新出 入。日本でバイトをしながら暮らしていたごく一般的な青年だ。そんな俺はなんやかんやあって、老神の怒りを買い暗闇の中に閉じ込められた。そのまま何億年か暗闇の中で『歪み』による不快感と闘いながら日常生活(筋トレ)を送っていたのだが。
「ヘ、ヘンタイ……?」
そんな、暗闇の中に唐突に光が差し込んだ。俺が驚き固まっていると、目の前に女の子が立っていた。
18歳くらいだろうか。日本では見慣れない緑の目と金髪を持ち、髪は後ろで結んでいる。肩から下げたカバンの中に手を突っ込んでいる。
整った顔立ちで聡明そうな顔つきのその子は、しかし聞き捨てのならないことを言っていた。
「ヘンタイ?そんなものどこにいるんだ?ここには俺しかいないはずだが……」
「あなたの事だよ!このヘンタイ全裸スクワット男!こっち近づいてこないでえええ!!」
俺が安心させようと女の子に歩み寄っていくと、女の子はカバンの中から黒い円盤のような物を取り出し、振りかぶった。
それは、直線的にこちらに向かい俺の額へと吸い込まれていった。
「痛ああああああ!!??」
ああ、どうしてこうなった。異世界に来て始めての人とのふれあいだったのに。
小気味の良い金属音を立てて跳ね返っていく円盤を見ながら、俺は倒れた。
「誤解です。すみませんでした」
その後、痛みから復帰した俺は女の子の前に正座して頭を下げていた。
どう考えても、俺が悪かった。暗い部屋で一人スクワットをしていて、極めつけにその男は全裸で歩み寄ってくる。これではヘンタイと言われてもおかしくはない。それを女の子に見せつけてしまったのだから、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ちなみに女の子から大きな布を貸してもらったので、今はもう全裸ではない。
「はあ……。いいですよ、もう。こっちだって変質者と勘違いしたとはいえ、アーティファクトを投げつけちゃったんですから。……それよりも聞きたいことが沢山あります。あなたは何者ですか?何故ここでスクワットを?この遺跡は一体何の目的で建てられたんですか?一体どれほど前からここにいるんですか?そもそも……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。一度にそんな大量の質問には答えられないよ。それに俺だって聞きたいことがあるんだ。だから、まずは俺に事情を説明させてくれないか?」
「分りました。あ、メモを取らせてもらいますね。私考古学者なので!」
そう言って彼女がカバンからメモを取り出したのを見ると、俺は説明を始める。
唐突に神に呼び出され、この世界の構築そして維持のために『歪み』とやらを受け止める器になったこと。そうして数億年の間ずっと、ここで暮らしていたこと。
「そうしたら君が来て、やっと俺はあの暗闇から出られたんだ。……って、どうしてそんな疑いの目で見るんだ?全部本当の事だぞ?」
「ええ、大丈夫です。全部信じてますから。あ、それと私の事はリーシェと呼んでください。ニーデ・ハイルさん……でしたっけ?」
「ああ、そんな外国人めいた響きじゃないけど、大体あってるよリーシェ」
それと、リーシェが俺の話に半信半疑なのも知ってる。『歪み』の影響なのかは知らないけど、メモ帳に書いてある知らないはずの世界の文字も読めるからな。
妄想癖だとか、話を盛っているだとか書きやがって。
それでも、俺が何者かに閉じ込められていたとか『歪み』を注がれていた事は本当の事だと受け入れてくれているようだ。
「さて、それじゃあ。次はリーシェが答える番だ。一体君は誰なんだ?」
そう、質問すると今までメモ帳にかかり切りだったリーシェは、腰に手を当てて自慢げにポーズを決めた。
「はい、答えさせてもらいましょう。私はテラアニマ王国考古学院所属、考古学者リーシェです!」
キラーンと星が飛びそうなほどに自慢げなのだが、悲しいかな。俺にはさっぱりわからない。テラアニマ王国というのが何なのか分からないし、考古学者なのも、リーシェなのもさっき聞いた。つまりは、増えた情報は彼女がテラアニマという国の考古学院という所に所属している、おそらくは公務員ということだけだ。
(あれ……おかしいな。テラアニマは確か古代にあった王国からとった名前のはず……。これで伝わらないという事は本当にそれよりも昔の人間なの……?それに最初に見た時は気付かなかったけど、この魔力量尋常じゃない。だとすれば古代の強力な魔術師で……何者かに封印されていた?)
「おーい、リーシェ?どうしたんだ。悪いが俺は本当にこの世界の事が何も分からないんだ。王国とやらも、君の言っている考古学が俺の世界の物と違うかもしれないしな。一度しっかり説明してもらえるか?」
リーシェは手を顎に当てて何やら考えている。しばらくの間俯いていたが、カバンの中から一冊の本を取り出して俺に見せてきた。
「これは、私の祖父が書いた考古学の入門書。創世から今までの簡単な歴史ならここに書いてあります。あなたが異世界から来たとか、創造神様に封印されたとかいう妄言を全て信じているわけではありませんが、いいでしょう。それなら私もあなたの妄言に乗って、一からすべて説明して差し上げますので」
「別に妄言じゃないんだが……。でも、説明してくれるのなら助かる。おとなしく聞くとするよ」
そうして俺はリーシェから歴史の授業を受けることになった。
リーシェは手に持っていたランタンを地面の上に置き、簡単な布を地面に敷いてその上に座った。俺はランタンを挟んで向こう側に地べたにあぐらをかいた。
流石に全裸に布をかぶせた状態で女の子の隣に座るほど、俺も常識を失ってはいなかった。
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