第6話

 街を出てから止まらずに遺跡のある場所までやってきた。ある程度覚悟していた魔物に出くわすこともなく拍子抜けするほどだった。

 リーシェがこの遺跡を見つけたのは、自分の論文の参考にするために祖父の論文を見返していた時だった。

 グリーンバレー領シルバーフォート、すなわちあの街の事だが。その街外れの丘に隠された遺跡がある。その遺跡には凄まじい物が秘められている。祖父の論文は要約するとそのようなことが書いてあった。

 しかし、生涯を通して遺跡調査に熱を上げていた彼女の祖父には珍しく、遺跡の存在とその周囲について詳しく書いていたものの、内部の調査は行っていなかったようなのだ。

 だから、遺跡の内部や秘められている物については憶測の域を出ない事だ。それでもリーシェは祖父の論文を信じている。


 彼女の祖父は不思議な人で、魔法や戦闘技術に関しては全くと言っていいほど素人なのに、なぜか単身遺跡調査に行っても傷一つ付けずに帰ってくるし、調査済みの遺跡を探索して大量のアーティファクトを見つけ自慢げに発表したこともあった。ようするに勘が鋭い人であった。

 そんな祖父が見つけても入ることのなかった遺跡とその中に秘められている物。危険は承知しているが、今のリーシェには必要なことだ。

 彼女の夢をかなえるためには絶対に。


「やっと見つけた。すぐ近くにあったのにこんなに時間がかかるなんて」


 遺跡は丘の下にあり、丁度街道からは林が四角になっていて見えない場所にあった。

 丘の中に埋まっているようなその扉を、強引にこじ開け中に入った。


「なんでこんな所にある遺跡が今まで調査されていなかったんだろう?ウェスターおじさんや調査団の人が気付かないはずがないのに……認識阻害の魔法でも掛けられていたのかな」


 階段を下りて遺跡の奥へと進んでいく。

 このタイプの地下遺跡は道が長いと経験でわかっていた。警戒しながら先に進む。


「ここまで長かった……。この遺跡罠多すぎだよ!」


 リーシェは遺跡の最奥に仕掛けられた最後の罠を解除して、中にある毒の塗られた矢を捨てた。

 遺跡を進み始めてから罠や迷路じみた分かれ道、数多の妨害にあった。普通遺跡という物は古代に人が使った物なので、こんなに使いにくい設計はしないはずなのだ。

 ここまで隠そうとするからには、この遺跡には何かある。

 リーシェはそう考え、転がった矢を後にして、目の前の石扉を見据える。石扉には様々な装飾が施されており、中でも円形に配置された紋様が目に付く。


「この紋様……文字?どちらにせよ見たこともない。まだ見つけられたことのない文明のものかも」


 扉の紋様を調べるために紋様に沿って指を這わせる。

 形だけ見れば、現在判明している中で最古の神秘文字と似ている気がする。そんなことを考えていると、唐突に触れていた紋様が輝きだした。

 リーシェが驚いて一歩手前に下がると、輝きだした紋様を起点にすべての紋様が光を放つ。


「扉が、開いていく……!?」


 床を擦る音を立てて重厚な石扉が部屋の内側へと開かれる。

 まるで光を吸い込むかのように、だんだんと暗く閉ざされていた部屋の中が明らかになっていく。

 石の床、石の壁、何らかの技法によって滑らかに加工されたそれらは、これまで通ってきた道と同じように見えるが、リーシェは知っている。

 この先に隠されている物が、それが良い物であれ悪い物であれ凄まじい物なのだ。

 リーシェはすぐにでも逃げ出せるように、カバンの中のアイテムに手を伸ばして構える。

 つばを飲み込んで、形が露になっていくそれをリーシェは確かに見た。


「ヘ、ヘンタイ……?」


 彼女が祖父の論文を頼りに見つけ出した物は、スクワットをしながらこちらを凝視するマッチョだった。

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