第3話
やばい……、明らかに失敗した。
怒り心頭に発すといった感じで、息を荒げる老神を前にして俺は反省していた。
あまりにも横暴なこの現状に怒り、老神に暴言を吐いた俺は先ほどの拳一発がかすった程度で黙り込んでいた。
俺も中年男も、老神が怒りを鎮めるのを待つしかなかった。
これが神の怒りってやつなのか……。
「この男に罰を与える」
しばらくして、老神は一言簡潔にそういった。
老神の落ち着いた様子を見て安心したようで、横にいる中年男が再びにこやかな顔に戻り、話しかける。
「罰……と、いいますと。つまりこの男の装置への採用は見送るということですか?それならば今回はこちらの不手際として、代わりの人間を都合いたしますが……」
「いや違う。この男には儂の作る世界の浄化装置にし、その上で罰を与える。永く、恐ろしく永く続く罰をな」
中年男には老神の言っていることがよくわからない様子だった。
中年男は疑問符を携え、老神の次の言葉を待っていた。
事情に詳しいであろう中年男がわからないのに、俺にわかるわけもなく。
俺は口をはさむこともできず、黙っていた。
「分らんか?儂の当初の計画であれば、浄化装置となる者の意識や肉体は不要なものとして、取り除かれる。しかし、それは儂の神としての恩情じゃ。儂の勝手で使う魂に、無駄な苦しみを人間に与えてしまうのもどうかと思ってな」
相変わらずの上から目線での傲慢な物言いに腹が立つが、先ほどの凄まじい暴を思いだすと俺は何も言えなくなっていた。
俺にできることと言えば、代わりにせめてもの抵抗でにらみつけるだけだった。
そんな、俺の抵抗を鼻で笑いながら老神は続ける。
「じゃからこの男には罰として、肉体と意識を持たせたまま浄化装置にする。肉体を不老不死に、意識を無限に続くように変え、世界の続く限り、孤独と、空腹、光も闇も存在しない無感覚の中で永遠とも思う時を過ごさせる。」
老神が俺の顔をじろりと見ると、その顔色を見て満足したように笑った。
俺は絶望していた。
聞いたことがある。人間は何も感じられない場所に閉じ込められると半日も正気を保っていられないと。
そんな苦痛を永遠に受け続けなきゃいけないのか?
「恐れながら申し上げます。神よ。それは余りにも重い罰なのでは……」
同情したのか、中年男が俺をかばうようなこと言う。
「いや、神に逆らい暴言を吐いた罪は重い。本来なら魂を消滅させているところだが、この男には儂の作った世界を保つ使命があるからこの程度で済ませてやっておるのじゃ。それとも貴様も同じような目にあいたいか?」
「いえ、そのようなことはありません!私は手続きに移らせていただきますので、これで失礼いたします」
老神が一言脅すようなことを言っただけで、中年男の姿は慌ててその場から消失した。
つい口からこぼれた暴言のせいで、まさかこんなことになるとは。
「ふん、小心者め……。この男に比べればマシか。貴様は永遠の中で後悔し続けるがいいわ。これ以上くれてやる言葉もない、貴様も早く失せるがよい」
老神が指で地面を指すと、俺の足元に穴が開き吸い込まれていく。
俺は落下し続けていた。
何日経ったのか分からない。ここには光が差さないし、俺以外の物は何一つとして存在していない。
分かるのはただ、この落下もあの老神の与える罰の一つだろうということだ。
そして何よりもつらいのは落ち続ける不安ではなかった。
「ぐああああっ!熱い!体が焼ける!」
穴を落ちていく中で、俺は身を焼くような痛みに悶えていた。
最初の内は体が温かいくらいだったのが、だんだんと熱を帯び、今では体が裂けているのではないかと思うほどに痛みを感じる。
それは、異常なほどの熱のせいでもあったし、俺が自分で掻きむしったことで血がでているせいでもあった。
さらに、落ち続け体の熱に慣れてきたころに自分の体の異常に気付いた。
掻きむしり続けることで出来ていた体中の傷が、なくなっているのだ。
傷がふさがり、流れ続けていた血もいつの間にか感じなくなっている。
不思議に思った俺は思い切って自分の体に爪を立ててみる。
「痛っ……やっぱり、傷がすぐにふさがる。まさかこれがあの老神の言っていた不老不死の肉体ってことなのか?」
あの体を焼くような痛みは、体を作り替えることによる副作用のようなものだったのだろうか。
……いや、あの老神なら嫌がらせのためにわざと痛みを感じさせるような方法をとるような気がする。
なにはともあれ、俺は苦しみの一つから解放されたわけだ。
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