竜誕祭 2
「で、ではリセは……ここにいるのか? 俺の側に……ず、ずっと? この国に?」
「! ……は、はい、あの、み、皆様が……殿下が、許してくださるのなら……」
「そんな! リセに側にいてほしいのは俺の方だ!」
殿下が私にそう言ってくださるのは——優しくしてくださるのは……そうしなければ命に関わるから?
いえ、でも、そんな様子ないですし。
さすがにそれならばすぐにわかります。
私、そうやって人の顔色を見ながら生きてきましたから……だから、藍子殿下がなにを考えているのかも……。
「リセは人間で、俺よりも先に……逝ってしまう」
「!」
「俺の唯一無二の人であるのに。だから、俺は——」
「……っ」
ああ、そうです。
私、ずっと殿下のお側にいて差し上げられないのです。
竜人の寿命は五百年から七百年と聞きました。
対して私は、どんなに頑張ってもあと八十年、生きられるかどうか。
え、待ってください。
それじゃあ、どうあがいても殿下の寿命もあと……。
「い、いやです」
私のせいで殿下の寿命まで縮んでしまうなんて、そんなのダメです。
いけません!
なにか方法はないのでしょうか?
殿下の寿命を、私が死んだあとも、殿下に生きていてもらえるような……。
「えっ! や、やなのか!? やはり俺のようなヘタレ野郎は嫌いなのか!?」
「へ、へた……? い、いえ! あの、私が死んだら殿下も死んでしまうのは嫌です!」
「そ、そっちか!」
『お主ら、ちょっと落ち着け』
ゴスッ、と頭の上に黒檀様が顎を乗せる。
ので、私も藍子殿下も二人きりではなかったことを思い出しました。
そ、そうですね、まずは落ち着きましょう!
『リセは余と契約すれば、竜人と同等の寿命になることもできる。そして、主らはどうにも会話がすれ違うというか噛み合わないというか……一度落ち着いて、一人ずつ主語を入れて話せ』
「も、申し訳ありません、始祖様」
『まず、藍善はなにを不安がっておる?』
ちゅ、仲裁……!
黒檀様、なんというやさしさ……!
「あ、え、ええと……リセが元の世界に帰らないかと」
『それは否であっただろう。他は?』
「リセが元の世界に、恋人がいたりするのかと……」
『それも否と言っておったな?』
「は、はい! 恋人は、いません!」
きっぱり否定すると、藍子殿下の瞳が輝く。
安堵してくださったのか、長い溜息を吐いて私に微笑んでくださった。
『他には』
「え! あ、え、ええと……ほ、他ですと、その……」
え、他にもなにか?
驚いて姿勢を正すと、藍子殿下は私の肩に手を置いたまま、「うう」とか「ぁぁ……」とか……うめいておられる。
ど、どうしたのでしょうか。
「……に、人間は……恋愛感情で結婚する、と育多に聞いて」
「あ、そ、そうですね。こちらの世界はどうかは、わかりませんけれど……」
「いや、この世界の人間がそうだと聞いて!」
「そうなのですか」
じゃあそれは、その辺りは元の世界と同じなんですね。
と、思うとなんとなく……そういう言い方をされると、藍子殿下はそうじゃないのか、とか竜人族はそうじゃないのかとか……思ってしまったり。
「……お、俺は……恋愛結婚は無理だと思っていたから」
「?」
「その……」
『言うべきことをまとめてから喋れ!』
「あぎゃ!」
「こ、黒檀様!」
ゴスっ!
と、私の時と違って口先でかなりの威力で藍子殿下の顎を突く黒檀様。
は、弾け飛びました!
「……っ! 俺は強い女に負けてしまうのは、仕方ないと思っていた! 母上のような、身も心も物理的にも強い!」
「え、あ、はい」
「だが、俺の心を折ったのは、弱く、しかし心は強いリセだった!」
……す、すごい、藍子殿下……黒檀様のツッコミを得て、即座に“言いたいこと”をまとめて叫び始めました。
さすが王太子……すごい!
「だから、政略的な結婚でもなく、恋愛結婚は、諦めていた」
「は、はぁ」
「だが、リセは……俺に
「えっ」
恋愛、結婚……?
あ、つまり殿下は恋愛結婚したかったけれど、恋愛結婚は無理だと思っていたけれど私のような軟弱な人間だったので、恋愛結婚ができそうと、そういうことをおっしゃりたかったんですね?
なるほど〜〜〜〜。
「……………………」
な、なるほど……?
あら?
そ、それでは……いえ、あの、殿下の言っていた言葉……あれ? あら? わ、私と……?
私と恋愛結婚、を?
そ、それって、つまり……!
「……っ、っ……わ、わた、私……は……」
この方を好きになりたい。
それが本心。
好きになってもいいなら、私。
「め、迷惑でないなら、私……私も…………藍子殿下と、れ……恋愛結婚が、し、したい、で、す……」
あれ、私……なにを……。
ま、待ってください。
まだ頭が混乱しているのに、口が先になにか口走りませんでしたか?
え? 今喋ったの私ですか? 私ですね? 勝手に喋りましたね!?
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