弱い私の反逆撃 6
「しかし、それだと魔物への対応が大変だったのではありませんか? 我ら竜人族は魔力を生成することが可能なほど、体は丈夫ですし戦うのも好きですが……たとえばドワーフなどは武器もうまく扱えない者が多い。魔法を奪われたエルフも人間と遜色ないほど弱いと思うのですが」
そう言うのは藍子殿下。
確かに……エルフは魔法がないと『すごく見目が美しいけど性格がめちゃくちゃ悪い人たち』みたいな感じですよね。
『ミーたちは……精霊たちはだから人間にだけは協力したナリよ。それに、種族の垣根を超えて協力し合えば魔物など恐るるに足らぬ存在だったナリ。実際同時の種族たちは垣根を超えて協力し合っていたナリ。……エルフはどこでこんなに拗らせてしまったナリかねぇ』
「…………」
こじらせた——確かにその表現がもっとも相応しいと、私も思います。
エルフたちは魔法を失ったことで、優位性も同時に失ったのでしょう。
いえ、魔法を扱えるのが人間のみになったことで、むしろ人間に恨みを持っているのかもしれません。
魔法を会得した『彼女たち』に対しても、エルフたちの態度はあまりいいとは言えませんでしたし。
まあ、そこは彼女たちの若さ——舐められたくない、という気の強さからエルフたちも表立って彼女たちをバカにするようなことはしませんでしたけど。
拗らせて……ましたねぇ、はい。間違いなく。
「エルフが協力的だった時代があるなどと、俄には信じ難いな」
と、藍子殿下が言ってしまうくらいにはエルフたちはすべてにおいて非協力的です。
そしてそれにお妃様も実民様たちも「うんうん!」と強めに頷かれました。
私よりもよほど長く生きておられる皆様は、私以上に色々覚えがあるのでしょうね。
『なんにせよ、リセに手を出すのならミーも許さないから、安心するナリ』
「あ、ありがとうございます」
“原初の精霊”であるティムファーファ様が、そうおっしゃってくださるのはとても心強いですね!
……けれど……。
「あの、ティムファーファ様」
『うむ?』
「その大戦が回避されたのに、魔法を人間に限定したままなのはなぜですか? このままずっと、他の種族に魔法を返してはあげないのですか?」
エルフたちは魔法が戻れば、自分たちの尊厳が戻ると思っているのではないでしょうか?
精霊に対する信仰心……私には少し妄執にも見えますが……は、間違いなくどの種族よりも厚いと思うのです。
それでもなお、精霊がエルフに魔法を返さないのには理由があるのでしょうか?
『先程も言ったけど、今が一番種族間のバランスがよいナリ』
「え、あ……は、はい……?」
『魔族は魔法と強い力を持っているが、五つに分かれたことでお互いを牽制しているナリ。竜人は魔族と同等であるが、五体の魔王と戦うのであれば他の種族の力も必要となるだろう? つまり他の種族を蔑ろにはできないのナリ』
「!」
ぴり、と空気に緊張感。
見れば皆、余裕のある表情ではありません。
ず、図星ということですか。
『他の種族は魔族より弱い魔物に苦戦するけれど、力を合わせれば竜人と同等のことができるナリ。人間には魔法。ドワーフには道具作り。獣人には頑丈な体と強靭な力。エルフには長い寿命と蓄えた知識。……力を合わせればいいナリ。それでこの世界は争いのない、恒久の平和が訪れる——』
「…………」
バランス。
それは、世界のバランスのこと。
世界の——この世界の……。
「………………では」
『ん?』
「では、このままではいけませんね。エルフたちは勘違いをしているのですから。それがティムファーファ様の……いいえ、精霊たち——ひいては世界の意思なのならば、エルフたちにはその考えを改めてもらわなくてはいけないと思います」
今ならなんとなく、エルフたちの気持ちがわかる気がします。
だからこそ、彼らは変わるべきなのでしょう。
いえ、元に戻るべき、と言った方がよいのかもしれません。
それなら、私は……私のやるべきことは、エルフたちに精霊の意思を届けること。
それが“人間”である私のやるべきことです。
たとえ、この世界の人間でなくとも……。
「あ! そうです! お妃様、もうすぐ『竜誕祭』なんですよね!」
「え? ええ、そうよ。今年の『竜誕祭』は始祖様が見つかったことで、例年より色々イベントが増えちゃってるけれど〜」
「では、もうひとつ加えていただいてもよろしいですか!?」
「リ、リセ様? なにをかんがえてるのかしら〜?」
「はい! 仲直りです!」
「「「仲直り?」」」
皆さんに首を傾げられましたが、私は自信満々に頷きます!
だって、ここにいらっしゃる皆さんの力をお借りできればきっと変えられると確信しているのです。
私は本当に能無しで、役立たずで、無能で、あれ? 能無しと無能は同じ意味……? まあ、いいです! とにかく、弱いです、とても!
でも、そんな私でも、藍子殿下は……私でなければダメなのだと言ってくださいました。
だから、私は、私も……“変わる”と言ってくださった藍子殿下みたいに——変わるんです。
変わりたいんです。
「私は、弱いので……皆さんのお力を、お借りしたいです。お願いします!」
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