弱い私の反逆撃 5

 

 お妃様も私と同意見。

 そうなんですよね……呪術を用いれば、もしかしたら私は自分の意思とは関係なくエルフたちのところへ戻ってしまうかもしれません。

 魔法とは決定的に違うのです。

 もしかしたら、人間の国から私たちを召喚した召喚主も、呪術を用いて誘拐されてきたかもしれませんし。


「あの〜、朔子質問したいんですけどいいですかぁん?」

「なにかしら〜?」

「どうして精霊様たちは、人間以外に魔力や魔法をお与えにならなくなりましたのん? 言い伝えも、どれもなんだかふわっとしててわかりづらかったですけど」


 そういえば?

 この世界は人間以外にも、魔族、竜人族、ドワーフ、エルフ、獣人族と、多種多様な種族がいると聞きます。

 私は『国際会議』で見る程度でしたけど……どうして精霊は人間としか契約しないのでしょうね?

 エルフの国でもその理由は明確に語られていない、と聞いております。

 首を傾げて見上げると、ティムファーファ様は——なんかすごい顔になっておられる……!?

 虚無?

 いえ、心底『聞いてはいけない質問』『答えたくない』と顔に全面に押し出されておりますね!?


「あ、えーとぉ〜、無理にとは〜」


 朔子様が気を使われた!

 あの朔子様が!


『……別にいいナリ』

「え、教えてくださるんですか?」

『本当言うとそんなたいした理由じゃないから、教えるのは別にいいナリよ。なんてことはないナリ。この世界のバランス的に人間がちょうどよかったナリ』

「「「ちょうどよかった?」」」


 その場の皆の声が重なり、みんなで首を傾げました。

 人間がちょうどよい、とは?


『みんな忘れたし、なんなら知らない方が多いのだがこの世界……ラルディカ=アードには最初我ら精霊しかいなかったナリ。そのあと生まれてきたのが多くの動物たちと、そこから進化した人間だったナリ。ラルディカ=アードに最初に生まれた“人類”と呼べる者は人間が最初ナリよ。今存在するすべての種……まあ、竜人族と魔人族以外の獣人、ハイエルフ、ドワーフは、少なくとも人間から派生した種ナリ』

「えっ」


 気のせいではなく、場がピリッとしましたね!

 私も驚きました。

 竜人、魔人、エルフにドワーフ、獣人と……多種族が住むこの世界で最初に生まれた“人類”が“人間”……。

 え、あら?

 それって、あの人間を『劣等種族』と見下すエルフやハイエルフには、なかなか酷な事実なのでは?


「な、なんと……」

「わらわたちは起源が違うのですわね」

『うむ、竜人族は異界より来た余と連翹によって生まれた種。ラルディカ=アードには元々竜はいなかった。我らは比較的新しい、そして余所者の種と言える』

「まあ……」

「伝え聞いてはいましたが、そう言われると複雑ですね」


 藍子殿下とお妃様が眉尻を下げる。

 異世界から来た、という点では私もなので確かにそう言われますとなんとも言えませんね。


『だからまあ、精霊と人間は相性がよい、というのもあるナリが……すごーく昔は人間と精霊と動植物たちは、境目がほとんどなかったナリ。だから人間はそれらと交配して、ハイエルフ、ドワーフ、獣人を派生させたなり。で、その頃、一人とんでもない大恋愛をした人間と精霊がいたナリ。その精霊は愛する人間と共に在るため肉体まで得たナリ。けれど寿命はどうすることもできず、愛した人間に先立たれたソレは魔神となったナリ。——……“原初の精霊”が一角、シャグファーズ』

「!」


 その伝承は聞いたことがあります。

 この大陸は半分ほどが『魔族国』という魔族の国。

『亜人国』はその魔族の国の次に大きく、他の種族の小国を束ねる覇者の国。

 直接対決はないものの、その広大な領地を『五片魔王ごへんまおう』という五人の魔族の王が治めているそうです。

 そして『五片魔王』とは、元々一人の“魔神”であった、と。

 その魔神こそが人間と恋に落ちた精霊が受肉した存在。

 愛した人間の死で暴走して、世界に“魔物”を蔓延らせた災禍。

 人と精霊はその責任を取り、魔神と戦い、魔神を五つに砕いた……それが『五片魔王』の始まりといいます。

 その『五片魔王』を祖としているのが『魔族』。


「まさか……“原初の精霊”の一角だったのですか……!」

『そーう。これはあまり知られてないナリ。そして我ら精霊たちはシャグファーズを災禍とは思っていないナリ。魔族が生まれなければ、この世界は竜人一強状態だったナリからなー』

「うっ」


 異世界から来た竜と人。

 それを祖とする竜人が、『ラルディカ=アード』の支配者に君臨する——のは、確かにこの世界に元々いた人たちからするとあまりよろしくは、ないのでしょうか。

 なるほど。


『そしてその時に生まれた“火種”は人間以外から魔力と魔法を奪わなければ“種族大戦”という形で大きくなっていたナリ。魔物の存在が大陸中に分布してしまった直後だったから、ものすごく、どの種族も気が立ってたナリ。あのままではラルディカ=アードは“自分たち以外の種族はすべて敵”という地獄になっていただろう、ナリ。だから最弱の種である人間以外から魔力と魔法を奪ったナリよ』

 

 全員が、沈黙しました。

 あまりにも壮大な話。

 壮大な理由でした。

 た、たいした理由ではない、とは?

 かなりすごいお話を聞いたように思うのですが?

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