弱い私の反逆撃 2

 

 顔を上げて、なにか言おうとするけれど……言葉が出ない。

 だって私はエルフたちの目的を、すべてではないけれど聞かされているのです。

 彼らは自分たちの“尊厳”を取り戻すために、『亜人国』の竜人族をなんとかして倒そうとしているのです。

 この国に来るまで……いえ、あの『国際会議』の日の翌日まで、その“なんとかして”の“方法”はわかりませんでした。


『……いいか、役に立たない無能のお前に唯一できることを教えてやる。竜人族の王子を殺すことだ』

『まあ、役立たずで無能なお前にそれができるとは思えないがな。私がこう言っていたことを奴らに伝えても構わんぞ。我ら誇り高いエルフ族は、いつでも侵略者に備えているからな』


 エルフの国の執事長が言っていた、あの言葉。

 あれは、『亜人国』からのを前提とした言葉のように思います。

 私にはなにも期待していないけれど、私を利用して『森人国』へ『亜人国』が攻めてくるよう仕向けることが——可能になってしまった。

 もしかしたら他の方法を考えていたのかもしれませんが、私がティムファーファ様と契約したことはエルフたちにとって余程の僥倖だったのでしょう。

 お妃様が笑みを消して、はっきりと「戦争になる」と告げるほど……。


「……藍子殿下……あの、怒らないで聞いてくださいますか?」

「む? ……俺が怒りそうな話なのか?」

「はい」


 話すのなら、まずは藍子殿下にそれを約束してもらいたいです。

 見上げて聞くと「上目遣いはずるい」と顔を真っ赤にして背けられました。

 そ、そんなつもりはなかったんですが〜!


「ま、まあ、リセの頼みなら耐えて見せよう。どんな怒りにも!」

「一応言っておくけど、始祖様やティムファーファ様や実民ちゃんや喜葉ちゃんや朔子ちゃんもキレ散らかして突撃しようとしないでねぇ〜? それが約束できるのなら同席してもいいわ」

「え? は、はい、あたち約束します……?」

「ま、まあ、なんですの? そんな、ワタクシたちがキレ散らかしそうな内容なんですの?」

「気になりますわん。……仲間はずれはヤッ! ですしん、朔子も約束いたしますけどぉ〜」

『了解した』

『ミーはだいたい事情知ってるから今更驚かないナリ』


 なるほど、テイムファーファ様は『森人国』に行っておられますしね?

 ……『彼女たち』は無事に元の世界に帰れたのかも、話の流れで教えてもらえるでしょうか……?


「…………。では、まず……その……私の、話で恐縮ですが……」


 一度、溜息をついて心を整理しました。

 それから大きく息を吸ってゆっくり吐く。

 信じましょう。

 私ごときのために、皆さんがキレ散らかして『森人国』に突撃しないと。

 私ごときが皆様を「信じる」なんて、それもまた不遜な気がしますが。

 今はそれに触れず、私がどうしてこの世界にいるのか——そこから説明です。

 この世界の人間の国——『ルゼイント王国』絡みよりのない老婆の貴族を誘拐してきた『森人国』。

 誘拐されてきたその女性により、私を含めた五人の異世界人がこの世界に召喚されてまいりました。


「召喚!? 待て、待て、待て! それは国際法で禁じられているぞ!」

「え! そうなんですか!?」

「そうよぉ〜。だから余計に秘匿しておきたかったよの〜。国際規模で大変なことになるもの〜」

「そ、そんな母上はご存じだったのですか!? だとしても、それは異世界からの誘拐ということになるではないですか!」

「だからリセ様にと内緒にしましょうね、ってお話してたのよ。リセ様以外にも四人の被害者がいるんだもの〜」


 改めまして、お妃様のお言葉に納得です。

 お妃様が私にも言わなかった、隠れた“内緒にした理由”は、国際問題になる以外にも、私以外の誘拐されてきた『彼女たち』が精霊と契約したことにあったのだそうです。

 私含め、彼女たちもまた、誘拐されてきた被害者。

 けれど、精霊と契約して魔法が使えるようになった彼女たちは、他の種族——特に魔法が使えない竜人を始めとした種族にとっては脅威以外の何者でもないのだそうです。

 無論、長年魔法を研究して、数多の魔法の使い方を開発・継承・研究している『ルゼイント王国』の貴族には敵わないでしょう。

 つまり、『亜人国』は同盟国である『森人国』が過度な真似をすれば、同じく同盟国である『ルゼイント王国』に頼んで、『森人国』の粛清を行わなければならなくなる……ということだそうです。

 人間種は竜人に比べてとても弱い。

『森人国』と戦うことになれば、間違いなく竜人族以外の損害が出てしまう。

 竜人族が前に出ても、それでも、だそうです。

 それになにより、異世界から誘拐されてきた年端もいかない少女たちに“殺し”をさせることになるのは——最悪、彼女たちも殺されてしまう——……それはあまりにも、申し訳がない。理不尽すぎる。

 それを聞いた時、ちょっと涙が出ました。

 お妃様の優しさには感服です。


「ぐずん」

「リ、リセ……! 大丈夫かっ」

「はい。お妃様、ありがとうございます……」

「いいのよ。ふふん。藍善、これが器よ」

「ぐぬぬ……」


 ……なぜそこで張り合われるのか……。

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