王妃の器 3
そう言って、地面に思い切りおでこを押しつけました。
いわゆる土下座ですね。
なぜって——だって私は、この方々の『好きな人』と結婚するのです。
それは藍子殿下の命に関わることなので、私がいまいち理解できなくとも覆すことはできないのでしょう。
だから、そういう意味ではごめんなさい。
そして……私もこの人を……好きになりたいと思っています。
いいえ、もしかしたら、もう好きなのかもしれません。
でも誰かを好きになることも、誰かに好きになってもらうことも、私は無理だと諦めてきたので……これで本当に正しいのかわからないのです。
「リセ、この者たちに頭を下げる必要はないぞ!」
「あ、い、いえ、あの……」
「しかもなんで泣いているんだ! どうしてお前が泣く!? どこか怪我でもしたのか? すぐに医者に……」
「ち、違いますよ、違いますから……わわわ……」
隣に座った藍子殿下に、顔を両手で覆われ心配そうに覗き込まれてあわあわとなります。
きゃー、違うんです本当に〜!
そんなにご心配いただかなくても無傷ですから〜!
顔を近づけないでください〜!
どうしていいのかわからなくて……わ、わからなくてですね!
「ふん!」
「ぐえ!」
と、私が困り果てていたら喜葉様が藍子殿下を私から力ずくで引き剥がしました。
え、待ってください?
藍子殿下ですよ?
力ずくで、え? そんな不敬にあたりません?
個人的には大変助かりましたが、殿下が吹っ飛びましたよ?
え、そんな吹っ飛びます?
どんな力で引き剥がされたんですか殿下。
で、ではなくて。
「かわいい!!」
「は、はい?」
ガシッと肩を掴まれて、真顔でそう喜葉様から告げられました。
と、突然……どうされましたか? え?
「なるほど、そういうことでしたのね……。ふふ、ふふふふふ……まったく、それならそうと、言ってくださればよかったのですわ」
「本当ですわ! あたち、そういうことならリセ様のしたにつくのもやぶさかではなくってよ!」
「ええ、ええ! 朔子も今のお話でリセ様付きになることを決意いたしましたわん! んもー! そういうことでしたのねー!」
「え? え?」
顔を見合わせた、と思ったら、お三方は突然満面の笑み。
そして私から藍子殿下を引き剥がしたのち、お三人が私に抱きついてきました……!
「つまり、あなたはワタクシたちにやきもちを妬いてましたのね?」
「やだん、かわいいですわん、リセ様ったらん」
「ふふふ〜、そういうことならあたちたちもリセ様の味方になりますわー!」
「ええ、“原初の精霊”とも契約して、始祖様にも気に入られておられる。その上で、ワタクシたちを処罰するでなく『恋愛相談』をしてくるなんて……」
「え?」
え? あ、あら?
な、なにか? なにか話が不可解な方向に捉えれていませんか?
恋愛相談——!?
どこからそんな話が!?
「すごく可愛らしいですわーーー! リセ様、改めましてワタクシ、
「え!」
「まあ、ずるいのだわん、喜葉ちゃん! リセ様、リセ様、侍女にするのならこの
「やだやだ!
「「はあ!?」」
「っ」
実民様の『若い子アピール』に対して過剰に反応される喜葉様と朔子様。
先程より怖い感じなんですが。
「というかお前たち! 反省しているのか! 合体してまでリセを殺そうとしておきながら——!」
「あーら、過去にこだわるなんて藍子殿下ったら意外と器が小さいんですのね」
「は!?」
「朔子たちはリセ様を誤解していたんですわん。でもそれは今し方解けましたのん。リセ様ったら超絶可愛い乙女じゃありませんのん〜。もうこれは側で愛で愛でして差し上げなければですわん〜!」
「っ?」
な、なにが起きているのでしょう?
驚きすぎて涙が完全に引っ込みました。
先程まであれほど強く敵意を向けられていたのに、なにが彼女たちをこんなふうに変えてしまったのでしょうか?
まったくわからないのですが、ええと……。
「あ、あの、わ、私たちは、その、お三方に『仙森ノ宮』より出ていただきたくて、こちらにきたのですが、あの……」
「ああ、そういえばそんなこと言ってましたわね。いいですわよ。これからリセ様の侍女になるのですから、王太子妃邸に移り住みますわ」
「ふぁ!?」
「朔子も〜!」
「あたちも〜!」
「えええっ!?」
「はあああああああぁ!?」
ふよふよと浮かぶ黒檀様とティムファーファ様に見下ろされながら、飛び起きた藍子殿下が雄々しく叫ぶ。
それは不満たらたらの声色ではありましたし、私も意味がわからないのですが……。
「……」
とりあえず、任務は無事に達成された……ということでよいのでしょうか……?
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