原初の精霊 2


『原初の精霊』とは『五片魔王ごへんまおう』と同じく五体存在するそうです。

 原初と名がつくだけあり、この世界の創生に関わる存在。

 陰陽の神がまず基盤を作り、そこから最初に生まれた五行の精霊がお互いの力を喰らい、分け合い、五つに分かれ、そのぶつかり合いから多くの精霊が生まれた。

 その多くの精霊により世界は今の形になった、というお話。

 ……なんか思ってたよりもすごい存在ではありませんか?

 え? すごいというか、なんでそんなすごい存在がここに?

 私会話して大丈夫でした?


『最近の若者はミーたちのこと全然興味ないし、なんなら信仰もしてくれないからミーのこと知りたいってゆってくれて嬉しかったナリ!』

「そ、そんな……! 私は、あの、魔力がなくて精霊と契約ができなかったので……ティムファーファ様とお話しできてとても光栄でした」

『?』

「?」


 なぜか急に、ティムファーファ様は私の顔をじっと見つめられる。

 なんでしょう?

 金平糖がもっとほしいのでしょうか?

「食べますか?」とお聞きすると『食べるナリー』と嬉しそうに飛びついてきたので、やはり金平糖がお好きなんですね。

 見た目ももふもふの柴犬のようでとても可愛らしいです。


『……リセ、といったナリか。その方、もうしかしなくてもこの世界に生まれた民ではないナリな?』

「えっ」


 ぎくりとしました。

 どうしてそれを……。


『魂の感覚でわかるナリ。どうしてこの世界に来たナリ? 事故ナリ? 事故ならミーが元の世界に帰してあげるナリよ?』

「! 元の世界に帰れるのですか!」

『ミーは原初の精霊。不可能はあんまりないナリ!』


 なにかしらの不可能はあるんですね!

 いえ、それはいいとして!


「…………、……あ、えーと……」

『?』


 どうしましょう?

 説明してよいのでしょうか?

 お妃様にはお話してしまいましたけれど、相手は神様のような存在。

 でも——……でも、やっぱり、私……。


「私はいいのですが……私と同じようにこの世界に来た女の子たちが四人、『森人国』にいるのです。彼女たちを元の世界に帰してあげることは、できないでしょうか?」


 未来ある少女たちを、エルフたちの『兵器』のように扱われるのはあまりにも不憫でなりません。

 私もこの国に来てしまいましたし、私がいなくなったあとちゃんと生活できているかも気になります。

 そう言うと、ティムファーファ様は『では、今日の金平糖のお礼に見てきてあげるナリ。その子達が元の世界に帰りたいと言ったら、帰してくるナリ』とおっしゃってくださった。

 なんという!


「よろしいのですか?」

『異世界の民は異世界に帰すナリ。本人が望まない限りは、この世界には置かないナリ。連翹れんぎょうとの約束ナリ』

「!」


 連翹様。

 この世界に事故で訪れたという、黒檀様を育て導いたとされる異世界人。

 ティムファーファ様ともお知り合いなのですね。

 やはりとてもすごい方だったのでしょう。


「よろしくお願いします!」


 では、どうか彼女たちを……親元へと帰してあげてください。

 彼女たちには私と違って、両親や友人がいたのです。

 きっとなりたいもの、やりたいことがたくさんあった。

 この世界でエルフたちの矜持のために利用され、命令に従う必要はない。

 お願いします。

 どうか——。


『行ってくるナリ! じゃあねー』


 夜空へ消えてゆくティムファーファ様を見上げながら手を合わせる。

 彼女たちが元の世界へ、帰れますように。




 ***

 


 それから数日後——。


「まあ、初めてにしてはなかなかの作品なんじゃないかしら〜」

「ああ、素晴らしいぞ! リセ!」

「よ、よかったです……」


 ほんとうに……?

 城門の展示室に飾られた私の生花作品。

 約一週間程度、塔様につきっきりでご指南いただきましたが学べば学ぶほどに意味がわからなくなっていきました。

 あまりにも生花の概念が概念で。

 もう本当に、宇宙が見えてきました。

 正解がないため、自分の心と宇宙が対話していた?

 ……まあ、こんな感じで私の思考も混乱を極めていました。

 なにが正解かわからないと、すべてが正しく、すべてが間違っているように思うんですね。

 まあ、藍子殿下とお妃様が「いいね!」って言ってくださったので……多分、正解?

 いえ、生花に正解はありませんから、お二人の感性にはよいものとして捉えていただけたということですね?


「さて、それじゃあこのままわらわの旦那——国王陛下に会ってもらうわねん」

「っ! は、はい!」


 そうです。

 本日お城に来たのは、私の生花作品を城門の展示室に飾る以外にももう一つ。

 国王陛下と初めてお会いするのです!

 私と藍子殿下の婚約は実質決定済みですが、まだご両親——陛下とお妃様の許可がまだ出てないんです。

 なので、ちゃんとご挨拶して、お会いして許可をいただく。

 それが本日となります。

 とても緊張しているんですが、お妃様は「うふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ〜。だってリセ様の肩には始祖様が乗ってるんだもの」と微笑んでくださいました。

 そう言われますと、まあ、はい、確かに。


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