原初の精霊
「基本さえ抑えればなんにも問題はありません。生花は宇宙……生ける者の心を表します。最初は難しく考える必要はありません。ただ、そこにその花があることが美しいということを、他の方にも知っていただきたい、と思えばよい……と、わしは思います」
「は、はい」
「今日は遅くなってしまいましたね。帰り道にこれでもお食べなさいませ。それとも、お夕飯もうちで食べて行かれますか?」
「い、いいえ、そこまでお世話になるわけにはいきません!」
お隣の菜種様のお顔がとてつもなくいい笑顔すぎてとてもとても!!
絶対に無理ですね!
個人的にはもっと塔様のお話を聞いてみたいですが、菜種様が怖すぎて不可能です!
「……わあ、金平糖ですね」
「ええ。お昼を抜いてしまいましたからね。お腹が空いてはるでしょう? 夕飯まで摘んでおくとええですわ」
「ありがとうございます!」
エルフの国にはありませんでしたね、金平糖!
『亜人国』は本当に懐かしいものがたくさんあります!
塔様と菜種様にお礼を言って、帰路に着きました。
王子妃邸に戻るまでの道は、案の定完全にわかりません!
なので、やっぱり帰り道の案内を円歌様の式神にお願いすることにしまして。
それについていきながら、小さな袋に入った金平糖を一粒つまみ、口に運ぶ。
「甘いです〜」
『余も食べたいぞー』
「はい、どうぞ」
『ミーもたべたいナリ〜』
「はい、どうぞ」
ぽり、ぽり、と。
金平糖を食べる音が日の落ちきった藍染の空に響きます。
「…………。……?」
ところで今、黒檀様以外の声もしませんでしたでしょうか?
なんか普通にお口に金平糖を放り込んだような、気がしないでもなく。
黒檀様のお顔は私の左肩にあります。
では、今の右側にいた生き物は?
ちょっと怖いですが、右側をゆっくり向いて確認してみます。
「…………?」
小さな金平糖を両手で抱えてぽりぽり食べるもこもこふわふわの、この生き物はいったいなんでしょうか?
柴犬……? 白柴に見えますね?
「ええと、あ、あなたは?」
『わん! ミー? ミーはティムファーファ! 原初の精霊の一角ナリよ』
「せいれい……」
『おお、ティムファーファか。久しいな』
『久しいナリ、コクタン。最近見かけなかったナリが、どっか行ってたナリ?』
『ああ、うむ……うたた寝していたら空腹で動けなくなってな』
『は? ……え? うたた寝してたら、動けなくな……? ……ぶははははははは! ぶははははははははははははっ!』
『笑いすぎぞ!』
空中に浮かび、お腹を抱えて大爆笑する——精霊。
精霊って、まさか、
私がこの世界に召喚された理由。
それは、精霊と契約するため。
正確には、精霊と契約できるのが人間という種族のみであるため、エルフたちが
人間の国で精霊と契約できるのは貴族ばかり。
そんな貴族を五人も誘拐してきては、大事になりますからね。
しかしメイドとして働いている時に、ハイエルフ——エルフの王族たちが「こんなに簡単に精霊が人間と契約するのなら、『ルゼイント王国』の平民でもよかったかもしれない」と笑っていたのを聞いてしまったのです。
もし私という
……そう、私という存在がいなければ。
精霊は、人間なら誰とでも契約するわけではありません。
その事実が、ハイエルフやエルフを止まらせました。
私はそれが、契約できなかった私が一緒に召喚されてきた意味だと勝手に思っています。
しかし、そんな私の前に精霊。
精霊は、確か魔力がなければ見えないはず。
私が精霊を見られるのは、魔力のない私にも視認できるほど強い魔力を持つ精霊だから……とエルフたちが言っていましたね。
では、この精霊も?
確かになにやらたいそうなお名前と、始祖黒檀様と仲がよいように見えます。
『ひぃ、ひぃ……久しぶりにめっちゃ笑ったナリ』
『笑いすぎだがな』
『それで? この者が噂のこの国の王子妃予定の娘ナリか?』
「は、はい。リセと申します」
頭を下げると、『ミーはティムファーファ』と自己紹介をしてくださいました。
よろしくお願いします。
「ティムファーファ様はとてもすごい精霊なのすね。魔力のない私に見えるのは、高位精霊の証と習いました」
『そうナリね。ミーは原初の精霊の一角だからとてもすごくて偉いナリよ』
「原初の精霊……。勉強不足で申し訳ないですが、存じ上げませんでした」
『人間の王族以外は知らないナリ。知らないのが普通ナリよ』
「そうなんですか……では、どういったものなのかは聞かない方がよいですか?」
秘匿されているのかもしれませんし、出会ってしまったのもよくないことかもしれません。
ですが、ティムファーファ様は『別にいいんじゃないナリか?』とゆるくお答えくださる。
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