お妃教育、序 2


「あなたの希望は城でメイドの仕事をしてお給料をもらって大市で買い物したい……って聞いてるんだけど、お間違いないかしら?」

「はい!」

「…………」


 なぜか円歌様に頭を抱えられましたね?

 な、なぜ。


「え? あ、あの、王妃様に王妃の仕事は茶道と花道を覚えておいた方がいい、ということは教わってましたが……あの」

「いえ、いいのですわ。王妃としての式神に任せられるものは式神に任せればよいのですもの。ただ、王妃自身でやらなければならないお仕事がどうしてもいくつかありますの。それを教えますわ。それ以外はメイドとして働くとよいと思いますの」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 よかった、ちゃんとメイドとして働けるみたいです。

 ひとまず安堵しましたが、王妃自身で絶対にやらなければならないものの中で、特に毎月行うのは五つの行事。


 ・茶会

 これは王妃や王子妃が自分で知り合い、または興味のある人、繋がりを持っておきたい人など最低二人を招き、王城にある茶室でもてなし歓談を楽しむというもの。

 王妃様も茶道を習っておかないと大変、とおっしゃっていましたね。


 ・王城門に飾る生花

 毎月一日に王城門にあるガラスの展示室に飾る生花を、王妃と王子妃が生けるというお仕事。

 門の左右には縦長のガラスの展示室があり、城を訪れるほぼすべての者の目に留まるという。

 ……公開処刑でしょうか?

 王妃様のおっしゃっていた言葉に説得力が増していきますね……。

 すでに心が折れそうなお仕事です。


 ・年始の抱負書初め

 毎年一年の始まりの日に、王と王妃が国が掲げる抱負を巨大な紙に巨大な筆で書く催しがあるそうです。

 書かれた抱負は城の玄関ホールに一年中飾られる上、書初めは国民の見ている前で公開して行われる行事であるため絶対に失敗ができない。

 また、書き出す目標も王と王妃それぞれで考えておかなければならないのだとか。

 ……早くも胃に穴が開きそうですね。


 ・他国のパーティーへのお呼ばれ

 エルフの国にいた時もありましたが、国王の誕生日や、新たな王の即位などの冠婚葬祭は他国の王侯貴族を招き、大々的にパーティーが執り行われる場合が多いです。

 王と王妃はそれらに出席しなければならない。

 また、複数の国の冠婚葬祭が重なった場合は、どこを最優先にするか王妃が選んで決めなければならないそうです。

 国交ではないですか……私には大それたことすぎて胃が痛み出しました。


 ・その他、重要度の高い国家行事の責任者。

 近いものですと『竜誕祭』がこれに該当するそうです。

 そういえば王妃様がおっしゃっていましたね。

 ただ、これは名前を貸すだけで、部下に企画から現場の指揮やらをすべて任せてよいとのこと。

 ただし、あまり丸投げにしすぎてなにかトラブルがあった場合、すべての責任が王妃に跳ね返ってくるので程よい現場視察は必須。

 特に私は人間であり、藍子殿下の妻の座を狙っていた竜人族の女性たちから恨まれているので、最初のうちは絶対に現場に足を運ぶべき……とは円歌様の助言です。

 思わず胃を押さえました。

 なんということでしょう。


「もちろん、あなたは藍桜様だけでなく、黒檀様に認められた藍子殿下の婚約者です。そのことは誇ってよいことですし、それを自覚して行動しなければなりませんわ。藍桜様のような振る舞いは、藍桜様だから許されているのです」

「はい」

「ですが、王妃、王子妃という立場は人の上に立つ地位と権威を持ちます。我が国では王妃の仕事量は国王よりも多いため、その分権威も強く尊敬もされますの。あなたはどうもへりくだりすぎるところがあるから、もっと偉そうにする……偉そうな振る舞いを覚えるのがいいかもしれませんわ」

「えっ」


 偉そうに振る舞う?

 わ、私が?


「そ、そんな、無理です! 私はそんなたいそうな人間ではありません! なんにも取り柄もありませんし、無能ですし、役立たずですし、お妃様や円歌様のような美貌もありませんし、殿下に金的してしまったのも本当にたまたま偶然ですし……!」

「金的!?」

「あ……」


 しまった、口が滑りました……。


「あ、あなた藍子殿下にそんなことをしましたの……!? 藍子殿下、あなたにそんな仕打ちをされるような無礼を働きましたの?」

「い、いいえ、あの、たまたま偶然……本当に私がドジだっただけでして……。転びそうになったところを、藍子殿下が助けてくださろうとしたのですが、私はそれに気づかずバランスを取ろうとした結果、偶然あげた足がゴキっと……」

「ま、まあ〜〜〜……おとなしい顔して恐ろしいことをしますのね〜」


 やっぱりそうですよね。

 でも本当にわざとではないんです。


「ま、あとは藍子殿下との仲を深めていくのもあなたの重要なお仕事ですわね」

「ふぇあっ!?」

「当たり前でしょう、夫婦となるのですよ」

「うっ」


 た、確かにその通りなんですが。


「で、ここまで聞いて、質問や希望はありますの?」

「え、あ……ええと……」


 王子妃として、王妃の仕事を今から覚えていくのも了解です。

 王妃様から教えていただいたことが、だいたいその通りというのも理解しました。

 希望としては今すぐにでも城のメイドの仕事をしたいですが、王太子の婚約者としていずれ王子妃となるべくそちらの仕事を覚える方が重要ですよね。

 では……やはり。

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