お妃教育、序
それから大事をとって一日お休みをいただき、その翌日。
すっかり元気になりました!
「では、改めて……
「よろしくお願いします!」
王子妃のお屋敷、お庭。
そこで私は円歌様にお仕事を指南していただくべく、頭を下げます。
私の肩に巻きつくように乗っかる黒檀様に、円歌様はわかりやすく緊張なさっておられるようです。
でも、私が「お部屋でお待ちください」とお願いしても、黒檀様は聞いてくださらないので……すみませんが諦めてください、円歌様。
「はぁー、あなたほんとに……いえ、さすがは藍子殿下に勝利した女、ということなのかしら」
「え?」
「いいえ、まず先に言っておくけど、わたくし藍子殿下が人間の娘を妻にするというのには反対だったのですわ。わたくしの娘を妻にしていただく野望がありましたのよ」
「え!」
それは私に言っても大丈夫なんですか!
「だから徹底的にいじめて差し上げようと思ってたら、あなた黒檀様を見つけてしまうんだもの。わたくしの負けですわ」
「え、ええ……?」
勝負の前に勝ってしまいました……?
「ですが、わたくし以外にもあなたを竜人族の次期国母と認めない勢力はまだ潰えたわけではありません。自覚はまだないでしょうが、この国は大陸最強の種族、竜人族の国。あなたはその次期国王藍子殿下の妻となるのです。王妃の仕事は藍桜様より、物理的に不可能な量であると聞いておりますわね?」
「は、はい」
「それでも藍桜様は式神を使って、それなりにこなしておりますの。もちろんそれでも手が回らないものは、わたくし達のような城の部下にお任せになります。わたくしがあなたを竜人族の次期国母として認めるつもりがなかったのは、あなたが人間で、式神が使えないからですわ」
「っ」
確かにその通りです。
私には鱗はありません。
式神は竜人の鱗を用いて作り出すもの。
鱗のない私には、式神を作り出すことなど不可能……。
円歌様が私を次期王妃として反対なさる理由、とても納得のいく理由です!
……あら? ではどうしたら……?
『なんの、式神なら余の鱗を使えばよい』
「え?」
両の手を出せ、と黒檀様に言われたので、両手をお椀の形にして差し出すと『ホイ』っと突然私の両手に大量の鱗が!
どどどどどこからともなくー!
「えっ、えっ!」
「……まあ、そういうわけで『式神を使えないから』って理由で反対はできなくなったのですわ。もう、あなたの両手から溢れそうな鱗の数でわかる通り、わたくしたち竜人族の式神の数には限りがありますの」
「へ?」
「どんなに竜の姿に変身できるからといっても、常にその姿になれるわけではないですわ。鱗は竜の姿になった時にしか獲れません。そして、その鱗の数——式神の数が多ければ多いほど優秀とされるのが、わたくしたち竜人族のメスなのですわ」
なんとー!
そういうことだったんですか!
さらに言えば、式神にできる鱗は品質や形がよく保たれたものに限るんだそうです。
また、人間の姿と竜の姿は決してイコールではなく、王妃様は人間の姿の時とても小柄で、可憐な少女のようですが……竜の姿は陛下よりも巨大で、陛下は一撃で叩き落とされた……という伝説があるのだとか。
ひょえぇ……。
「……ましてあなたが今手にこんもり抱えているのは、始祖様の鱗ですわ。……世界中の竜人のメスが束になっても勝てるわけありませんの」
「え、えぇ……? で、でも私のものではありませんし……?」
『よいよい、使え使え。リセは我が命の恩人。我の力は汝のものと思え』
「ええ? し、しかし……」
『子孫の嫁御じゃ。余は人間に育ててもらった故に人間は大好きじゃ。リセは孫娘のようなもの。可愛いのぅ、可愛いのぅ』
竜人族の始祖様の孫娘になってしまいました……?
「そんなわけで式神の問題と、王妃としての仕事をこなしていけるか的な問題も解決したのですわ。藍桜様も基本的に仕事は式神に任せきりですから」
「な、なんと……」
けれど、『仕事を式神に任せる』という話を聞いて少し合点がいきました。
こんな大きなお屋敷や立派なお庭、どう管理して維持していけばよいのかと途方に暮れておりましたが……なるほど、式神にお任せすればいいんですね。
「基本的に我が国では王妃となる方にこの屋敷に住んでいただき、己で考え、気づき学んでいただくんですわ。けれどあなたは人間で、“気づき学ぶ”という一点において時間が足りなくなりそうなのですの」
「時間ですか?」
「ええ、単純に人間が六十年とか七十年で死んでしまう、短命な種族であるという点と……始祖様が見つかったことで百年ずれ込んでいた、陛下の退位が現実味を帯びきてた点です」
「!」
王妃様が「引退できる〜!」と喜んでいたアレですか。
円歌様は頷いて話してくださいました。
現国王と王妃様は、藍子殿下が成人されたら即引退するつもりだったのだそうです。
けれど引退……『退位の儀』には始祖様の同席が不可欠で、同じく藍子殿下が王となるための『即位の儀』にも始祖様の同席が義務づけられている。
始祖様がうたた寝&空腹で行方不明になっている間、それが延びに延びて百年経過していましたが、発見されたのでようやく行える、というわけですね。
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