腹ペコ子竜と 2


「わあ……焼き魚……それにお味噌汁とご飯です……」


 焼いてあるシャケ。沢庵たくあん

 豆腐とうふのお味噌汁と白いご飯がほかほかと湯気を立てて、箱の中のお盆の上に置いてありました。

 すごい、どうなっているのでしょうか?


『じゅるり……』

「美味しそうですね。式神さん、肩に乗っててください。テーブルに持っていきましょう」


 そう言うとぐったりしていた式神さんが、よじりよじりと私の肩に登っていきます。

 翼があるのに手足で登る姿はなんだかかわいいですね。

 お盆を持ち上げ、キッチンの隣の部屋へと持っていきます。

 そちらのお部屋は食事を食べるための部屋。

 座椅子のある背の低いテーブルと、畳。

 その奥にはフローリングで洋風の椅子とテーブルがある区画と、食べる場所が二種類もありました。

 いま床に座ると起き上がれなくなりそうなので、今日は洋風の区画で食べましょう。

 椅子に座り、テーブルの上へお盆を置くと、肩から式神さんが降りてきました。

 テーブルにジャンプすると、「たべていいか?」みたいな顔で私を見上げてきます。

 かわいらしいですね。

 つい、頬が緩んでしまいます。


「はい、どうぞ。好きなものを食べてくださいね。あ、でもお味噌汁は汁物なので、気をつけてください」

『あぎゃぎゃ』

「いいんですよ。私も少しいただきますね」

『あぎゃー』


 ふふふ、さっきよりも元気そうです。

 他の式神さんは飛んだり浮いたりしていますが、この子だけご飯を食べるなんて……なにか特別な式神さんなんでしょうか?

 シャケをがぶりと端からわしゃわしゃ口に飲み込んでいくのを眺めながら、私も箸を手に取りました。

 食欲はありませんが、勢いよく食べていく式神さんを見ていたら、少し食べたくなりましたね。

 ご飯をいただきます。

 あ、甘いお米、美味しいです。


「式神さん、骨は大丈夫ですか?」

『あぐあぐ……あぐぐぐっ!』

「あらら……刺さってしまいましたか? 見せてください」

『あぎゃー』


 あーん、と口を開けた式神さんのお口を覗き込むと、ちょうど奥歯のところに骨が一本。

 箸で取れるでしょうか?

 ともかく試してみましょう。


「箸で引き抜いてみますね。ダメそうなら、指でやってみますけど……噛まないでくださいね」

『あぐあぐ』


 とても賢いですね、式神さん。

 では、まずは箸で……つまんで、えい!


『あぎゃ!』

「取れました〜」


 ——と、喜んでいたその時でした。


「ごめんくださいませー」

「!」


 屋敷のずーっと奥から声がします!

 いけません、きっと昨日お妃様が言っていた円歌様という方です!

 お出迎えしなければ……。


『あ、そのままでよろしいわよ』

「!」

『これはわたくしの式神。待っておいでなさい、今参りますわ』

「あ……」


 白い子竜が、頭の上を飛ぶ黒い子竜の式神に混ざっていた。

 人によって式神の色が違うのですね。

 ぼんやりそんなことを考えていると、ドスドスというなかなかワイルドな足音が聞こえてきました。


「どーもどーも! 円歌さんとはわたくしのことですわー! 藍子殿下が人間の小娘を婚約者として連れてきたなんて、なんかの冗談だと思いましたけどどうやら本当みたいですわね! うちの娘と結婚させるつもりだったのに! おーっほほほほ! さあさあ、どんなもんなのか見て差し上げますわ——……って」

「…………。……あ、は、初めまして、リセと申します」


 やってきたのは白い髪の竜人の女性です。

 竜人の方は皆エネルギッシュですね、すごくたくさん大声で喋っておられて、頭が上手く働いていない私はなにを言われたのか半分も理解できませんでした。

 でも、わざわざきていただいたのに、ご挨拶もしないままなのはいけませんね。

 立ち上がって自己紹介して頭を下げます。

 その時にテーブルの上で、ガッガッと食事を続ける式神さんが目に入りました。

 わあ、すごい食欲です……私が食べる分はなくなってしまいそうですね。

 私は食欲かないので、食べてもらえるとありがたい気がしないでもないのですが。


「え、なっ、え? ……し、始祖様?」

「え?」

「きゃあああああああ! し、始祖黒檀こくたん様がなぜそこにぃ!? ちょ、ちょ、ちょ、ま、待って! 待って!」

「?」


 円歌様がなにやら慌て始めましたね?

 ああ、頭がぽかぽか、ぼんやりします。

 立っているのがしんどいです。

 でも、来客中に倒れるわけにはいきませんし……。


「あれ……?」


 でもなぜか目の前が暗かったり白かったりと点滅していますね?

 あら? これはもしかして、まずい?


「え? え! ちょ、ちょっと!? リセ様……!」 


 ぶち、と電池が切れたように、多分私は倒れたのでしょう。

 体が痛いです。

 そしてとても遠くから、円歌様の声が、聞こえた、ような——……。

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