腹ペコ子竜と
ダメです、反論する余地がありません。
私はまだ大丈夫なのですが……うーん……。
「というわけで藍子殿下は城へお帰りください! 陛下へのご報告は終わったのですか!?」
「ま、まだ……」
「早く行きなさい!」
「はい! ……リ、リセ、ま、また明日も来てよいか?」
「あ、は、はい」
「約束だぞ! ではな!」
菜々様の剣幕に、ものすごく焦りながら飛び去っていく藍子殿下。
気持ちはわかります。
美人な菜々様の怒ったお顔、怖いですね……。
「まったく! いつまで経ってもお子様なのですから……! さあ、リセ様、お布団の使い方をお教えします」
「あ、だ、大丈夫です! 知っています!」
「え?」
「……私が元の世界で住んでいた国は、この国の文化ととてもよく似ている場所でした。お布団もありましたし、多分、食文化も近いのではないでしょうか」
最後のそれは、いただいてきた重箱の中身を思い出しながら告げた。
と言ってはみたものの、現代日本ではなかなか見なくなったものも多そうではあります。
このような立派な日本庭園とか、もはや立派なお寺とかにしかなさそうですよね。
「まあ、そうでございましたが。でしたら慣れるのも早いかもしれませんね」
「はい」
「とはいえ、やはりご無理は禁物にございます。本日はお休みください。お風呂の準備は終わっておりますので、まずは湯浴みをなさってください。お腹が空いておられるようでしたらお食事の準備もできております」
「え、え? そ、そんないつの間に……」
「我ら竜人族は精霊と契約できませんが、鱗を用いた式神を操ることができるのです。このように」
そう言って菜々様はどこからともなく複数枚の小さな黒い鱗を取り出すと、フウ、吐息を吹きかけます。
すると不思議なことに、小さな子竜がたくさん出てきました……!
彼らはふわふわ浮いて、屋敷の中へと入ってきます。
これが、式神……! すごいです!
「屋敷の使い方が問題なさそうでしたら、私は次の職務がありますので失礼させていただいても?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ありがとうございます。私の式神を残していきますので、なにかあればそれにお申しつけくださいませ」
「わかりました。色々ありがとうございました」
「いいですか? しっかり! お休みになってくださいね!」
「は、はい」
菜々様を見送ってから、屋敷に入る。
純和風の建物ですね。
木の香り……やはりとても落ち着きます……。
ふわりふわりと浮かぶ式神たちは、特になにか意志があるようには見えないですが……。
「あの、お風呂はどこでしょうか?」
と聞くと、小さな翼を動かして廊下を同じ方向に進んでいきます。
なんだか可愛らしい。
彼らに連れられてやってきたのはお屋敷の東の方。
大きな戸を開けると、竹と檜の香りがする脱衣所がありました。
「わあ、お風呂は意外とこじんまりとしているんですね」
お風呂のそばでふわふわ浮かぶ式神たち。
脱衣所は銭湯のような服を入れる棚があり、とてもいい香りがします。
湯のほかほかとした空気がここまで流れてきているのでしょう。
そして、竹で編まれた籠の中には白い薄手の着物。
な、なんと……着替えまでも……。
あ! し、下着までもあります!
す、すごいです、至れり尽くせりです!
「……私もできるようになるのでしょうか……」
メイドとして二年働きましたが、式神という竜人族の能力を知ったあとだとまたも自信がなくなってきました。
い、いいえ、仕事を覚える前から挫折するわけにはいきませんよね。
まずはお風呂です!
いざ!
***
…………と、そのように意気込み、お風呂に入り、式神さんに部屋へ案内してもらうついでに事前にお布団を敷いてもらっていた私ですが。
翌日のこと。
「あつい……寒い……」
どうやら熱を出したみたいです。
体の震えが止まりません。
ど、どうして……。
『生活環境がガラリと変わるのですよ? 体調を崩しかねません』
……あ、あれですかね?
菜々様は預言者です?
はわー、私は私が思っていた以上に貧弱で軟弱でしたか〜!
「……喉が渇きました……」
しかし、昨日から働き詰めの式神さんたちにお願いするのは心苦しいです。
水くらい自分で持ってきましょう。
よろよろと起き上がり、飲み水のある場所……キッチンはどこかと聞くと、式神さんたちは親切に誘導してくれます。
とても助かりますね。
『きゅぅ……』
「?」
頭がガンガンと痛みますが、その弱々しい声はなぜか鮮明に聞き取れました。
それは中庭の真ん中にある
中庭へ出るための
「まあ、どうしたのでしょうか……? 誰かにいじめられたのですか?」
『きゅ、きゅう』
「え? お腹が空いてるんですか? ……そういえば私も昨日からなにも食べてないんですよね……。よろしければ、一緒に食べますか? 食欲がないんですけど、あなたと一緒なら食べられそうです」
きっと迷子の式神さんでしょう。
その子を灯籠の中から持ち上げて胸に抱き、私は廊下に戻りキッチンへと向かい歩き出します。
キッチンには鉄製の箱があり、式神さんがその上をクルクルと回っていました。
おそらくこの中に食事が用意してあるのでしょう。
取手の近くにくるりと回転させれば外れる鍵があり、それを外して扉を開くと——なんと不思議なことに湯気が出てきました。
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