王子妃の屋敷 2
私はダメダメです。
この屋敷を見た時、無理、としか思いませんでした。
どうしても私でなければダメなのでしょうか?
私以外の、もっと相応しい人がきっといると思う…………のに……。
「そ、そうか、よかった」
藍子殿下は、私と姑となる王妃様との関係が大丈夫そうだと言っただけで、こんなに嬉しそう。
竜人族は私では想像もつかない生態の生き物。
来て早々に逃げ出したくなりましたが、逃げてどこへ行くというのでしょうか。
私に行く宛などないというのに。
「そうだ、不安は多いと思うが、俺や母上がいる故、なんでも相談するのだぞ! 遠慮はいらんからな!」
「は、はい……、……あ、あの……では、その……」
「お、おお! なんだ? なんでも言ってくれ!」
な、なんだかものすごくキラキラした表情……!
な、なぜ?
「す、住むところが、こんなに大きいと思わなくて……ちょっと、今、どうしていいのか、わからなくて……」
「ああ、王子妃となる者に最初に与えられる“教材”であると聞いている」
「! ……きょ、教材……?」
「うむ! 王妃となるべく身につける『人の使い方』や『屋敷の主人としての振る舞い方』など、必要なことが身につくのだと聞いている!」
「……!」
そ、そうだったんですね!
このお屋敷を使いこなしてこその『王子妃』、というわけだったのですか。
ここで王子妃——ひいては、王妃として必要な能力を身につける……。
ここに住み、維持し、次の王子妃に受け継がせるまでが……勉強だったのですね!
『王子妃』という『お仕事』の、『お勉強』!
「私、できそうな気がしてきました!」
「おお、そうか!」
「はい! ありがとうございます、藍子殿下」
「っ!」
「では!」
頭を下げた私と殿下の間に、菜々様が入ってくる。
そして殿下へ手を突き出すと、とても険しい顔で「ここからはリセ様の新生活準備となります」と言い放つ。
「リセ様、まさかとは思いますが正式な婚約者手続きも終わっていないのに、藍子殿下と一緒に住われるおつもりですか?」
「え? …………。えっ! いいいいいいえ!」
「ですよね?」
菜々様に言われたことを、最初は理解できませんでした。
けれどよーく考えると、私はまだ正式な婚約者ではないのです。
先程大市で「結婚のお話をお受けする」というのはお伝えしましたし、私も藍子殿下が死んでしまうくらいならばそれしかないと思いますが。
しかし、ではその正式な手続きとやらは?
お妃様はお会いしましたが、陛下にはまだお目にかかっておりません。
竜人族の正式な手続きとはいったい……?
そして、それを終わらせていないのに、藍子殿下と一緒に住むなんて——!
無理無理無理無理! 絶対無理です! それこそ破廉恥です!
「そ、そんなつもりはないが、リセともう少し話をしてもいいだろう? まだゆっくりと話せていないのだ。頼む、菜々」
「なりません。ゆっくりお話しする機会でしたら、今後お互いに作っていくこともできましょう。……それに、藍桜様より、本日はリセ様をゆっくり休ませるよう仰せつかっております」
「!?」
「え? あ、あの、でも?」
私は平気ですが、と言おうとしたら、凄まじい顔で振り返る菜々様。
硬直しました。
呼吸を忘れましたね、はい。
「リセ様、あなたは人間です」
「ひぇ……は、はい」
「人間は大変弱く、脆い生き物です。そんなあなた様が、どのようにして藍子殿下を打ち負かしたのかは私どももまだ聞いておりませんが……」
金的しましたとは私の口からもとても言えませんで……。
「少なくとも、『森人国』からここまでは殿下たちの竜の姿の背に乗っていらしたのでしょう?」
「あ、は、はい。乗せていただきました」
「一日でこちらまで戻ってきたのですよね?」
「は、はい。すごい速さで驚きました」
「馬鹿ですか!」
「ひぇっ」
私ではなく、藍子殿下が菜々様に怒られました。
ものすごい剣幕で私も喉が引きつってしまいました。怖いです。
「な、なにがだ、菜々」
「か弱い人間の女性を殿下たちのようなスピードの調整もできない野蛮なオスの背に乗せてくるなんて、どうせ揺れや空気の抵抗もあまりよく考えずいつもの自分たちの飛ぶスピードで帰ってきたのでしょう!? 途中休憩などもせず!」
「…………」
藍子殿下が思い切り目を逸らしましたよ!?
言われてみれば確かに休憩はありませんでしたね!?
「だ、だ、だが、リセが飛ばされないように俺が一番先頭を飛んで空気抵抗は……」
「お黙りあそばせ!」
「すみません……」
藍子殿下が謝りました……!
「その上、どこからいらっしゃったんですか? 大市に寄ってきたようですね? リセ様からおうかがいしました」
あ、はい。
大市を見てそこで買い物したいと言いましたね……?
あ、あら? 言ってはいけないことでしたか?
「大市などという人混みの中で揉まれて疲れる場所を連れ回し、民の前でリセ様に結婚を強要し、他の選択肢も与えず了承させ、そのまま藍桜様にお目通りをさせたのでしょう? どんだけ気遣いができないんですか、あなたは? これだからオスは」
「あ、あの、な、菜々様、私は大丈夫です! それなりに頑丈な方で……」
「生活環境がガラリと変わるのですよ? 体調を崩しかねません。今日はお布団を敷いて、すぐにお休みください。明日、藍桜様がおっしゃっていた
「……あ、は、はい……」
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