王子妃の屋敷
「ご飯も食堂があるから、好きな時に行って食べるといいわ〜。後宮に住んでる人はお金はかからないから、たくさん食べてもいいわよ」
「え、お金がかからないんですか?」
「お金は売店や週に一度来る商人の品物を買う時にしか使わないわねぇ。売店は日用品とか、商人に持ってきてほしい品物のリクエストができるわ〜。緊急で必要なもの——たとえば月経用品とか、お薬とかを売店で買うのよ〜」
「そうなんですか……」
竜人の女性にも月経があるんですね。
い、いえ、生物である以上、あるのが普通……?
生態がかなり違うようなので、やっぱり少し驚きです……?
「菜々、リセ様を王子妃用のお部屋に連れて行ったあと
「かしこまりました。藍桜様はこのあとどうなさるのですか?」
「わらわ、このあと『竜誕祭』の準備があるの〜。あ、そうだリセ様〜、来月『竜誕祭』っていう年に一度のお祭りがあるのよ〜。大市よりもすごくたくさん出店が出て楽しいから、お給料貰ったら藍善と遊びに行くといいわ〜。ママがんばるわね〜」
「『竜誕祭』、ですか……?」
初めて聞きます。
と、思ったら、それはこの国の王家の誕生日祭というものなのだそうです。
この国の王族は、誕生日当日を祝わない。
すべて竜人の始祖である黒竜様のお誕生日に、一緒に祝うのだそうです。
それが『竜誕祭』。
「じゃあねぇ」
「は、はい。色々ありがとうございました」
「いいのいいの〜。わからないことがあったり、困ったことがあったらなんでもわらわに相談してねぇ〜」
そう言ってお部屋から立ち去っていく王妃様。
……あれがこの国の王妃様……私が目指すべき人、なのですね。
気さくでとても素敵な方でした。
私もあんなふうになれるのでしょうか……?
「では、お部屋に案内いたします」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
菜々様にそう言われ、お菓子やお茶はそのままにしてよいと言われましたがつい、持ってきてしまいました。
だってすごく綺麗で食べられなかったんです、箱庭のお菓子……。
そして三重の重箱を抱えながら後宮の奥へと案内され——。
「こちらが王子妃となられる方、または王子妃様が住われる、『
「っえ……! ま、待ってください!」
「はい。なんでしょうか? なにかわからないことでも?」
「……お、お部屋と聞いておりました……」
「はい。王子妃様のお部屋でございます」
「お、お屋敷にしか、見えませんがっ……!?」
「城の中の『お部屋』という扱いですが、妃のお住まいですので狭くはございませんね」
「そ、そんな! こ、困ります! こんな広いお屋敷……私一人ではとても……!」
そこは塀に囲まれた大きなお屋敷です。
先程お妃様とお話しさせていただいたお部屋から一度外へ出て、木柵に囲まれた迷路のような通路を進んできたのですが……よもやお屋敷に到達するとは思いません。
こちらも木柵に周りを囲まれており、門構から中へ案内されると、それはもうご立派なお屋敷。
日本庭園まであります。
無理です、無理無理絶対無理……!
こんな大きなお屋敷に一人で住むなんて。
お部屋がもったいないですし、お庭のお手入れも無理です。
王妃様、「派手だったらカスタマイズしていい」っておっしゃってましたけど、そういうレベルではありませーーーんっ!
「藍桜様も陛下に見染められ、こちらのお屋敷に来た日に同じことをおっしゃっておいででした」
「っ!」
「そして、そのあとこの屋敷を『どう使うか』、『どう維持するか』、『どう次の王子妃に残すか』をご自身でお考えになりました」
『どう使うか』、『どう維持するか』、『どう次の王子妃に残すか』……次の王子妃に……。
「………………」
言葉が出ない。
黙るしかありません。
私一人ではとても使いこなせませんし、維持もできませんし、次の王子妃に残すか、なんて……そんな先のことまで考えてなんていませんでした。
王妃様は私とは違うのだ、とまざまざ思い知らされた気がします。
私にできるとは思えないけれど、頑張ろう。
その考えが浅はかだった気さえしてきました。
やっぱり無理……。
「っ……」
でも、私が逃げたら藍子殿下が……!
「リセ! やはりここだったか!」
「きゃっ!」
「藍子殿下」
菜々様が閉めてくださった門が突然勢いよく開き、大声で名前を呼ばれて跳ね上がってしまいました。
びびびびびっくりしました、本当に驚きました。
誰かと思えば藍子殿下ではないですか!
「母上に会ったか? そ、その、どうだった? 仲良くやっていけそうだろうか? 母上は、その、かなり独特な感性というか性格というか、見た目も少女のようで、とても俺のようなデカブツを生んで育てた人には見えないらしくて……その、あまり第一印象でよい感情を持たれないことが多いらしくて……」
「そ、そうなのですか? 大変可愛らしくて素敵な女性だと思いました」
「! そ、そうか! な、仲良くしていけそうか……?」
「は、はい。とても優しくしていただきました。なんでも相談してね、と言ってくださいましたし……」
むしろ、現在進行形で王妃様と自分の差に泣きたくなっておりました。
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