竜の王妃 4


 そ、それは……! 確かに……!

 一ヶ月間、下手な生花を晒し物にされるなんて……!


「茶道もね〜、月に一度なんか偉い感じの人たちを三人くらい集めて、お茶会を開かなくちゃいけないの〜。他国のお茶会と違って、うちの国のお茶会は茶室というところで行われるのよ〜。そんな密室で偉い人に茶道のアレソレ全部見られてるって本当すっごいヤッバイのよね〜」

「あばばばばばば……」


 きょ、恐怖……! それは恐怖です……!


「王妃の仕事って色々あるんだけどね〜、わらわの前の王妃もその前の王妃もみんな口を揃えて『完璧にこなさなくていい』って言うのよ〜。わらわもそう思うわ〜」

「……か、完璧にこなさなくていい、ですか?」

「そうよぉ〜。たくさんあるし、全部覚え切れないの〜。ほら、他の国よりも国王……夫の仕事が少ないのよねぇ、うちの国の」

「あ……」


 そういえば竜人族の特徴として、男性は戦闘特化。女性はその他に特化していると聞きましたね……?


「竜人族のオスが自分より強いメスを求めるのは、自分ができないことが多いから、自分より強いイコール自分よりも多くのことができるメスを求める、って感じなのよ。オスどもはそこんとこ絶対認めないけど〜」

「……あ……な、なるほど……?」


 藍子殿下たちの説明より圧倒的に合点のいく説明をいただきました。


「まあ、オスどもの言い分も嫌いじゃないけどねぇ〜」

「そ、そうなんですか……」


 男性陣の言い分って、あのよく分からない『心が折れたから』的なやつですよね?

 え、そうですかね?

 私にはわけがわかりませんでした。

 今もわけがわかりません。


「まあ、だから、全部完璧にこなすなんて時間的にも物理的に無理無理〜。サボっていいやつはバンバンサボって〜」

「え、えぇ……?」


 そ、そんな、でも、いいのでしょうか?

 王妃という立場がそんなに忙しいお仕事だったなんて……。

 サボるなんて、他の方のご迷惑になるのでは……?


「で、息子や娘が生まれたらバンバン任せちゃうのよ〜。『国際会議』に藍善を行かせたのはそういう理由〜」

「は、はぁ……」

「自分で管理できない時は侍女を雇うのがおすすめよ〜。スケジュール管理ができて、口が堅くて、かわいくて話が合う子だとサイコー! わらわの菜々みたいな、ね」


 ぺこり、と菜々様からお辞儀をされました。

 私も思わずぺこりとお辞儀を返す。

 ……雇う……自分で選んで雇用しなくてはいけないのですね。


「今言った通り竜人のメスはだいたいオスより能力が高いわ〜。でも戦闘に関してはやはりオスの方が強いから、人間のリセ様は護衛にオスの竜人を雇うのもいいかもねん。藍善に相談すれば側近の一人くらい貸してくれるんじゃない? あの子の側近ならあの子が信頼を置いてる者たちだもの、色々都合がいいと思うな〜」

「い、いえ、そんな……私なんかに護衛だなんて……!」

「後宮の外でなにかする時はついてきてもらった方がいいわよん。人間ってすっごく脆いもの」

「…………」


 曰く、人間のそこそこ偉い人と話す機会があり、その時冗談のつもりで背中を軽く叩いたら五メートルも飛んでいってしまい、他の人間の治癒魔法でことなきを得たことが何度かある……らしいです。

 さすがに最近は触るのをやめたそうで。

 もうすでに怖い話なんですが……。


「藍桜様が力の制御を苦手となさるからですわ」


 と初めて口を開いた菜々様。

 力の制御が苦手なんですか……。


「確かに無礼な口を利いていましたけれど」


 あ、これ軽く冗談で殴られた方に問題があったっぽいですね……。


「だから無理なんかしなくていいわ〜。自分のやりたいことを優先していいの〜。わらわも今こうしてリセ様とお話してるけど、この時間王妃の仕事に使おうと思えば五、六個の案件片づけられたのよ〜」

「えっ!」

「でもわらわは娘になるリセ様に会いにきたかったしお話したかったの。そんなカンジでイイの〜。リセ様はなにかしたいことあ〜る〜?」


 そんな、と口から溢れるように言葉が落ちた。

 自分のやりたいことを、やるだなんて……。


「……とりあえず、仕事を……仕事をして、お金を……お給料をいただいて、大市でお買い物を、してみたい、です……」


 私は、慎ましく、穏やかに、誰にも迷惑をかけず、目立たず……静かに生きていけたらそれでいい……と、思っているのですが。

 王子妃や、王妃とは、私の望みとは真逆の存在です。

 けれど、私がそれを拒んで藍子様が亡くなるのなら、私はそのお仕事を頑張るしかないですよね。


「お仕事をするって、具体的にどんな?」

「え、ええと……希望としては、エルフの国でやっていたようなメイドのお仕事をやりたいな、と……。目立たず、褒められることもなく、黙々と言われたことだけやっていればご飯が食べられて寝る場所もいただけたので、性に合っていたといいますか……」

「ふぅ〜ん。いいんじゃないかしら〜。寝る場所は王子妃用のお部屋があるから、否が応でもその部屋を使ってもらうことになるけど〜。まあ、派手すぎてヤなら自分で模様替えしちゃえばいいし〜」

「そ、そうなんですね」


 王子妃用のお部屋が……ま、まあ、そうですよね。ありますよね。

 自分で模様替えですか。

 DYIはやったことがないのですが、私にできるでしょうか?

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