竜の王妃 3
「藍善には話した?」
「い、いいえ……」
でも、なんとなく察されているような気がしなくもなく。
とはいえ、召喚のことが他国にとってこれほど問題だったなんて。
エルフの人たち、ずいぶん危ないことするんですね……。
というか……バレれば国の立場が悪くなる——それなのに私をあんな「やっと厄介払いできた」みたいにこの国に来させてよかったのでしょうか?
『……いいか、役に立たない無能のお前に唯一できることを教えてやる。竜人族の王子を殺すことだ』
『まあ、役立たずで無能なお前にそれができるとは思えないがな。私がこう言っていたことを奴らに伝えても構わんぞ。我ら誇り高いエルフ族は、いつでも侵略者に備えているからな』
執事長の言葉が蘇ってきます。
王太子暗殺をほのめかし、それを『亜人族』の方々に伝えることを「構わない」とすら言っていました。
なんだか今になって恐ろしくなってきました……執事長は、なぜあんなことを……?
今ここで王妃様に相談した方がいいのでしょうか?
けれど、それだと執事長の言った通り“伝える”ことになってしまいます。
私のせいで、なにか陰謀のようなものが動いたら——……ダ、ダメです! そんなのいけません!
「構わないわよ」
「ふぁ!?」
「『森人国』のエルフやハイエルフは昔からそうなの〜。わらわたち……というより、自分たち以外をまるで信用しない。獣人やドワーフもその傾向はあるんだけど、友となれば種に垣根はない種族。エルフだけはダメねん。頭が硬すぎて、まるで話にならないの〜」
とても申し訳ないですが、私も本当におっしゃる通りだと思います……。
「だからリセ様がエルフになにを言われていても、教えてくれた方が助かるわ〜。その裏を探ることができるもの〜」
「え、あ……」
「なにか言われたんでしょ? なんて言われたの?」
あっさり見抜かれました!
「…………、……お、王太子を、暗殺しろ、と。でも、私にはできないだろうから、期待はしてない……とも。……そして、私にそう言ったことを、『亜人国』のみなさんに、話しても構わない……みたいな……」
私はよほどわかりやすいのでしょう。
観念して話すと、お妃様は目を細めて優しく微笑んだ。
とても微笑むような場面ではないと思うのですが……。
「ありがとう。参考にするわ〜」
「さ、参考ですか?」
「ええ——あら、いけない! 菜々ったら声をかけてくれたらいいのに」
「!」
部屋の入り口に、正座した着物姿の女性がいました。
その足元にはお菓子の山。
木製のティースタンドに数種類のお菓子と、三段に重ねられた箱をテーブルまで持ってきて広げてくださると中身は素晴らしい細工の和菓子!
え、え? こ、これお菓子ですか?
そう聞いてしまうくらい見事!
紅葉や苔の生えた岩が川のそばにある、敷き詰められた小石。
一番下の箱の中は、和菓子出てきた箱庭。
すごい! 芸術品です!
「菜々」
「無論、他言はいたしません」
「あ……」
さっきの話のことですね。
奈々さんと紹介されたこちらの方は、王妃様付きの侍女。
いかにも仕事のできるオンナ、という感じです。
「それじゃあこの辺の話は終わりにして、リセ様の今後の生活について色々決めていきましょう。住む場所は
「は、はい。そのようにうかがっています」
「じゃあ後宮について軽ーく説明めするわね〜」
「は、はい、よろしくお願いします!」
『森人国』のことは、気になることも多いですが……これからの自分の生活を最優先に考えるべきですよね。
それでなくとも私のような庶民の中の庶民が、突如大国の王太子妃予定になってしまったのですから……!
学ぶべきことは、とても多いはず。
しっかり学んで、お勤めを果たさなくては……!
「門限は夜八時です!」
「……。……は、はい」
門限があるんですね。
夜八時……思ったよりも遅い……?
「好き嫌いせずになんでも食べましょう!」
「……。……は、はい」
確かに好き嫌いはよくないですよね。
私はアレルギーがないし、親戚の家にお世話になっていたのでとても好き嫌いできる状況ではありませんでした。
だから、なんでも食べられます!
親戚の家の子や学校で、虫を食べさせられたこともあります! 大丈夫です!
「以上!」
「……。え! い、以上!? ですか……!?」
「以上ね〜。王妃教育に関しては、実はわらわもあんまり受けてないの〜」
「えええええっ」
そんな軽ーいノリで!
王妃教育は受けてほしいと、甲霞様はおっしゃっていたのに……!?
「『亜人国』を始め、そういう礼儀作法とか世間体みたいなのを気にするのって〜、人間の国の『ルゼイント王国』かエルフの国の『森人国』ぐらいなのよねぇ〜。知識教養所作作法……なんか色々言われたんだけど、やりたい人はやればいいんじゃない? ってカンジ?」
「え、ええぇ……」
「あ、でもお茶……花道と茶道は覚えておいた方がいいと思うな〜。月に一度、お城の玄関に飾る生花は王妃が生ける決まりがあるのぅ。わらわ、最初はすごく悲惨で……みんなに微笑ましいものを眺める目で見られて恥ずかしかったわ〜」
「……ひぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます