竜の王妃 2


 き、きな臭い話?

 それは私が聞いても大丈夫なのでしょうか?

 いえ、やっぱりなんとなく怖いからやめておきましょう。

 それよりも、私が異世界から来たとバレてしまいました。

 エルフの国が異世界の人間を召喚したのは、魔法を得るため。

 藍子殿下は私の種族に関して一度も言及なさいませんでしたが……。


「あ、あの、わ、私……せ、精霊とは、契約していなくて……」

「え? ああ、そうなの。まあ、それが普通ではなくて〜?」

「え?」


 ふ、普通?

 精霊と契約してないことは普通なのですか? ええ?


「『ルゼイント王国』——人間の国は貴族しか精霊と契約していないのよ〜。……やっぱり知らないのね〜」

「うっ!」


 そ、そうなんですか!

 ……ああ、人間なのに人間の国のことを知らない……これは完全にバレましたね。

 もはや確認作業だったのでしょう。


「すみません……」

「なんで謝るの?」

「……お妃様のおっしゃる通り……私はエルフの国で、精霊と契約するために召喚された異世界の人間です」


 もうここからは自らの経歴の説明です。

 エルフの国に召喚されたはいいけれど、この世界の人間のような名前で精霊に興味を持たれなかったこと。

 それが原因で『用なし』とされ、捨てられそうになったこと。

 それを助けてくれた、同じ世界から来た『彼女たち』のこと。

 二年間、彼女たちと共にエルフの国にいたけれど、だんだんと関係性が変わっていってしまったこと。

 そして——そんな中で藍子殿下と出会ったこと。

 …………殿下の親御様の前なのでなんとなく金的してしまったことについては伏せました。


「なるほどね……。詳しく話してくれてありがとね〜」

「い、いえ」

「あのね〜、人間の国である『ルゼイント王国』から攫われたのは、貴族の女性だったそうなの〜。身寄りもなく、一人静かに余生を過ごすことにした高齢の女性。……けれど、その貴族女性のお世話をしていた使用人が、その高齢貴族女性が誘拐されたことに気づいて、国を通して調査を依頼してきたの〜」

「っ」


 お妃様が言うには、その高齢貴族の女性は使用人……メイドの方を我が娘のように可愛がっていたそうです。

 だからメイドは、使用人だからという理由だけでなく、その貴族女性の身を本気で案じたのですね。

 涙ながらに『無事に帰ってきてほしい』『穏やかな最期を迎えてほしい』と叫んでいたそうです。

 それに外交官の貴族は大変心打たれ、『亜人国』に調査を依頼。

 ずっと探し続けていたのだとか……。


「悪い話は聞いていたの〜……やはりお亡くなりになったのかしら……」

「……は、はい。エルフの人たちには、その、そう聞いています……。私たちを召喚した際に、すべての魔力を使い切り、年齢のこともあり……」

「そう……残念だわ。亡骸はどうなったかご存じかしら〜?」

「も、申し訳ありません……存じ上げません……」

「いいのよ。困ったことを聞いてごめんなさいね〜」

「…………」


 ……忘れていたわけではない。

 私たちを召喚した召喚主は、人間の国から誘拐されてきた人。

 それは、最初から聞かされて知っていました。

 その人も私たちのように誘拐されてきた人……つまり、仲間なんだ、と勝手に仲間意識を抱いてしまって……そして亡くなったことを、会ったこともないのに悲しみました。

 でも、やはりとても優しい人だったんですね。

 遠い、身分も違う使用人に泣いて調査を頼まれるほどに。


「それで、エルフたちはごまかしてるけど、あなたみたいに異世界から誘拐されてきた子が他に四人もいるのね〜?」

「は、はい……あの、彼女たちだけでも、元の世界に帰す術はないのでしょうか」

「あら? あなたはいいの?」

「私は……私は藍子殿下の妻にならないと、藍子殿下が死んでしまうと聞いて……」

「あらぁ、律儀ね〜。まあ、リセ様が伴侶になってくれないと、竜人のオスってほんとに死ぬんだけどね」

「あばばばばばばばばは……」


 ほんとに死ぬんだぁ……!


「……異世界から来た人を、元の世界に戻す術はまだないわ〜」

「そ……うですか……」

「ええ、残念ながら実質不可能、と言われてるわね〜。理由としては、精霊が心を開いている生き物が人間だけだから。人間はわざわざ異世界から人を召喚して魔法を使う必要がないもの〜」


 確かに……。

 けれど、それなら今回みたいなことが多発したらどうするのかしら?


「人間の中でも、召喚に関する魔法は王族によって禁忌に指定されているの〜。だから人間の中でも召喚に関する魔法を研究されてないのよ〜。本当に申し訳ないんだけれど、帰る方法はないと思ってくれた方がいいわね〜」

「……やっぱりそうですよね……」

「だけど、どうしても帰りたいというのなら……『亜人国わがくに』から人間の国に依頼をすることも不可能ではないわ〜。もちろん危険な魔法でもあるから、研究は秘密裏に行ってもらうことになるけれど〜」


 えっ、と顔を上げる。

 けれど王妃様の表情はあまりよい感情のものでは、ない。


「そして、これは覚えててほしいのだけれど〜……召喚されてきたこと、隠してたのはとってもお利口さんよ。『森人国』の中はともかく、『亜人国』内でそのことを話せば『ルゼイント王国』からの誘拐も明るみになるわ。そうなると他の国も真似しようとするかもしれないし、我が国も同盟国として『森人国』へ難しい対応を迫られることになってたのん」

「っ……!」

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