竜の王妃
……こうして、私は『亜人国』の後宮に住むことになりました。
元の世界に戻る術もなく、エルフたちは『彼女たち』に二度と合わせるつもりがない以上、私が生き延びるためには藍子殿下の妻をやるしかありません。
まずは姑となる藍子殿下のお母様にご挨拶を、と連れて行かれた後宮で、背筋を正す。
甲霞さまたちに「こちらでお待ちを」と言われ、通された部屋で待っていると、茶碗と
とても小柄で、着物といっても和風ゴスロリというカテゴリの服……のように思う。
私はその可愛らしさを纏うのは恥ずかしくて着られそうにないですが、この小柄な女性にはすごく似合っています。
とても可愛いです!
「あなたがリセ様?」
「は、はい! 初めまして!」
とても可愛らしいけれど、もしかして『亜人国』のお城のメイド服!?
す、すごい、こんなに可愛いなんて!
私ももう少しクラシックでスカートの長めな和風ゴスロリ風メイド服なら、着てみたいです!
それでお城の中をお掃除したら、気分がテンアゲ! というやつになるのでしょう!
……お妃様にお会いしたら、お願いしてみます?
「わらわ、藍善のママで
「は……」
「お隣座るわね? あ、緑茶大丈夫かしらん? お菓子はあとから菜々が持ってくるから大丈夫〜」
「……はっ……」
え? え?
ちょっとまた処理が追いつきませんね?
え? 今なんと?
藍善様というのは藍子様の本名のはず。
その藍子様の、マ、ま、マ、マ……?
「マッ……え、お、お母様!?」
「そうよ〜、お義母様よ〜」
目の上にピース。
ペロン、と小さな舌を出してウインク。
ピンクの髪をツインテールにして巻いている、日曜の朝のアニメに出てきそうな、この可愛らしい人が?
幻覚かもしれませんが目の中に星マークが見える、この私よりも頭一つ分小さな少女のような女の人が……あの藍子殿下のお母様!?
えええええええええええっ!?
「楽にしていいのよ〜。色々大変だったでしょ〜?」
「え、あ、う、え、あ、は、はひ、え、で、でも、え?」
「あら〜、そんなに意外かしら〜?」
下手したらこの二日間で一番驚きました。
「まあまあ、落ち着いて。話し合って決めなきゃいけないことがたくさんあるんだもの〜。まずはお茶を飲んで。ね?」
「……っ、は、はひ……」
促されるまま椅子に座り、お茶を出されました。
お妃様は「この国はどう? エルフの国とはだいぶ違うでしょう〜?」と話題を振ってくださいます。
エルフの国どころか、なんですけども。
「は、はい……なんというか、和風ですね……」
「わふう?」
「?」
“和風”を聞き返されて、ハッとすしました。
和風という言葉は元の世界の私の国のものを指す言葉。
この世界にはないです!
「あ、え、えーと、ど、ど、独特な!?」
「ええ、そうでしょう? この国には大昔、まだ世界が今の形になる前に、
「……すずるぎ、れんぎょう、様……」
いえ、それよりも今なんと?
「異世界人、が、来たんですか……? この世界……」
「ええ。そう伝わってるわ。その方から様々なことを学んだ黒竜が、わらわたちの祖なの〜。だからわらわたち、人間は大好きなの〜。藍善が人間の女の子を連れてきたって聞いた時は『血ね〜』って思ったわ〜」
「っ……」
『亜人国』の人たちが元の世界の、私の国、日本と似た感じなのは、それで……。
それに、この国の建物や、小物、着ているもの、古い日本ののも、そのものです。
その方の影響だったのですね……。
「あ、あの、その異世界の方は……!」
「ん?」
「……その、異世界の方は、ど、どうやって、この世界に……? 元の世界には、お帰りになられたんでしょうか?」
もし、もしも——もしもその異世界の方が元の世界に帰っているなら、もしかしたら、私も、『彼女たち』も、元の世界に帰れるかもしれません……!
私は、元の世界に帰っても居場所などありはしませんけれど……彼女たちはそうではありません。
彼女たちでも戻ることはできないのでしょうか!?
「そうねぇ……言い伝えでは
「ほうぎょ……?」
「貴い方が亡くなられたという意味よ。お隠れになった、ともいうわね〜」
「っ……」
亡くなった。死んだ。この世界で。
……じゃあ、やっぱりこの世界から元の世界に帰る術は、ない?
「…………。……リセ様はもしかして、やっぱり異世界からいらしたのかしら?」
「え! な、な、なんで……!」
「エルフの国に人間の女の子って、なんかおかしいなぁ、って思ってたんだもの。少しきな臭い話も聞いてたしね〜」
「……」
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