第9話Start
『起きてください。来ましたよ奴ら』
午前7時10分を回ったところでアラームがわりにトラゴンボールの曲を流し、リンダは寝ているティルに画面越しに声をかける。
「なんですか!?」
ルミはリンダが声をかける前に、突然の音楽で飛び起きた。
「……寝起きだからか、好き曲だけどなんか腹立たしい」
地面から起き上がったティルは少し機嫌が悪そうだった。
「で、ヘキリプエオは今どこ?」
『ホテルのエントランスです』
リンダがホテルの監視カメラの映像をティルのパソコンに出す。
昨夜見たヘキリプエオの構成員が5人も正面入り口のカメラに映っていた。
「思ったより早かったな……」
『ホテルにヘキリプエオの関係者がいたのでしょう。ましてティルは浮かれていて目立ってましたから、栗色の髪の毛という情報で、ボーイも直ぐに思いついたんじゃないですか』
「本当だ。あのボーイか」
ホテルの制服に身を包んだ青年がヘキリプエオの3人組に話しかけている映像が出ていた。
ヘキリプエオに所属している男は仲間二人と共に、あるホテルに来ていた。このホテルにヘキリプエオを襲った栗色の髪の男と黒髪アジア系の女が居るという情報が入ってきたからだ。しかもどうやら、ボスが探していた栗色の髪の毛の男と、襲った栗色の髪の男が同一人物の可能性があるらしい。まだ日が登ってない時間帯に小さな拠点で待機していたはずの仲間が、パンイチで駆け込み、報告に来てからヘキリプエオは蜂の巣をつついたように大騒ぎになった。しかも、やられたのがヘキリプエオ内でも古株で恐れられている、あの『終末のホルスタイン』さんだったとあれば許すことはできない。2度も同じ相手に面子を汚されたのかもしれないのだ。その男を放置していたら他のマフィアやギャングにもナメられる。あってはならない事だと組織の全力を持って捜索が行われている。
彼らは今すぐその男を見つけて、ヘキリプエオに手を出すとはどういうことかその体にわからせてやるのだと息巻いていた。
「おい、本当にここに栗毛の野郎がいるのか?」
「ええ。凄く浮かれていたのでよく覚えています」
ロビーに入ってきたヘキリプエオに、ボーイの男が言った。
「部屋はxxx号室です」
ボーイはヘキリプエオの彼らを案内した。
通路で黒髪の男と帽子を被った金髪の少年とすれ違った。
「うひゃー!アニキ、今の少年見ました?美少年でしたね。俺のタイプです。ちょーヤリてぇ」
「おい、いつまで見てんだ!さっさと行くぞ……それと今後お前は俺の前を歩け」
ヘキリプエオの男たちが部屋の前についた。ボーイは合鍵を取り出すと、アイコンタクトをし、部屋のロックを開けると、ヘキリプエオの彼らは部屋に押し入った。
「……誰もいないな」
部屋の中を彼らは隈なく探した。が男の姿は見当たらなかった。あるものといえば、開きっぱなしのノートパソコンが一台、机の上に置いてあるぐらいだった。
「荷物がない。念のため空港に向かったかもしれない。そっちにいる奴らに連絡を入れとけ」
「了解です」
「でもアニキ、普通パソコンだけ置いていきますかね?」
「こんな目立つ場所にあるんだ忘れたということは考えにくいな」
アニキと呼ばれた男はベットの中に手を入れた。
「ベットはまだ温かい。さっきまでここに居た証拠だ。……チェックアウトはしてないだよな」
「ハッ、ハイ。そのはずですが……もう一度確認してきます!」
ボーイは慌てて確認にしに行った。
「また戻ってくる可能性がある。お前はこのパソコンを持って戻れ。そして何か身元を特定するような情報を探せ」
「わかりやした」
「お前はこのホテル内を探せ。俺はこの部屋を見張っている」
「了解です」
「必ず捕まえて、俺たちに手を出したことを後悔させてやれ!」
アニキと呼ばれている男は二人に指示を出した。
ヘキリプエオがティルたちがいる部屋に乗りこむ少し前。
「彼らの動き早くないですか?」
「当たり前だろ。チャイナタウンで放置した奴らを後ろ手で縛っただけだからな。身体が動くようになれば普通に動ける。パンイチで夜道を走ったんだろうさ」
ルミはチャイナタウンの3人を何処にも縛り付けてなかったのを思い出した。
『でも、乗り込んできた人数が少ないですから、はっきりと確信をもってここに来たわけではないと思いますよ。オアフ島中に散らばって人海戦術で探しているのだと思います』
「それって逃げ場がないってことじゃないですか!?」
「……よし。行くぞルミ」
「行くってどこにですか?」
「そんなの決まってるだろ、お前の家族を取り戻しにだよ」
うろたえているルミにティルは当然とばかりにそう告げた。
「奴らがそこら中にいるかもしれないのにですか!?」
「だからこそだ。その分ダウンタウンのビルは手薄だろ」
ティルはカバンを開け、黒髪のヅラを被った。
ルミには金の短髪のヅラと男物の服を渡した。
「……もしかして、こうなる事を見越して両手にだけしか拘束しなかったんですか!?」
油断はするなと口うるさく言っていたティルにしては、手ぬるいと抱いていた違和感。そして追い詰められている状況にも関わらず堂々としたティルの様子。その他諸々がルミの脳細胞がスパーキング!して、すべてが繋がったのだった。
驚くルミにティルはドヤ顔を返すだけだった。
『気をつけて』
「おう」
「行ってきます」
そう言ってカバンを背負ったティルとルミは部屋を出た。
交わした短い言葉が、無事に終えて帰るという信頼の証だった。
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