第6話チャイナタウン

 チャイナタウン。

 ダウンダウンの隣あるこの中華街は活気に溢れている。中国語も普通に話されていて、交通標識には英語だけではなく中国語が併記されている。オシャレで流行の最先端のレストランやバーと伝統ある建物が混在する町だ。歴史あるハワイシアターのあたりで写真を撮る観光客も多い。毎月の第一金曜日には『ファーストフライデー』というアートイベントが開催されるほど、多くのギャラリーがありとても賑やかだ。

 昼間は、の条件付きだが。

 夜になるとチャイナタウンはガラリと表情

を変える。独特な臭いと危険な香りがする。路上で寝ている人や何かを叫んでいる人が目立つ。運河沿いは特に若い人のホームレスが多い。物価が高いハワイでは生活することがままならず、路上生活余儀なくされるのだ。

 生活が苦しくて薬物の売買に手をだし金を稼ぐ人、刹那的な快楽を求め、薬物中毒になっておかしくなってしまう人もいる。

 そんなチャイナタウンのある部屋で2人の男がポーカーをしており、その少し離れたところでもう1人スマホを弄っていた。

 部屋の中はほとんどものが置いてなく、ポーカーをやってる大きめ机と椅子二脚。机には拳銃が置いてあった。

 部屋には窓はついておらず、外に出る扉と奥にある部屋へと続く扉があった。


「レイズ」


 チップを増やした鼻ピアスの男をじっくり見たスキンヘッドの男は「コール」と言った。


「ショーダウン!」


 お互いが手札を公開した。


「ツーペアだ」

「ハッハー、俺はフルハウスだ」

「だぁ、クソやっぱ負けた」


 鼻ピアスの男が嬉しそうにチップを回収した。


「ヘッヘ、今日はついてるぜ。て、おい!タバコなら外でやってくれ」

「鼻ピアスつけてる癖に健康志向か、お前。タバコ一本ぐらい気にすんな」

「鼻ピアス関係ないだろ!何度も言ってるが副流煙の方がやばいんだよ!タバコ吸いすぎて頭空っぽか、おい?」

「お前も昔タバコ吸ってただろうが」

「とっくの昔に卒業してるわ。今はニコチンパッチだ。しかも2枚」


 鼻ピアスの男は自分の腕に貼ってあるニコチンパッチを見せびらかした。


「だから頭冴えてんのか!?分かったよ外で俺もニコチンパワーとってくるから、その後もう一回だ」


 スキンヘッドの男は立ち上がって、部屋の外へ出ていった。


「お前はやんねえのか?」


 鼻ピアスの男はスマホを触ってる男に声をかけた。


「いや、いい。それよりマーカスさんから、栗『色の髪の男を探して連れてこい』ときている」

「うわ、マジか。俺あいつ気に入らないねぇんだよな……元軍人か何か知らないがボスの側近にすぐなりやがって。……そんな睨むなよ。ちゃんと命令には従いますよっと」


 鼻ピアスの男は自分のスマホを取り出し送られてきた命令を読む。


「うわ、情報少な!……まぁ、明日からだな」


 鼻ピアスの男はトランプを集め、いつでもゲームができるように、シャッフルをしているとドサッという音が聞こえた。

 鼻ピアス男は机に置いてある拳銃を手に取った。スマホの男も腰にある拳銃に手を添えいつでも抜ける準備をしていた。2人は外につながる、スキンヘッドの男が出ていった扉を警戒した。

 お互いにアイコンタクトを交わし、銃を構えて閉まっている扉に近く。

 鼻ピアスの男が扉を開けた、瞬間。


「グオッ!?」


 素早く黒い侵入者に懐に入られ、一瞬にして意識を失った。

 黒い侵入者は鼻ピアスの男を盾に、拳銃を構えているもう1人の男に接近する。


「なに!?」


 男は仲間を盾にされ、引き金を引けなかった。

 その一瞬に隙に男の背後に回った侵入者は、首筋にスタンガンを当て、バチッとした音と共に男は崩れ落ちた。


 ツバのある帽子をかぶった侵入者は男たちを放置し、開くの部屋へ急いだ。勢いよく開けたその扉の向こう側には、

 何にもなかった。

 家具どころか、埃ひとつない綺麗な部屋だった。


「……残念だか、その部屋には何もないぜ」


 後ろからの声に侵入者は慌てて振り向いた。


「安心しな、スタンガンなんて押し付けやがって。おかげさまで体が動かねぇよ」


 鼻ピアスの男は倒れながら目だけを侵入者に向けていた。


「ここに捕まってた人はどこ?」


 侵入者は男達に渡さないように、落ちている拳銃を拾い、男に尋ねた。


「勘違いしてるんじゃねぇか……。ここには初めだから誰もいねぇよ」

「嘘!首の後ろにフクロウのタトゥーがある連中が最近誘拐したのは間違いない!」


 侵入者が言う通り、倒れている男たちの首の後ろにはフクロウのタトゥーがほられていた。


「……何言ってるかわからねぇな」

「嘘をつくな!ヘキリプエオに所属してる女が連れていったのを私は見ている!!」


 侵入者は叫んだ。抱いている感情は焦りか、それとも苛立ちか。

 状況的には侵入者の方が有利なはずだが、追い詰められている鼻ピアスの男の方が余裕があった。


「そう怒鳴るな。……まぁ、見られてたなら仕方ねえしな。……まったく、あれだけお遊びはバレねえようにしろって言ったのになぁ。はぁ……いいぜ教えてやるよ——」

「キャア!」


 鼻ピアスの男は急に立ち上がり、侵入者を蹴り飛ばした。


「——体が動かないって言ったのありゃ、嘘だ」

「くっ……」

「ほう。声を聞いた時もしやと思ったが……やっぱりお嬢ちゃんだったか」


 服越しだったためスタンガンの効きが弱かったのだ。

 さらに男は会話をして時間を稼ぎ、自分の体が完全に動くようになるのを待っていたのだった。

 侵入者が吹き飛ばされた時、被っていた帽子が脱げた。帽子の中にしまっていた黒髪が垂れ、顔の造形もはっきり見えてしまった。

 

「大の男三人相手にスタンガンだけでよく頑張ったと思うよ。殺さず情報を吐かせようとしたんだろうけど、油断しすぎだろ。しっかり拘束しねぇとこうなるぜ」


 鼻ピアスの男は侵入者の少女との距離をゆっくり詰めていく。

 黒一色の少女は急いで体勢を整え、脱出しようとするが、


「出口ひとつの欠陥住宅で悪いな。俺を無力化しないと逃げれねぇよ」

 

 少女は奪った拳銃を男に向かって構えた。


「銃を持ったのは初めてか?手が震えてるぜ」


 鼻ピアスの男は銃口を向けられているのにニヤニヤ笑っていた。

 男は少女が殺す気がないことを不意打ちをくらった時からわかっていた。スタンガンなんてオモチャを使ってるのがその証拠だった。


「ヘイヘイ!そんなんじゃ俺を殺せないぞ!……いや、情報が欲しいから殺しちゃダメなのか……殺さずに無力化しなきゃいけないなんて大変だなぁお前」


 男は隙だらけだった。

 引き金を引けばそれで終わる。

 けれど少女の指は動かない。勢いで銃口を向けたが、相手を殺す覚悟を彼女は持っていなかった。この鉄の塊が、命の重さそのものなのだ。

 少女は息が乱れ、なんだかよくわからない汗が流れた。心臓の音がトラックのクラクションのように大きく聞こえる。頭が働かない。もう殺すしか方法はないのか。

 男ではなくて自分の銃しか目に入らないほど少女の視野は狭くなっていた。


「しゃあない、フェアじゃないから手助けしてやるよ。セーフティ外さないと撃てないぜ」


 少女の目の前にまで近づいた鼻ピアスの男は、銃を握る彼女手を包み込み、銃のセーフティを外してあげた。そして自分の心臓の位置に銃口がくるように少女の手を動かした。

 少女は動けなかった。ただされるがまま銃を持っていることしか出来なかった。


「ここに撃ち込めばお前は殺せるぞ、俺は死ぬぞ!」


 拳銃を放し、スタンガンを当てることができる至近距離。

 本来の目的を忘れ、殺すかどうかしか少女の頭にはなかった。

 鼻ピアスの男は少女を追い詰めるのを楽しんでいた。


「今、お前は俺の命をその両手で握っているぞ!よぉぅく狙え!」

「じゃあ、遠慮なく」


 そんな緩い言葉と共に一発の銃弾が放たれた。

 

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