第16話 タムトタムト

枯れ木の大樹のアジトを抜け森の奥へ奥へと進む。


「ねえ、さっき言ってた”タムトタムト”ってなに?」

京美は担がれながら、デカイヤーシャ族に聞いてみる。


「あー?お前、屋台村に住んでてそんな事も知らねえの?」

ヤーシャ族は呆れ顔をする。


(ムカつく顔してるわー知るかそんなもん……!)京美は心の中でそう思ったが、これから自分が関わると思われる”タムトタムト”の情報が欲しい。




「私、結構年なんだけど知らない事多くてさでさ……あんたは出来る男っぽいから教えてほしいんだよね」


「おう! 俺は出来る男って評判よ!」

デカイヤーシャ族は人に褒められた事がないのか、明らかにウキウキと機嫌が良くなった。


「お前、角が無くてちょっと可哀想だから教えてやる。”タムトタムト”っていうのはフタツ面の森の”ある”場所に生息してる獲物だぞ」

得意げなデカイヤーシャ族。


もう少し情報が欲しい。


「流石だねぇ! 屋台村で初めて見た時から只者では無いと思ってたわ」

(碌でもない奴と思ってたけどね!)


ウフフと嬉しそうに笑いヤーシャ族は話し続ける。

「ヤーシャ族は成人になると儀式をする。一人で”タムトタムト”を狩るんだが、それが出来て一人前よ!」


「で、なんで私がその”タムトタムト”の巣に運ばれてるの?」


「お前の力試しかもな? お前の着てる皮の服それ凄いモンだからな」


「何が凄いのよ?」


「あー、それはな……、お、巣についたぞ」


結局よく分からなかった。

要するに私は”タムトタムト”と戦わなきゃいけないの?


「おい、手は自由にしてやれ」

白の一角は言った。


腕ごと縛られていた綱は腰で縛り直された。

そして、槍を一本、手渡された。

(これ逃げるなら今じゃない?)と京美は思った。


しかし……


「おかしな真似したら、これ投げるからな」

白の一角は片手にナイフを持ってクルクルと指先で回した。


(御頭……顔はいいけど中身最悪!)


京美一人をその場に居させ、他のヤーシャ族は少し離れた小高い場所で”タムトタムト”が

現れるのを待っている。


「………。」


ガサガサ……!

近くの茂みが激しく揺れた。


「来たッ!!」


緊張感から高まる鼓動、槍を構える京美。


ガサガサガサッ!



「キィ」

京美の目の前にはダルマの様なフォルム。白い毛でフワフワした大きな耳のネズミの様な生き物がぴょこんと飛び出してきた。


「え?なにコレ、カワイイー」

(なーんか、ビビって損した。ヤーシャ族大袈裟すぎる)


京美は”タムトタムト”を撫でようと近づいた。


『危ねえ! 御頭、あの女やっぱり何者でもないんじゃ?』

慌てるヤーシャ族達。


「あの皮の模様が聖獣の物だとすると、タムトタムトはビビってあれ以上寄ってこれねぇはずだ…」

白い一角はボソッと言う。


京美の手がタムトタムトの頭に触れそうになった瞬間、クワッ!!!っとタムトタムトの口が耳まで裂けた。


実際は裂けたように見えた、閉じていた口を開いただけ。


口の中はギザギザした矢尻のような牙がビッシリとはえている。


「え!?」

瞬間的に手を引っ込め、さっと立ち上がる京美。


ふと周りを見回すとキィ、キィ、キィと何匹ものタムトタムトの声がする。京美は真っ赤な口を開けたタムトタムト達に完全に囲まれていた。


サッと白の一角は立ち上がり。

「俺の見当違いだったか?仕方ねえ……」

溜息を付き、丘の斜面を滑るように京美の元に向かった。

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