第15話 トコミチ
ヤーシャ族が向かっている場所それは見覚えのある場所だった。
少し先に見える鬱蒼とした森。
(フタツ面の森?そこにヤーシャ族のアジトがあるの?)
そういえば狩猟が得意なんだっけ?肉も自分達で調達した物なのだろう。
【狩猟で得た獲物は生のまま食す】
【生のまま食す…】
【食す…】
ヤーシャ族の事を考えてたら、アリナの読んでくれた文が頭の中を繰り返し横切った。
途端に身体中から溢れ出す脂汗。
(何を大人しく担がれてるんだ、私は!)
「離せ! この力馬鹿!」
「おわ! なんだこの女、急に暴れだしやがって!」
「私を食べる気だろ!? 肩こりも腰痛もあるから、絶対に不味い! だから離せーーー!!」
足をバタバタさせる京美。
「そうだな…食いはしねーよ、聞きたいことがあるだけだ…」
フードの男は言った。
(ホッ…でもなんか、ショック……不味そうなんだ?私……)
フタツ面の森に入ると、一気に光が届かなくなる。
ここに来た時は気づかなかったけど、こんなにも不気味な所だったんだ。
こんな所に一人で治癒草を探しに来てたアリナ……。さぞ不安だったろうね。
森に入り暫く進むと枯れかけている大樹が見えて来た。大樹の周りには簡易的に設置されたターフや焚き火の跡、弓や槍などが立て掛けてある。
そして狩りで得た獲物の肉、皮などが枝に吊るされていた。
京美はドサリと皮の敷物の上に落とされた。
「痛っ!」
ヤーシャ族達はそれ程人数は居らず、先程家を囲んでいた人数。
つまり10人程度の人数で形成されているアジトだった。
小柄の男を中心に、ヤーシャ族が円陣を組み黒い小さな角、2つの黄色の角、赤の一本角など個性的な角がそれぞれあった。
(って事は白の一角ってのはー、あの御頭がー……)
小柄の男はパサっとフードを外した。
思ったとおりに白い一本の角が現れた。
しかしそれよりも京美は別の事に興味をもった。
(御頭……メッチャクチャイケメンじゃん!!トコミチみたい)
※※※
トコミチとは日本の俳優、長身で顔がとても小さい。
朝のニュースではクッキングコーナーを担当しており、料理の仕上げに一つまみの塩を高い所からそっと振りかける。
視聴者からはスタジオの空調で塩が流されて
かける意味がないのではないか?と心配されたりする。
※※※
「それで、御頭この女の何処に興味持ったんです?」
赤い一本角の細身のヤーシャ族が聞く。
「この女自体には興味はねーよ」
(ガクッ…)内心ちょっとガッカリする京美。
「それじゃぁ、なんで連れてきたんです?」
力馬鹿のヤーシャ族が聞く。
「この女の着てる皮の柄見てみろよ……」
ヤーシャ族達が京美のヒョウ柄トップスに注目する。
『その模様は!』
『嘘だろ…』
騒ぎ出すヤーシャ族達。
「女、それを何処で手に入れた?」
白の一角の金色の目がギラリとする。
「何処って、つまむらかエオンかどっちかで買った物だけど?」正直に答える京美。
「女、適当な事を言っても俺は誤魔化せねえぞ」
「いや、適当なんて言ってないし」
白の一角は髪をかきあげた。
「シラをきるなら、直接試させてもらう…お前ら、女をタムトタムトの巣に運べ」
「「へい!」」
「つまむらかエオンだってば! どっちで買ったかは忘れたけど 適当は言ってない!」
京美の叫びはフタツ面の森に響いた。
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