第13話 異世界お料理教室

ドアを開けるとティムの「おかえりなさい」が聞こえてきた。

ティムは包帯を取っている最中。

ミイラ男から脱皮し美白美少年になっていた。


「凄いですね! お金を取り戻したんですね!」


食材をテーブルに置きながら、京美はフフンと自慢げに鼻を鳴らした。


「いーや、お金は使ってないよ」


「え?どういう事です?」


ティムは驚いて目を見開く。


「ティム、肉屋がヤーシャ族って知ってて私に角を付けさせたんじゃないの?」


「いえ! アリナのボディーガード代わりになると思って、京美さん頑丈そうだし……そうなんですか、肉屋ヤーシャ族だったんですね」


「頑丈そう?」


ガシッとティムにヘッドロックをかます京美。


「わー!」


「乱暴なヤーシャ族を追い払ったから、お礼で色々貰ったんだよ!」


「わー! まさに今、ここにも乱暴なヤーシャ族がいます!」


「なんだってー?」グッと力を入れる京美。


その横では焼き菓子を食べ終わり食材を並べるアリナの姿。

テーブル上に食材を大きい順に並べている。

京美と料理をするのを待ちきれない様子。


「何作ろうかねー」


ヘッドロックしたまま、食材のチェックをする京美。

四角いカボチャ、虹色の卵、ギザギザした星型のお芋。


よし決めた!


手を洗い、調理道具を準備する。

鍋でしょ。まな板。調味料。


「ティム、包丁どこ?」


ハッとするティム。


「京美さんに刃物なんて……何に使うおつもりですか?」


「料理に決まってるでしょ!」


ヘッドロックを再度かましている京美に、アリナが包丁を取り出し見せてくれた。

黒光りし波模様が刃にある綺麗な包丁。


「何これ、凄い良い逸品じゃない!?」

ヘッドロックを外し、包丁を手に取った。


「ゴホ……はい、それはミャラッカ国一の鍛冶屋の打った物なんですよ」


「この世界にもそんな職人がいるんだねぇ」


まな板の上に四角いカボチャを乗せ、細かくしていく。

トントンといとも簡単にカット出来た。


「これはすごい切れ味だわ」


隣のアリナは卵を割っている。

何個か割ったところで殻がボールに入ってしまったのか、口先を尖らせ、指先で殻をそっと摘んでいる。


ティムは星形の芋を井戸の水で洗って帰ってきた。


「洗い終わりましたー」


「次に芋の皮むいてティム」


三人の楽しい料理の時間は終わり、ドキドキワクワク食事の時間。


テーブルに着きフォークとスプーンを持ち待ちわびているティムとアリナ。


「お待たせー!まずはこれ」


トン!とテーブルに置かれた木製の深皿。


四角いカボチャは程よくカットされ、ホクホクの食感。

そして絶妙に甘じょっぱく味付けされている。【四角カボチャの煮付け】


「そしてお次はー」


トン! 平たい白い皿には出汁で味つけされただし巻き卵。

卵がフワフワと巻かれ柔らかいのが良くわかる。【虹色だし巻き卵】


「それでお次はこれ」

大皿にザッと盛り付けられた、薄くスライスし油で揚げ塩を一振り。【星形ポテトチップス】


二人は目を輝かせている。


「この様な料理が京美さんの手から作られるなんて、 まさしく奇跡ですね!」


コクコクと頷くアリナ。


『いただきまーす!』


三人は至福の時を過した。



 ──その夜。


ティムは自分の部屋で就寝。

アリナと京美は狭いベッドで身を寄せスウスウと寝ている。


リー…リー…


外では静けさの中に虫の声。


その音に混じりガサガサ…ガサガサ…という何者かの足音がこの家に近づいていた。

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