第12話 悪餓鬼京美

肩を怒らせ肉屋の屋台に向かう京美。

売り場に足を乗せふんぞり返っている店主が見える。 


もしかして、あれ商品を乗せる台に足を乗せているの?ますます許せない。


「ねぇ、ちょっとあんた!?」


「あー…?」

のっそりと身を起こした男、身長は2m近くあるだろうか上半身は筋肉の塊、肌は褐色

顔を上げると大きな横一文字傷。

そして頭には黒い二本の角があった。


(もしかして? ヤーシャ族!? デカイ……!)


角のある男は高圧的な態度で言う。

「あー?なんだお前?なんか用かよ?」


京美は普通より気が強いとはいえ、人間であり唯のパワハラおばさん。初めて見るヤーシャ族にカタカタと足が震えだす。


圧倒的な力の差、比べなくてもわかる。

動物園のヒグマを間近で見たような威圧感を角の男に感じた。


──でも、後には引けない!!


自分は正しい事をするのだから、ここで引いたら自分が自分でなくなる様な気がする。

鳩尾みぞおちにグッと力を入れ震えを抑える。


「あんたさ、迷惑かけてるよ! 周りを見てなんとも思わないの?」


男はパァン!と屋台の台を叩き怒鳴る。

「なんだぁ、うるせぇぞ! お前黙れ!」 


周りの商人や買い物客達が騒ぎに気づき

遠巻きに集まりだした。


側に来たアリナは男の声にビクッとしたが、すぐに、男と京美の間に入り込み庇うように京美の腕を引っ張った。


「あぁ…この前のガキじゃねーか、へへへまた買いに来たのか? この前よりいい肉だぞ もっと高く買ってくれや」

ニヤニヤするヤーシャ族の男。


京美はアリナを自分の背中側に庇い叫ぶ。


「買わないよ! あんたの足を乗せた台にあった肉なんてさ!」


「喧嘩売ってんのか?お前…」


とうとう男は屋台の裏側から、のそりと出てきた。



喧嘩なんて久しぶり、こんな力の差がある奴とは初めてだけど……。京美は恐怖と昂りを同時に感じゾワゾワした。


こういう力馬鹿タイプにはハッタリかますのが効く可能性が高い……!二十何年か前の喧嘩の経験。


京美は顎先をあげ相手を見下げ腕組みをしながら啖呵を切る。


「私を知らないの? 悪餓鬼アガキの雌豹、京美さ!」


ヤーシャ族の男は目を見開いてワナワナしている。

「アガキの雌豹……狂魅きょうみ!?」

(ぶっちゃけ知らねえ、アガキ? 何処の部族だ…?そしてこの女の威圧感半端ねえ……何者なんだぁこいつは)


京美は(お?効いてる)と判断し、啖呵を更に切る!


「何モタモタしてんのさ! 後悔しないうちに消えな!」


ワナワナしているヤーシャ族の男は京美の頭頂部に目をやる、そしてガクガクしだした。


「お前の角……白の一角いっかくじゃねぇか…」


京美は手を角に添えて答える。


「え…?あ、これね そうだよ白の一角イッカクだよ!(何ソレ)」


ヤーシャ族の男は「ひゃあ」と悲鳴をあげ 

尻もちをついた。


「俺が悪かった、店を畳む、金も返す、この肉もやる!だから許してくれ」


「肉はいらないよ さっさと消えな!」


「は、はい!」


ヤーシャ族の男は全てを置いたまま逃げていった。


「ふぅ~…た、たすかった…」

京美は安心感から思わず地面にへたり込んでしまう。その背中をアリナは労う様に一緒懸命擦った。


パチ…


パチパチ


パチパチパチ!!!


ワーーー!っと周りから歓声があがる。


『ありがとう良くやってくれた!』

『格好良かったよ!』

『ヤーシャ族でも良い人もいるんだ!』


京美はへたりこんだまま、声援に答え手を振った。



 ──帰り道では

両手いっぱいの食材を持つ京美。

そして、カタツムリの焼き菓子をもぐもぐと頬張るアリナの姿があった。

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