第5話 老いも若きも

暫く無言で見つめ合う二人。


風に揺れるザワザワとした木々の音。


京美はハッとして少女から手を引いた。

流石、アマゾン人(仮)距離が近い!

日本人のパーソナルスペースをわかってないね。


でも、私の英語通じたっぽいじゃん。

小学校までは真面目に通ってたしね!

フフンと自信有りげに鼻を鳴らす。


京美は自分に都合の良いように考えた。


でも、「宝」って聞こえたような。日本語?


少女は黙ったままこちらを見ているので

こちらも負けじと見つめ返す。

京美は見つめているつもりだが傍から見ると

少女に因縁つける怖い元ヤンおばさん。


この場に警察官がいたら間違いなく職務質問されそうだ。


綺麗な子、まつ毛長、色素薄すぎ、細すぎ、顔ちっさ、目でっか


京美の語彙力ではお決まりの言葉しか出ないが飾りの無い言葉で少女の特徴を表すとそうなる。


10代の女のコって感じだね。

髪の色は水色なの?

生成り色のナチュラル素材ワンピースに

革のブーツ、何処のブランド?


大人しそうに見えて意外とイケイケな性格なのかも。


私も昔はイケイケだったし。フフン。 


でも、何を考えてるか全然わからない顔。今時の若い子だね

本当に人形みたい。


一頻り少女の観察を終え、空腹が限界だった京美は少女に喋りかけることにした。


「マイネームイズ キョーミ ベリー お腹ハングリー」


先程から勘違いしたままの京美はロボット語に自信を持ってしまっていた。


少女はまたそれを完全に無視して


「来て」と呟き


京美の手を引いて、歩き始めた。


「来て」と言った?やはり日本語を喋れる?


歩きながら京美は


「あんたなんて名前?」


「ここ何処?」


「いくつなの?」


間をもたせる為に色々質問するが一つも答えてくれない。

答えるどころかこちらを振り向く事もせず


ただただ森を進むだけ。


少女はきっと助けてくれてるんだろうけど、

そんな反応を若い女の子にされた事がない京美は少しイラつき始めた。


「あんたさ、助けてくれてありがたいんだけど、年上に対する礼儀が成ってない。顔くらいこっち向けなよ。」


眉間にシワを寄せ少し大きめの声で言った。


京美の叱責は何人もの新人に涙を流させた代物。


流石に驚いたのか少女がこちらを振り向いた。


それでも少女は無表情だった。


「なんか私間違ってる?あんたの為に言ってるんだよ。」


京美は振り向いた少女が仮面の様に表情を変えずにこちらを見ているだけに思ったのでもう一言追撃したが


その直後表情が変わらない少女の目から涙が頬を伝い出した。


京美は、ギョッとして

「え?あ、ちょっと泣いてる?言い過ぎたよ。」


焦った、若い子が泣くのは見慣れているが


泣く時の顔ってクシャリと破顔するイメージだったから。

顔色変えずにこんなに涙って出るもの?


感情無しのthe生理現象。


「ちょっとそこ座って話そ。」


今度は京美が、少女の手を引き誘導した。

草の茂みの上にコンビニ袋を敷いて少女を座らせる。


「本当にゴメン、私他人の考えてる事よくわかんなくてさ、よく若い子泣かせちゃうんだわ。今日だって部長にパワハラって注意されてさ…ははは。」


注意深く少女の顔を覗き込んでみた。

少し笑ってる?聞いてくれてるのかな?


京美は普段他人に対してこんなに気を配る様な事はしない。


今まで叱責した子達はみんな泣きながらも「大丈夫です、びっくりしちゃって。」とか

「私が悪いんです…。」とかそんな言葉を返してくれるから、気にした事はなかった。他人が何考えてるかなんて気にする必要は無いと思ってた。


(これは難しい、気をつけないとまたパワハラと言われる。)


珍しく京美は反省していた。


「私は京美っていうのあんたは?」


「アリナ」


少女は小さく答えてくれた。


「アリナ?カワイイ名前だね。家族はいるの?」


少女はコクリと頷き、また黙ってしまった。


(あれ?不味った?)


少女は語りだした。


この森を彷徨っていた理由を。


兄が一刻を争う事態だという事を。


京美はバサッっと立ち上がった。


少女を立ち上がらせ、コンビニ袋をポッケにぐしゃぐしゃに詰め込み

「アリナ、何ボサッとしてるの!早く案内して!」

とさっきより大きな声で叱責した。


少女はポカンとしていたが、その瞳がキラキラと輝いていた。

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