第3話 現実と異世界と
体にじわりと冷たさを覚え
次に土臭いと思った。
サワサワと何かが頬に触れ、
そのこそばゆさが気になり目を開いた。
眼前にはボヤけた緑色が揺れている。
時間が経つと徐々にハッキリとしてきて
頬に触れていたのは草だとわかった。
(痛っ!私轢かれた?地面に直とか汚いからサッサと救急車呼んでよ…)
身体の痛さから動けず助けを待つしかないと思った。
しかしいくら待っても救急車はこない。
こういう時、目撃してくれた人が救護してくれたりするんじゃないの?救急車呼んでくれたりさ。
そもそも私を轢いたヤツ何処行ったよ。
逃げたのか?
「クソ…後で見つけて絶対金せびってやるわ」
流血しているのか額から生暖かさを感じる。
その雫が伝うように垂れてきて今にも目に入りそうだ。
「はぁ…ついてないわ。日本はもうダメだね、冷酷な人ばっかりでさ」
ボソリと呟き、コンビニの袋が巻き付いたままの右手を痛みに耐えながらなんとか動かしてスボンのポケットにつっこむ
携帯を探り当て力ない親指でタップする。
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携帯が繋がる前に何を伝えればいいのか
軽く頭の中で整理する。
まず名前、状況、場所。
こんなもんか
しかし携帯は京美の予想していた展開にはならず、ツーツーという音が虚しく響いた。
「携帯ぶっ壊れた…これも轢き逃げ野郎に請求してやるわ…」
時間が経てば経つほど身体がより冷たくより重くなるのを感じる。
これが「死ぬ」って事?
まず最初にマルの事が気に掛かった。
(マル楽しみにしてたよね、おやつ…ごめんね。アイツはたまにしか家にいないけどおやつやご飯沢山くれるよ。マルと遊ぶのサボったら化けてでて説教しておくからね。)
そのついでにアイツの事。
(まぁ、なんだかんだずっと夫婦ではあったな。そういえばアイツが勝手に一人で買って来た結婚指輪ほんとセンスなくて絶望したわ。高いの買いたくなくてやっすいの選んで来たのが丸わかり、思い出したらイライラしてきた。)
チッと舌打ちして視線だけを左手の指輪に向けた。
何やら鈍い光が左手の下敷きになった草から発せられている事に気がついた。
ホタル?
虫は苦手だったが初めてみるホタルの光への好奇心と最後になるかもしれない今を思い、より沢山の光を見たくなった。
思い切って左手で草を払ってみた。
京美を包むようにキラキラキラと光が舞い上がった。
黄金色の光の粒
身体の上に粒が落ちると砂糖のように溶けて消えた。
「へぇ虫の癖に綺麗じゃん…」
冷たさや重たさは徐々に感じなくなり
じんわりと暖かさが身体を包む。
「暖かくなってきた天国行き確定かね、痛みも消えてるし…。」
暖かさに身を委ねながら目を閉じると余計な考えが浮かんできた。
よくよく考えたら死んだ後もアイツの嫁でいるのって最悪じゃない?せめてもの反抗で指輪外したいかも。
そう思ったと同時にサッと右手で指輪を外していた。
「よっしゃ、これでアイツとおさらば。」
あれ?と京美は思った。
邪魔なやっすい指輪は取り敢えず左手薬指にリターンさせ
両手をグーパーしてみる。
そのまま顔中撫でてみるが傷は見当たらない。
あれ?あれ?
スッと立ち上がり右手のコンビニ袋を頭上でブンブン回した。
「あれ?これ生きちゃうんじゃない私。」
身体に染み付いた、いーちゃんライブのタオル振り。
今はタオルではなく、コンビニ袋だが
痛みを感じないとわかるとますますブンブンぶん回した。
一同じ頃一
柔らかそうな巻き髪の少女は真っ直ぐの瞳に涙を耐えながら探し物をしていた。
その世界ではフタツ面の森と云われる所
日のあるうちは人の為に豊かさを与えてくれるが、夜になると様相を変え、一切の光と優しさを許さない。
その闇の中から得体の知れない生物達のシルエットが蠕き唸り声が響く
何故、わざわざ夜に探し物をするのか?
少女には夜に探す理由があった。
そして急がなくてはいけない理由もあった。
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