第32話
長くなってしまったので2話に分割します。その為、1話がちょっと短いです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
世間ではダンジョンを一般にも開放するという流れが出来ている。
これは日本だけではなく世界中でも同じ事だ。何せ早くダンジョンを攻略しないといけないのにどこもかしこも人手が足りない。それに今の期間だったら本当の意味で死ぬという事を回避できるのだ。だったらこの流れを逃す手は無い。
「一般の方でダンジョンに入る人、探索者と呼ぶ予定ですがそれは免許制になる方向で話が纏まっています」
「正直な所この期間にダンジョンがどういう場所なのかという事を身をもって知ってもらいたいという意味合いもあります。私達も全力を尽くしますが、半年後までの間に合わない可能性もありますから。ですので、どうにか復活できるこの期間中にねじ込んでしまいたいと急いだ結果です」
「なるほど……」
あれから何度も考えているが、確かにその可能性もあるのだ。むしろそっちの方が高いぐらいだと思う。
「本来ならこの後にある一般への周知から募集を始めるのですが、龍希さんには是非とも話を通しておきたいという声が大きく。こうして直接勧誘と言うかスカウトをしているという事です。これがパンフレットです」
そう言うと斎藤さんは鞄から遊園地とかでよく見るサイズのパンフレットを手渡してくれた。そこには簡単ながらも一般開放の事について書かれている。お母さんや水月と朝陽にも渡されたそれを各々じっくり見ている。
「年齢制限は十六歳なんですね。てっきり未成年は除外するだろうと思っていたのですが」
「そこは元も議論をした所だと聞いています。しかし可能性を少しでも広げる事を考えた結果その結論に至ったらしいです。もちろん未成年の登録に関しては保護者の同意がいりますし、こちらでも厳しく確認します」
「この免許を持っていれば武器を持ち歩いてもいいとあるんですけど、普段からってことなんですか?」
「そうなります。ただし、書いてある通りダンジョン外では絶対にケースの中に仕舞っておき外には出さない事が原則です。もしこれを破った場合、免許のはく奪という処分になります。ステータスを持つ者が武器を携帯するというのは、それだけで危険ですので」
「こっちの特別な許可が無いと一人での探索を禁止するというのは……?」
「最低二人以上いないといざという時に助けを呼ぶなどが出来ないならです。一応半年に限り死ぬことはありませんが、痛みと実際に死ぬという感覚を味わう事になります。ですから出来る限りそう言った事を減らしたいという事です。それに半年限定の事で勘違いしてほしくはありませんからね。本来なら命のやり取りをする場所だという事を」
斎藤さんはみんなの質問にすらすらと答えていく。さすがと言うかここの内容に関してはきっちり頭に入れてきているんだろう。出ないとこんなにスムーズに説明なんて出来ないと思う。
「話は持ってきましたが、本当にそれだけです。これに募集するかどうかは龍希さんの自由です。あなたは既にダンジョンを一つ攻略して十分に貢献しています。それをさらにお願いするなんて事はありません。それに龍希さんのこれ以上のダンジョン攻略は地球の意志の制限に引っかかってしまいますから」
「は、はい……」
斎藤さんは断ってくれて構わない、むしろ断ってくれみたいな雰囲気なんだけど。
でもちょっと前にもう決めちゃってるんだよね。もしまたダンジョンに入れるようになったらどうするかってこと。
「お母さん、ボクダンジョン行きたい」
「……そういうかもとは思ってたけど、一応理由を聞いてもいいかしら?」
「うん。と言っても大した理由は無いんだけどね」
大まかな指針となったのはこの前スライムちゃんや眼鏡さんと話した事だ。
「確かに直接攻略は出来ませんけど、パーティー組んだりすればまだ関われます。それにそうじゃなくても魔物とか階層の情報とかを集める程度なら役に立てますし」
「……なるほどね」
「それに単純に面白そうっていうのもあるんだよ?ほらボクって昔からそういうの好きでしょ。それとコレが決め手になったんだけど――」
これに関してはついさっきの事で、天秤が完全に傾く最後のピースになった理由だ。
机に置かれたワイバーンのお肉の入ったビー玉を手に取る。
「これ、このドロップアイテム。さっきスキルでも見たけどそれ以外にも、こう本能的にと言うか感覚で分かるんだよね。これは絶対に美味しいって!」
「あんたまさか……!?」
「ダンジョンに行けば美味しいもの食べ放題!これ以外にも美味しいものが沢山ある!そうと決まれば行くしかない!」
前に見た時は分からなかったけど、さっきこれを見た瞬間にビビッときたのだ。
これが食べる系統満載のスキルの影響なのか、ボクの本能がなせる技なのかは分からない。だけどその美味しさがボクの琴線に触れたのは間違いなかった。
「と言うかすぐにでも食べたい。病院のキッチンとか借りて料理出来たりしないかな?」
「馬鹿な事言わないの。まあそれにしても龍希らしい理由っちゃ理由ね」
「それでどうかな?行ってもいいかな?」
「……う~ん、まあいいでしょう!行ってきなさい!」
「やったぁ!!」
ボク達のやり取りをもはやぽかんと見ている斎藤さんと日高さん。
やっぱり断って欲しかったんだよね。でもごめんなさい!もうこの衝動を止める事は出来ないんです!もうダンジョンがスーパーの食料品売り場にしか見えないんです!
「ほ、本当によろしいのですか?結構、いえかなり危ないですよダンジョン?」
「そりゃもうボク自身が一番分かってますよ。行ったことありますからね!」
「た、確かにそうなのですが……分かりました」
頭を抱えて悩んだ結果、納得してくれたようだ。
心配してくれているのは分かるので少し申し訳ないんだけど、それを押してでも行きたい気持ちの王が強いのだ。ここは許して欲しい。
「一般人のダンジョン入場は書いてある通り免許制になります。きちんとした試験を受けて頂いてから免許の発行という事になるのですが龍希さんの場合は特例で試験をパスしていただいても「それはキチンを受けさせてください。それで落ちるようなら許可しません」――ではその方向で」
ちょっとお母さん!?せっかく試験を受けなくてもいいと思ったのに!?
そんな事を思ったのがばれたのかお母さんから鋭い視線が飛んでくる。
ごめんなさい。頑張って試験受けます。それで合格します。
でも探索者になるための試験ってどんな事をするんだろうか?学校でやるような筆記試験とかだったら正直自信ないんだけどなあ。
「試験の内容は筆記と実技の二つを行う予定でいます。筆記試験は探索者として抑えておかなくてはいけない基本的な事を試験形式で問うもので、実技試験は実際にどれほど動く事が出来るのかを見る試験になります。筆記試験に関する資料は応募者全員に送られるので、それまで待っていてください。実技に関しては、龍希さんの場合は心配ないでしょう」
「それだったらいける、かも……?」
でも実際のところ運動はあまり得意じゃないんだよね。スピードとパワーだけならスキルでどうにでもなるけど、むしろそれ以外が壊滅的な気がする。
そう考えると、逆に筆記試験の方が上手くいく気がしてきた。
今度朝陽に体の動かし方教えてもらおう。うんそうしよう。
「たつ姉だけずるい……」
「そんなこと言っても水月は年齢でがっつり引っかかってるじゃん。大丈夫だって、美味しいもの見つけたらちゃんと持って帰ってくるから!」
「そこを心配しているんじゃないんだけどな。とは言え、あと一年は直接ダンジョンに関わるのは無理そうだ」
二人は今年で十五歳なので、応募するにしてもあと一年は不可能だ。ただ二人ともやる気満々の様子で来年頑張ろうと拳を握っている。
この調子だと二人とも探索者になりそうな感じがする。もしそうなったらボクが先輩になるんだからしっかりと指導してあげないといけない。
……これは増々試験に合格しないといけない。
さすがに来年の試験で妹と一緒に合格して「同期だね!」って言うのは遠慮したいのだ。
「朝陽は何となく分かるけど、水月もダンジョンに行きたいの?ちょっと意外ね」
「私は知的好奇心が理由だから……でも魔法とかは興味があるし使ってみたい……」
「ああ、そういえば魔法で話が合ったの忘れてたよ!」
水月が魔法について言ってくれなかったら忘れていたかもしれない。
いや、その時はスライムちゃんか眼鏡さんが教えてくれたと思うけどね。とにかく今は魔法の事について話しておかないと。
「魔法の話って何でしょうか……?」
「ええと……あれ、どうやって説明したらいいかな?魔法の適正?それとも練習方法とか?」
「……?」
ボクの話が要領を得ないので、みんな揃って首を傾げてしまっている。
どうしたものかと思っていると眼鏡さんがフォローに入ってくれた。
『マスターの代わりに私が説明します。まず魔法についてなのですが――』
昨日ボクに聞かせてくれたことと同じ内容を眼鏡さんが説明してくれた。
そうだ、昨日説明を聞いていたんだからそれっぽくやればよかったじゃないか。次に誰かを説明する時は参考にするために、しっかりと覚えておこう。
『ではマスター実演をお願いしますね』
「よし、任せておいて!練習の成果を見せちゃうんだから!」
結果、失敗しました。
何とかコップが揺れるぐらいには動いたんだけど、持ち上げる事は出来なかった。
なんだか微妙な反応になってしまったので、予定していた通りスライムちゃんに助っ人をお願いする。
コップとかお見舞いのフルーツとかを沢山浮かせて、そのうえ浮かせたナイフでリンゴの皮を剥くなんて技も見せてくれた。
そんな技をいつの間に練習していたのか分からないけど、完全にボクのやり損な気がするんだけど気のせいだろうか?
「なるほど。スキル無しでも魔法は使う事が出来るのですね」
『そうなります。習熟すればちゃんとスキルとして追加されて制御などがかなり楽になりますね。逆にスキルを持っていなければいないで、制御の練習がしっかり出来る事になるのでいいかもしれませんね』
「確かに最初からスキルを持っている人間と後天的に訓練で手に入れた人間では後者の方が上手く使いそうですね」
「その、魔法の適正を判別する方法は無いんですか?龍希さんの場合は眼鏡さんがしたと聞きましたが、我々にも出来るような手段とかは?」
『簡単なのは鑑定系のスキルで見てもらう事ですね。それか少し遠回りになりますが、無属性魔法で魔力操作を鍛えてから魔力を各属性に変換してみれば出来る出来ないは分かりますよ。ですがやはり、鑑定で見てもらった方が早いですね』
日高さんはそれになるほどと頷く。基地の中に鑑定系のスキルを持っている人が数人いるらしいので、その人たちに頼んでみるそうだ。
それから魔法の練習方法を教えたり実際にやってみたりしたけど、魔法も魔力も目に見えない。つまり練習風景はそこに佇んでいる人の姿にしかならないので人前でやるのはちょっと恥ずかしかった。
こうしてそれぞれの要件が終わったので、斎藤さんと日高さんは帰る事になった。
また退院の準備が整ったら改めて連絡すると言って帰っていったので、次に来るときが楽しみだ。
それから少ししてお母さん達も夕飯の準備とかやる事があるので帰って行った。結局お父さんが来なかったけど、仕事が終わらなくて行けそうにないと連絡があった。その代わりまた明日来るそうだ。
何かお土産を持ってくるそうなので、それを楽しみにしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます