第31話

「お久しぶりです、皆さん。水月さんと朝陽さんは前のダンジョンでの騒ぎ以来ですね」


「今日は突然来ることになってしまって申し訳ありませんでした。ああこれ、お見舞いのフルーツ盛り合わせです。後で食べてください」


 部屋に入ってきた二人から挨拶を受けた。

 そういえば水月と朝陽はこの前の事件の時はいなかったもんね。だったら本当に久しぶりの事だろう。

 日高さんの渡してくれたフルーツ盛り合わせはよくお見舞いの品として見かけるバスケットの入ったものではなく木箱に詰められた高級感漂わせるものだった。


 これ絶対美味しいやつだ。


「ありがとうございます。お見舞いに来てくださって感謝しています」


「何を言いますか。感謝するのはむしろこちらの方です。龍希さんがいなければ私達はおろか、この街がどうなっていたか」


 そうして斎藤さんと日高さんはそろって頭を下げる。


「この件につきましては、皆さんを危険な目に合わせてしまい本当に申し訳ありませんでした!市民を守るべき我々が逆に守られてしまうなど会ってはならない事です!それをあろうことか未成年の子どもに任せてしまうなど……謝って済む問題ではありません」


 そう言って頭を下げ続ける自衛隊の二人。突然そんな行動をしたので、思わず目を丸くしてしまった。どうすればいいか分からずとりあえずお母さんに視線を向けるが、あなたの問題でしょうと返されてしまう。

 そんなこと言ってもどうすればいいか分からないよ!?こんな経験無いんだから!?


 オロオロしているとさすがに厳しいと判断したのか、お母さんから喋り始めた。


「お二人とも頭を上げてください。そもそもあれは事故だったんでしょう?あんな事が起こるなんて誰にも分かりませんでした。それにあれは龍希自身が考えた結果の選択だった。であれば責任は龍希のものです」


 頭を上げた二人はお母さんの話を黙って聞いていた。


「まあこんな考えは母親としてどうかと思いますが、私はそう思っています」


「そんなことないよ!?お母さんが凄く心配してたのも知ってるから!むしろあの時送り出してくれたからもっと力が湧いてきたの!だからお母さんはボクの最高のお母さんだよ!」


「龍希……」


 あの事件があってから何となくお母さんの様子が普段と違うような気がしていた。それにあれからしっかりと話す機会も無かったから、折角の機会なんだ。全部ぶちまけてしまえ!


「それにお母さんの言う通りあの時は自分でそうしたくて行動したんです。ダンジョンなんて未知のものだらけであんな事が起こるなんて誰にも分かりませんよ!だからボクとしては……謝罪よりもお礼の方が嬉しいです」


「……分かりました。龍希さん、本当にありがとうございました。お陰で仲間を助ける事が出来た」


「龍希さんに助けれた隊員はその後の経過も良好です。少し時間はかかりますが、暫くすればこれまでと同じ生活を送れるようになるはずです。これもあの時龍希さんがいてくれたたお陰です。心から感謝しています」


「どういたしまして!」


 テンションに身を任せるのは身を亡ぼすとはよく言ったもので。少し冷静になると自分が青臭いというか恥ずかしい事を言っていた事に改めて気づく。

 ちょっと顔から火が出る前に冷水に飛び込みたい気分だよ。


「では、改めてまして龍希さんが元気そうでよかったです。病院の方から話は聞いていたのですが、やはり実際に見ない事には心配で」


「この通りすっかり元気ですから!というか最初から怪我とかもしてませんでしたけどね」


「それについては世間に対する目隠しの意味もあったのでお許し願いたい。本当なら異常が無ければすぐに退院してもらうはずだったのですが、まさか騒ぎがここまで大きくなるとは思わず」


 眼鏡さんの言っていたように、やっぱり入院にはボクの身を隠す意味もあったみたいだ。

 確かにあのまま家に帰っていたら色々と大変だったのは分かる。むしろボクが居なくても家の方が心配だったけど特に何も起きなかったようだ。

 知り合いや親戚から電話があったぐらいらしい。お父さんのおばあちゃん家とお母さんのおばあちゃん家からも電話があった事も聞いた。


 テレビでボクがあの映像に映っているのを見てかなり心配していたらしい。

 そういえば今年の夏は色々と忙しくて行くことが出来なかったので、冬休みにでも会いに行きたいものだ。久しぶりに会いたいからね。それに心配かけた分しっかりと元気な姿を見せないと!


「こちらでも報道に関しては色々と手を回しているので少しは落ち着くと思いますが、それでもまだ時間が掛かるでしょう」


「やっぱりそうですか~……」


「それだけ今回の出来事が衝撃的だったのです」


 斎藤さんの話では自衛隊にも今回の事件で問い合わせが相次いでいるらしい。

 何で魔物が外にいたのかや、魔物と戦っていた少女は誰なのかなど主にそこら辺の質問が多いとのこと。


「それまで世間が最も注目していたのは半年後に迫ったダンジョン外への魔物の排出、そしてそれに伴う不安です。ダンジョンが出現してから半月が過ぎましたが、依然として攻略できたダンジョンは最初の一つだけ。不安が高まってしまうのも仕方ありません」


『つまり今回の事件は、ダンジョンに潜む魔物という脅威を改めて認識する事件になったという訳ですね。そして最も大切な事が……人間が魔物に対抗できることを示したという事ですか』


「!?あ、ああ眼鏡さんですね。その通りです。だからこそ今回の事件はここまで注目を集める事になっています」


 よく分からないけど、それの何が重要だったんだろう?

 だって自衛隊の人たちもダンジョンに入って魔物を倒しているじゃないか。だったら今更ボクが一匹倒したぐらいでって感じがするんだけど。

 そんな事を考えると、眼鏡さんから溜息を吐くような音が聞こえてきた。


『……それはダンジョンに深くかかわっているマスターだから言える事です。一般の人間には攻略状況どころか魔物の正確な姿さえ知られていません。恐らく今後徐々に発表していくつもりだったのでしょうが、そうなる前に事件が起きてしまった。未知とは時に恐怖にもなり得るという事ですよ』


「……?」


「まあとにかく、そういう事ですのですぐに退院することは難しいという事です。ですがこちらでも既に対策を講じているので、そう長くはお待たせしません」


「学校が始まるぐらいにはどうにかなりますか?」


「何としてもそれまでには終わらせますので安心してください」


 そう言う事なのでそっちは斎藤さん達にお任せするしかない。

 どうにか頑張ってもらいたい。さすがにボクも病院から学校に通うとかはヤダからね。病室にただいまとか言いたくないもん。


「そういえば今日って何かお話があるんでしたよね?お母さんからそう聞いてるんですけど」


「そうです。お話と少し相談したい事がありまして。一つは今話した退院の件についてです」


 一つはという事は他にも話があるみたいだ。

 真面目な話になりそうな空気になったので、お母さんと妹達が居ずまいを正した。それに習ってボクも背筋を伸ばす。


「実はもう二つほどありまして、まずこちらは相談なのですが例のワイバーンのドロップアイテムがあったのを覚えていますか?」


「ああ、消えた後に残ってたビー玉みたいなのと黒い石ですよね」


 確かビー玉の方がドロップアイテムで手に持つと中に入っているものが出てくるやつ。そして黒い石の方が魔石で……何だっけ?魔物の核みたいなものだったよね。


「ワイバーンを討伐したのは龍希さんですので、あの二つの所有権は龍希さんにあります。ですので龍希さんが引き取るか、こちらで預かるもしくは買い取る事も出来ますがどうしますか、という相談です」


「……ちなみにドロップアイテムの中身って何でしたか?」


「外から見た感じだとお肉でしたね」


 肉ですと……?


「た、確かドロップアイテムって食べる事が出来るようになったって聞いたんですけど?」


「なったというか判明したという感じですね」


 ボクが入院して少し経ったぐらいで、地球の意志が作ったサイト“掲示板”が更新されたのだ。更新内容はドロップアイテムを食べることが可能かどうかについて。

――――――――――――――――――――

ドロップアイテムについての追加連絡:

ドロップアイテムが食用可能かどうかについての疑問が多いようなので、周知します。

可能か否かで言えば可能です。食べたからと言って魔物に変わったり、変態したりすることはありません。

しかし中には毒を持つものがあります。それについてはこちらから明かす事はしないので、自分達で調べましょう。

P・S

鑑定系のスキルを使うと可食かどうかは一発で調べる事が出来ます。活用しましょう。

――――――――――――――――――――


 何というか、そう言う事は早く言おうよと感じる文章だった。

 逆にドロップアイテムで生肉とかが出てきて、食べる以外にどうしろと?


 まあそんな感じの告知があり、魔物肉は毒入りを除いて食べる事が出来るという事が判明した。

 そしてあの時のワイバーンは毒がある用には見えなかった。

 つまり、食べられるのではないかという事だ!


「う~ん、食用にしたいのであればこちらで毒などが無いかキチンと調べなくてはいけないのですが、研究施設が崩壊してしまったので、別の場所で調べてもらう必要があります。ですのでかなり時間が掛かってしまいますが……」


 時間が掛かるって事はそれだけお肉の鮮度が落ちるってことだよね。出来れば新鮮な美味しい状態の時に食べたいからそれは遠慮したいんだけど……でも毒に当たるのも嫌だよね。

 

 いや、待てよ。

 ボクのスキルって確か状態異常も治せたよね?という事は毒とか関係なく食べることが出来る?


「何考えてるのか大体想像つくけど、ダメよ。きちんと調べてもらうまで食べちゃいけません」


「っ……そ、そんなの辺り前じゃん!?どうせ治るから食べようなんて考えてないよ!?」


「姉さん。口元から涎垂れてるよ」


 ……違うの。確かにほんの少し食べてもいいかなとは思ったけど、ちゃんと思いとどまったよ!

 多分。


『そんなマスターに朗報がありますが、聞きますか?』


「朗報って?」


『先日ワイバーンを討伐した事でスキルのレベルが上昇して新しい派生スキルを得ています。そのスキルの内容なのですが、食材に特化した鑑定スキルのようなものなんですよ』


 そういえばあれからステータスを確認していなかったのを思い出し、この際だから確認してみる事にした。前にもみんなに見せた事があったので、今回も一緒に見てもらう事に。

―――――――――――――――――――――

名前:柊龍希 女(16)

レベル:53


ユニークスキル

八百万の晩餐Lv.2 

 ・活食

 ・医食

 ・食識

絆を紡ぐ者Lv.2

 対象:『スライムちゃん』 

絆の欠片:『スライムちゃん』


スキルポイント

228


称号

最速ダンジョン攻略者 ユニークホルダー 

―――――――――――――――――――――


 見ると、確かに自分のレベルとスキルのレベルが上昇しているのが分かる。特に<八百万の晩餐>はレベルが上がった事で新しい派生スキルが増えていた。

 これが眼鏡さんの言っていた食材特化の鑑定スキルなのかな。とりあえず詳細を確認してみる。

――――――――――――――――――――

八百万の晩餐Lv2

派生スキル:食識

対象にこのスキルを使用すると、それが食用可どうか調べる事が出来る。

――――――――――――――――――――


「確かに食材特化かもしれない。試しに……これに使ってみるね」

 

 手に取ったのは日高さん達の持ってきたお見舞いのフルーツ。その中からメロンを一つ取り出してスキルを発動する。


「<食識>!」


 すると頭の中に情報が入ってくる。


「ええと、茨城県産のメロンで状態は熟しているので食べ頃。今日がちょうどうま味がピークだから出来る限り今日中に食べる事をおススメする。ああでも、育つ時に水が多すぎたみたいでちょっと大味気味だって」


「そ、そんな事まで分かるの?」


「うん。なんか一気に今の情報が頭に流れこんできた」


 これは本当に食べる事を第一に考えたスキルだ。

 これって野菜を買う時とか便利だよね。今度スーパーに行った時に使ってみよう。


「……買った時に果物の品質などが書いてある紙を貰ったんですが、産地、食べ頃、生育具合も全て龍希さんの言う通りです。これは凄いですね。食材限定とはいえ、ここまで詳細に調べる事が出来るなんて」


 これ、食べられないものとかに使ったらどうなるんだろう? 

 例えば机とかその上のコップとか、後は……人間とか。いや、これは考えたら人として終わる気がする。間違いなく終わる。

 この鑑定は絶対に人には使わないようにしよう。


 そんな事を考えていると、日高さんが少し考えるような仕草をしてから鞄に手を伸ばす。


「実は今日ワイバーンのドロップアイテムと魔石を持ってきているんです。もし手元に置くなら眼鏡さんが収納できると聞いてますし、取りに戻るのも二度手間ですからね」


 そう言うと日高さんは持ってきていた荷物からドロップアイテムと魔石を取り出す。 

 妙に大きい鞄を持ってきているなと思ったら魔石が入っていたからだったのか。取り出されたそれはボクの頭ぐらいのサイズはあった。

 

「この状態でワイバーンの肉にスキルを使う事はできますか?」


「ちょっと待ってくださいね、<食識>――あ、使えました!ええと、『ワイバーンの生肉』に毒は無いみたいですね。食用可って出てます。それから状態は新鮮でとても美味しいと……」


 これなら食べても大丈夫そうだ。特にどこの部位なのかって事は分からなかったけど、見た目は普通のお肉と変わらない様に見える。それどころかいい具合に油がのっていて美味しそうなぐらい。


「お母さん、いいかな……?」


「う~ん……まあいいわよ。毒は無いってことだしお腹壊しても死にはしないだろうし」


「斎藤さん、このお肉はボクが引き取ります!魔石の方は使い道がないのでお譲り、と言うか買い取りお願いします!」


 値段に関しては基準とかが決まっていないそうなので、そこら辺が決まり次第支払いをしてくれるそうだ。それまでは眼鏡さんの収納の中で眠っていてもらうとしよう。

 

「それでは次の話をしますね。これは本当に相談というか、ほとんど連絡のようなものですね」


「連絡ですか……?」


「はい。ダンジョンの一般開放についての事です」


 その言葉を聞いて思わず息を呑んだ。

 この話が自分の人生に大きく関わるってことを何となく分かっていたからかもしれない。

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