第24話
「魔物を召喚って、それ本当なの!?」
『間違いありません。ペンダントの召喚機構と同系統の作りが発見できました。さらに解析したところ魔法陣で召喚できるのは魔物である事が判明しました』
「そんな……」
ダンジョンで戦ったような化け物みたいな魔物がここに現れる。もし本当に召喚されてしまったらみんな無事じゃすまない。それどころか街の方に出て行ったら?もし水月や朝陽の学校の方に行ってしまったら?
そんな恐ろしいことは無いと思いたかったのに、悪い知らせは続く。
『さらにあの魔法陣には周囲の生命体から力を吸い取る効果も含まれています。もし発動すれば、魔法陣の内側にいる生き物から力を吸い尽くすまで止まりません』
「あの魔道具は破壊しても問題ありませんか!?下手に手を出すと暴走してしまうとかは無いですか!?」
『ないはず、です。すみません、万が一のことを考えると私もはっきりとは断言できないんです。勝手に魔道具が動きだすという異常事態ですから、本来であれば問題ないはずの事でもどうなるのか……』
「……破壊しましょう。生命力を吸われることもそうですが、魔物が出てくる可能性がある以上放置してはおけません。それに弱い魔物なら自衛隊でも対処できますが、下の階層の強力な魔物が出てきてしまったら為す術がありません」
そう言って電話口の向こうに今すぐ箱を攻撃開始するように伝える。モニターを見ているとすぐに変化が訪れた。
箱のある位置で爆発が起きたのだ。最初の一発を皮切りに次々と爆発連続して起こり、室内にいるはずなのにここまで爆音が響いてくる。上の様子しか見えないけど、きっと下から自衛隊が攻撃しているんだと思う。
煙で様子は見えないけどあれだけ爆発してれば壊れているはず……だよね?フラグとかじゃないからね?本当に壊れてくれていいんだからね?
そんなボクの思いを嘲笑うかのように煙が晴れた時に見えてきたのは――
「うそ……」
ほぼ無傷の状態で絶えずに魔法陣を描き続ける箱の姿だった。鮮明な映像じゃないから細かい傷がどうかまでは分からないけど、ほとんど効果が無かったのは分かる。外の人たちもそれを確認したのか、すぐに次の攻撃が始まる。今度はさっきよりも大きな爆発が繰り返し、さっきよりも長く続く。
でも煙が晴れた時に現れたのは、やはり無傷の状態の箱だった。
『あれは本体だけの強度ではありませんね。爆発の瞬間に箱の周囲にバリアのようなものが張られていました。恐らくですがそれのせいで衝撃が届いていないのではないかと思われます』
「それじゃあ破壊する方法は無いの!?」
『……日高さん。ここの基地に先程以上の火力を持った銃火器はありますか?』
「もちろんあります。けど、ここはかなり住宅地に近い基地なの。だから下手に火力のある武器を使うことは出来ないわ。万が一にでも流れ弾が基地の外に出てしまわないとも限らないから……でも、そこを決めるのは斎藤さんよ。必要な時にはそれもいとわないはず」
『一つ考えがあります。斎藤さんにも話を通したいので、スピーカーにしてくれますか?』
「ちょっと待ってちょうだい――」
眼鏡さんに言われた通りに繋がったままの状態の電話をスピーカーにする。すると向うからは凄い爆音と音割れする爆風と共に斎藤さんの声が聞こえてきた。
「『話があるとのことだが、こちらもあまり余裕がない。考えがあるというなら手短にお願いする』」
『分かっています。まずですが現状でのあの箱の破壊は不可能と考えます。強度もそうですが、あのバリアが厄介すぎます。しかもその燃料となっているのは箱が持っている膨大な魔力です。枯渇する前に魔法陣が起動してしまいます』
「『その話は先程日高から聞いた。しかし、バリアとは本当なのか?こっちからは何も確認できないのだが』」
『透明な上に爆発の一瞬という最低限しか発動していませんからね。じっと見ていれば違和感には気づく事が出来ると思います。とにかく、それが発動する以上現状での破壊は現実的ではありません。ただ、攻撃だけは続けてください。あれが魔法陣を作るスピードが攻撃をし始めた頃から確実に低下しています』
「『それに関しては了解だ――総員、攻撃の手を緩めるな!!少しでも時間を稼ぐんだ!!』
」
斎藤さんの言葉通り爆発の音は止まることなく響いてくる。
これで時間が稼げているってことだよね?でもその前に逃げちゃった方がいいんじゃないのかな?だってそれなら生命力の吸収とかもされないし、魔法陣も発動しないんじゃないのかな?
『それは難しいですね、マスター。あの箱には既に召喚機能を発動するのに十分な魔力は溜まっているんです』
え、じゃ、じゃあ何で生命力なんて集めようとしてるの?
『推測になってしまいますが、召喚したい特定の魔物がいるのではないかと思われます。例えばマスターが以前戦ったビッグスライムですが、アレを召喚するだけの魔力は既に溜まっています。そしてさらに力を集めているとなると……どれだけ強力な魔物が出てくるか』
そんな……
自分の中にあるビッグスライムとの戦いを思い出す。スキルを使えなかったボクは、戦うことも出来ずにボロボロにされた。倒せたのだって強いスキルが発動したからだ。もしあんなのが地上に出てきたら、そんな事は考えたくもない。
「龍希、大丈夫?」
「っ……う、うん。大丈夫だよ」
お母さんに話しかけられて初めて自分が震えていることに気が付いた。お母さんが手を握ってくれて震えは止まったけど、それでもまだ怖い……
「『すまない指示だしをしていた。それで考えを聞かせてくれないか?』」
『バリアが発動している状態では破壊は不可能。ですので、バリアが発動しないタイミングに一気に攻撃を加える事を提案します』
「『……そんなことが可能なのか?』」
『可能です。あの魔道具は蓋が完全に開き切った時に魔法陣が発動する仕組みなのですが、開いてから発動までに3秒の隙間があります。その瞬間を狙います。魔法陣が発動する瞬間はそちらに全てのリソースを割くのでその時に箱の中を狙えば、バリアに阻まれることなく核を破壊し魔法陣の発動を止めることが可能だと考えます』
「『……なるほど。つまりその開いてからちょうど3秒後に箱の内側に攻撃できればバリアに邪魔されずに破壊が出来るという事か』」
『かなりの難度になるかとは思いますが、可能でしょうか?』
「『核とやらの大きさは?』」
『おおよそ直径10㎝です』
その言葉に無言が返ってきた。こっちも誰も言葉を発することが出来ないでいた。その難易度というのはいまいち分からないけど、日高さんの表情を見ればそうとう無茶苦茶な事を言っているんだと思う。
数秒なのかそれとの数分なのか、もしかしたら10分以上かもしれない沈黙が流れた。
「『分かった。俺がやろう』」
「さ、斎藤二佐!?」
「『これでも元々はスナイパーをしていたからな。管理棟からなら上から狙えるし距離的にも十分に射程圏内だから大丈夫だ。しかし狙うだけならともかく、問題なのはタイミングだ。分かりやすい特徴があるならともかく魔法陣が完成するとか、箱が完全に開くとか判断基準が分からん』」
『それでしたらタイミングに関する指示はこちらから出します。魔法陣が完成した時と、箱が開き切った時の二回で合図をするのでそれを基準にしてください』
「『それが分かれば十分だ。あまり時間も無さそうだし、すぐに作戦を開始するぞ。現場に指揮に関しては日高に引き継ぐ。これから俺は所定の位置まで移動するから一旦通信は切るぞ。位置に着いたらまた繋ぐからよろしく頼む』」
通信が切れてしばらく後、魔法陣の完成までもう少しとなった時に斎藤さんから準備が出来たという連絡が入った。
「『こっちは準備オーケーだ。地上の部隊に攻撃を止めるよう言ってくれ。さすがにあの煙の中じゃまともに見えない』」
「了解です――総員、攻撃を中止しろ!斎藤二佐が所定の位置に着いた!」
日高さんの指示で攻撃が止み、煙も風に流されてしっかりと箱を見る事が出来ていた。けれどもやっぱり箱には傷一つ無く、攻撃が止んだから魔法陣を作るスピードが上がっている。
『そろそろ魔法陣が完成します……魔法陣構築完了を確認。これより箱本体の開閉が始まります』
空の大きく広がった魔法陣はこの基地全体を覆うぐらいに巨大で、赤い光が薄っすらと地面を照らしている。
これがダンジョンが現れた世界の日常の光景になってしまうのだろうか?あの魔道具見たいなのが他にも沢山あって、世界中でこんなことが起こったら大変なことになるのは間違いない。
箱がゆっくりとその蓋を開き始めた。
もしこの作戦が失敗したら外に魔物が出てくるかもしれない。例えそうなったとしてもきっと自衛隊の人たちが守ってくれる。
でももし、それこそあの時のビッグスライム以上の魔物が出てきてしまったら?眼鏡さんの言った通り特別に強力なスキルでも持っていない限りとても倒すことなんて出来ないだろう。
――じゃあボクはどうなんだろう?
守ってくれると思っている自衛隊でも勝てないような魔物が出てきた時、あのスキルを使って戦うことが出来るのか?
もし目の前に魔物が迫ってきた時、お父さんとお母さんを、大切な人を守ることが出来るのだろうか?
『もう一度言いますが、箱が開いてから三秒後に魔法陣が起動します。撃つタイミングは発動の直前、ジャスト三秒後に核を破壊してください。
「『了解だ』」
『カウント5で箱は完全に開きます。5……4……3……2……1……箱の完全開放を確認しました』
「『……』」
返事が返ってこないのは集中してるからだと思う。見守っているボク達もその三秒間が数時間に感じるほどには緊張していた。視線はみんなモニターに集中していて誰も目を離すことなく見ている。ボクも瞬きもしないでその瞬間を待っていた。
――ズガァァン
一発の銃声が聞こえた。もちろん見えたわけじゃない。でも画面の中では弾丸が貫通して向こう側が見えるようになった箱が落ちていく様が映っていた。スローモーションで落ちていったそれはついには画面から消えてしまった。
「そっちで箱がどうなったか分かりますか!?」
「『……たった今地面に激突して砕けた。一応スコープでも内側にあった核らしき結晶体を撃ちぬいたのを確認している』」
『ジャスト三秒。恐ろしい精度ですね。こちらでも撃ちぬいた瞬間を確認しています』
「……眼鏡さん?」
『成功ですよ、マスター。これで魔物は出てきません』
その言葉を聞いて体からすっと力が抜けて、倒れるように椅子に座り込む。呼吸を止めていたのか一気に息を吐くと、心臓が早鐘を打つようにバクバクと五月蠅く鳴る。張り詰めていた空気が緩んで緊張感も薄れていった。
「ふぅ……これでひとまず安心ね」
「そうですね。後で研究所にある用途不明の魔道具を全て調べなくてはいけませんね。出来れば眼鏡さんにも協力して欲しいのですが、どうでしょうか?」
『構いませんよ。もちろん相応の報酬はいただきますが』
それにしても本当にびっくりした。まさか自衛隊の基地に来てこんなことに巻き込まれるとは思わなかったもん。でも、ほんとうに無事に箱を破壊出来てよかったよ。いきなり魔物が現れるとか言われても冗談じゃないよ。
――ドクンッ
その音が聞こえてきたのは、みんなが安心しきった時だった。そんなはずはないと思いながらもモニターに視線を向ける。
それは信じられない光景だった。空に広がっていた魔法陣は箱が破壊されても消えることなくその場に残り、そして脈打つかのように明滅を繰り返している。そして聞こえてくるあの音。
――ドクンッ
魔法陣の明滅に合わせるようにどこからか聞こえてくるあの心臓の鼓動みたいな音。そして次に瞬間の事だった。魔法陣から何かが出てきたのだ。
それはトカゲの脚の様に見えた。真っ赤な鱗で覆われていて、その先には鋭く尖った爪が付いている。けして太い脚ではないけれど、その大きさは人なんて優に超えていた。そうしてゆっくりと全身が露わになっていく。
その様子に誰も口を挟む事が出来なかった。半年後ならともかく、今はあってはいけないことだという事。そして出てきたモノのその姿に全員が唖然としてしまったのだ。
全身を真っ赤な鱗に覆われ、背中からは大きな翼が生えている。最初に出てきた方に比べれば一回りぐらい小さな前足にも鋭い爪がついていた。空中に出現したそれは翼をはためかせながらゆっくりと地面に降り立ち、まるでこの場の支配者は自分だとばかりに雄叫びを上げる。
『GYAAAAAaaaaaaa!!』
ドラゴン――
様々な物語に登場する生物の頂点とも名高いその生物が地上に降臨してしまったのだ。
そのことをボク達は雄叫びで我に返ってからようやく認識した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます