第21話
「それではよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!!」」」
まるで体育会系の部活動のような挨拶をしているのは、坂井さんと愉快な仲間たち。ではなくこの研究所の研究員さんたちだ。ボクの正面にいる坂井さんの後ろに綺麗に整列している所とか、全く研究職の人に見えないから不思議。むしろ白衣の軍人さんに見えるよ。
ボクの持ち込んだアイテム、その中の用途不明のペンダントについて解析する為にここに来ていた。三階建ての建物の、その一階にある道具系のアイテムを研究している場所。案内されたとこは、いかにも研究室と言った感じの部屋だった。
机ごとに複数置かれたパソコン、積み上げられた書類、機械の動く音とタイピングのカタカタという音だけが聞こえてくる。
案内されたのはその一番奥の部屋。そこは学校の教室ぐらいの広さと、大きなガラス張りの空間があった。その向こう側では、数人の研究員さんがいそいそと動いている。坂井さんが近づいていきガラスをトントンと叩く。その音でボクらが来たことに気づき、全員が出てくる。
そうしてお互いに軽く自己紹介をしてから、一人が今回の目的であるペンダントを持ってくる。
じゃあ早速始めようとという事になり、さっきの光景に繋がるわけだが。
「そ、それじゃあ始めちゃいますね!――眼鏡さん、お願い」
『分かりました。鑑定開始します――』
若干その圧に気おされながらも、眼鏡さんに解析をお願いする。
眼鏡さんからはすぐに返事が返ってきて、鑑定を進めてくれる。別のアイテムの時は簡単に鑑定していたのに、今回はちょっと時間が掛かっている。
「どうでしょうか?上手くいきそうですか?」
『――やはりそう簡単にはいきませんね。少し時間はかかりそうですが、結果自体はきちんと出るので安心してください』
「それは良かった!しかし、思っていた鑑定とは違うのですね。よくある話だと、見ただけでそのものの詳細が分かるということもありますが」
『確かにスキルとしての<鑑定>を使った場合はそうなりますね。私のは鑑定と言っても、正確には解析から結果を導きだしているのでどうしても時間が掛かってしまいます。ああ、ですが下位互換とかではないので誤解なさらないで下さいね?時間が掛かってしまう代わりにスキルよりも、より深く調べる事が出来るのですから』
「という事はスキルでの鑑定も存在しているのですね。今度じっくりとお話を聞いてみたいものですが……この時間に別の話を進めたいのですが構いませんか?」
『問題ありません。既にデータの収集は済んでいるので、もうペンダントの方に視線を向けている必要はありません。ただ暫くは鑑定に掛かり切りになるので、反応は出来なくなるのであしからず』
坂井さんの言う別の話って言うのは、多分スライムちゃんのことについてだよね?
何を聞きたいのか分からないけど、スライムちゃんを渡せとか言われたら嫌だなあ。家に連れて帰る時にも、対応については後々考えるなんて言われたし。ちょっと心配になってくる。
ホワイトボードの前に並べられた椅子に座り、正面に立った坂井さんと日高さんが話しを進めていく。
「今回お呼びしたもう一つの理由、それがスライムさんに関係することです。話は大まかに二つ。一つはスライムさんをどう扱っていくか、もう一つはスライムさんの――というよりも魔物についてです」
「スライムちゃんの扱いって……それってどうなるんですか?」
「最悪の場合は、こちらで預かって管理することも対処の一つとして考えています」
「っ……」
坂井さんの言葉に心臓がドキリと跳ねる。
やっぱり、そういう話なんだ……
「少し、言い方が不味かったですね。確かに最悪の場合と言いましたが、その可能性はほとんどないと考えていただいて大丈夫ですよ」
顔を上げると、坂井さんが眉を歪めて申し訳なさそうな表情をしていた。
「そもそも問題となっているのが、魔物であるスライムさんが何の枷も無く自由である事です。例えば、<モンスターテイム>というスキルの存在が確認されています。その効果は皆さんのイメージする通り魔物をテイム、つまり手懐ける事が出来るというものです」
そう言いながら、ホワイトボードにデフォルメした魔物(多分ゴブリンかな?)と人間を描き始める。そして人から魔物に向かって矢印を伸ばし、“テイム”と書き込む。
「そのようなスキルがある以上、今後魔物を仲間とする行為は一般的なものとなっていくでしょう。しかし、スライムさんの場合はそのようなスキルの影響もなく龍希さんの傍にいる。もちろんスライムさんが危険ではないという事は交流のある私達は理解していますが、全ての人がそうという訳ではありません。だから、最初に“枷が無い“と表現しました」
言いたいことは何となく分かったぞ。テイムされた魔物だったら危険はないけど、そうじゃない場合は心配って事だよね。
でもそれだと、ますます困ってしまう。だってボクはテイム系のスキルなんて持ってないんだから。
「ですので、自衛隊にいるテイム系のスキル持ちにテイムしてもらう所なのですが――」
坂井さんがそう言った瞬間、ボクの隣で強烈な威圧感が発生する。
発生源にいるのは、スライムちゃんだった。ピンク色のはずの身体が、気のせいでもなく赤く染まっている。
「……(そんな事しないわよ。もし強制しようなんて考えてるなら、こっちも全力で反抗するわよ)」
「お、落ち着いて!スライムちゃん!」
「怒る前に、話を最後まで聞いてくれませんか?まだ続きがあります」
前にビッグスライムと相対した時ほどの威圧感を前に誰も動きを止める中、坂井さんだけが話を聞くようにと真剣な顔で訴える。
しかし、その足は小刻みに震えていてスライムちゃんの威圧が効いていない訳じゃないことが分かった。
スライムちゃんもそれが分かったのか、刺すような気配が消えていき、色も普段のピンク色に戻って行く。
「……回りくどい言い方になってしまい申し訳ありません。過程から説明してしまうのが癖になっていまして。ええと、結論から言いますと今回の問題は龍希さんのスキルを使う事で解決します」
「ボクのスキル?それって<八百万の晩餐>の事ですか?」
「いいえ、もう一つのスキル<絆を紡ぐ者>の方です」
言われて思い出す。八百万の晩餐の方が衝撃的すぎて、そっちの方をすっかり忘れていた。ボクが持っている二つのスキル。一つは色々と問題のあった<八百万の晩餐>、もう一つは<絆を紡ぐ者>だ。
その効果を記憶の底から引っ張ってくる。
「えっと、確か“生き物と絆を紡ぐ事が出来る”みたいな名前のままな効果のスキルでしたっけ?」
「はい。以前はいまいち効果が分からなかったのですが、色々なスキルの情報が集まってくる中で予想が立てられました。まず間違いなく、テイム系統のスキルであると思われます」
「え、あれってそうだったんですか!?」
日本でもスキルに関する情報が集められているらしい。例えば会社とか、学校な多くが夏休みだから主に社会人でデータが取られているらしい。その中で、ボクと似たようなスキルを持っている人がいたらしいのだ。
「その方のスキルの説明文と龍希さんのものが、似ている部分がかなりあったんです。そこでその方に検証に協力してもらったところ、テイムと同等の力を持つスキルであることが分かったんです」
「……だから、ボクのスキルもテイム系統かもしれないってことですか?」
「その通りです。ただ、その方のスキルは地上の生物に対してのみ有効で、魔物に対して効果はありませんでした。ですので、そこだけが心配な所ではあります。龍希さんのスキルがテイムと同じ力を持つとして、それが魔物であるスライムさんに通用するかどうか……」
「う~ん……考えても分からないので、とりあえずやってみましょう!」
「……そうですね。失敗した時のことは心配しなくても大丈夫です。その時の場合もしっかりと考えてきているので、遠慮なくやってしまってください」
「分かりました!」
坂井さんはああ言ってくれたけど、失敗したくはない。
だから、どうか上手くいきますようにと願いを込めてスキルを発動する。
「<絆を紡ぐ者>!」
すると頭の中の声が響いてくる。
『対象を選択してください』
眼鏡さんとの声もまた違う、無機質で温度を感じさせない声だ。
スキルを使うとこんなこともあるんだなあと思いながら、声の通りに対象を選ぶ。もちろんスライムちゃんだ!
「対象はスライムちゃんでっ」
『対象との絆を計測中……規定値に達している事を確認。スキルを使用可能です。対象と絆を紡ぎますか?』
「お願いします!」
ここまでくれば失敗することは無いはずだ。ほっとしながら、スキルを使う事を声に告げる。すると、スライムちゃんの頭の上にポンッという音を立ててハートが出現する。それと同時にボクの頭の上でも同じ音がする。
「「「なにこれ!?」」」
突然のことに全員が目を丸くして驚く。
ボクの方に視線を向けてくるけど、知らないからね!?スキルを使っただけだからね!?
その間にも変化は続いている。それは螺旋を描くようにして上に上に昇って行き、ある程度上がった所で一つになる。そして、さらに大きい一つのハートになると次の瞬間、弾ける。それはボクの金色とスライムちゃんのピンク色の光のシャワーとなって部屋中に降り注いだ。
『成功、対象との間に絆が紡がれました』
『絆の欠片:対象『スライムちゃん』が追加されます』
それを最後に、声は聞こえなくなった。
流れが速すぎてまだ混乱しているけど、とりあえず成功したってことでいいのかな?
何となくだけど、スライムちゃんとの間に繋がりを感じる気がする。さっきの声も成功したって言ってたし、大丈夫って事だよね。
「……どうなりましたか?」
「えっと、成功したみたいです」
「ではステータスの方を見せてもらってもいいですか?恐らく、スキルの表示に変化が生じていると思いますので」
言われた通りにステータスを確認する。すると、確かに変化があった。
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名前:柊龍希 女(16)
レベル:40
ユニークスキル
八百万の晩餐Lv.1
・活食
・医食
絆を紡ぐ者Lv.1
対象:『スライムちゃん』
絆の欠片:『スライムちゃん』
スキルポイント
150
称号
最速ダンジョン攻略者 ユニークホルダー
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みんなでボクのステータスを覗き込んでくる。
坂井さんはじっくりとそれを見てから、納得したかのように一つ頷く。
「成功しているかと思います。テイム系のスキルを使った時と表示のされ方が似ています。所々異なる部分もありますが、問題ないでしょう」
「……大丈夫ってことですか?」
「はい。スライムさんとのテイム系統スキルによる契約を確認しましたので、もう大丈夫ですよ」
「やったぁ!大成功だよ、スライムちゃん!」
「……(そうね。無事に終わって良かったわ。けど……あの演出はどうにかならないのかしら?)」
「……あぁ、アレね」
ハートが出たり、宙で舞ったり、弾けて光を振りまいたり。ハートに関しては“絆”っていう所から来ていると思うんだけど、ちょっとファンシーすぎないかとも思ったのも正直な感想だ。
ボクが気恥ずかしさを覚えているのを見て、お父さんもお母さんも気にするなと言ってくれるけど、顔が笑っているのが丸見えだよ!
「しかし、対象の他に絆の欠片ですか……」
「もしかしたら説明文が変わってるかもしれませんし、確認してみますか?」
坂井さんが頷いたのを確認してから<絆を紡ぐ者>の所に触れる。こうすると、触ったスキルの詳細を見る事が出来るのだ。
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ユニークスキル 絆を紡ぐ者
効果 生き物との間に絆を紡ぐ事が出来る。
絆を紡ぐことによって『絆の欠片』を得ることが出来る。
欠片を集めることによって一つの絆を作り出すことが出来る。
―――――――――――――――――――――
「絆を作る事が出来るとか……ダメだ。よく分からない」
みんな首を傾げてしまったので、目的は達成したしこの話はここで終わることにした。
もし何か分かったことがあれば教えて欲しいとも頼まれたので、今度眼鏡さんにでも聞いてみようと思う。
それにしても、どうしてボクのスキルは変なのばっかりなんだろう?
どうせならもうちょっと使い勝手のいいスキルが欲しかったよ……
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