第14話
日高さんについて案内されたのは、側面が開けたタイプのテントだった。その中では、大きな鍋がいくつも並んでいてそこからいい匂いが漂ってくる。
「お味噌汁、かな?」
「よく分かりましたね。今日のお昼は確か豚汁にすると言っていましたよ」
「ああ、この匂いだけでお腹が空いてくる……」
もはやお腹の音が隠れる気もないような音でなっている。ボクもそんなことを気にしている余裕がないほど空腹感に襲われている。
早速とばかりに配膳をすませて席に着く。話したら、快くスライムちゃんの分も用意してくれた。
「それじゃあ戴きましょうか」
「はいっ!いただきます!」
メニューはさっき言った豚汁とおにぎり、後は漬物だ。
まずは汁物からにしよう。しばらくまともに食べてないから、いきなり食べると胃がびっくりするからね。ああいう時って急に食べるとお腹が痛くなるんだよ。だから少しづつゆっくり食べることにする。
そして豚汁を啜ると、久しぶりに料理を食べるという感覚と同時に体の奥底から力が湧いてくるのを感じた。ビッグスライムの時の激流のような力ではなくて、じんわりと滲み出てくるような感覚だ。
二口目を食べると、それがほんの少し大きくなる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ!何でもないです!」
別に悪いことではないのだ。むしろ全身に気合いと活力が漲ってくる感じ。
本当に空腹の時に食べるご飯ってこんな感覚なのかもしれない。
「それにしても美味しいです。いままで食べてきた中で一番美味しいおにぎりと豚汁な気がします!」
「それは作った者達も喜ぶでしょうね、ほら」
日高さんに促されてそっちを見ると、鍋の前で調理していたおじさん達がこっちに向かって手を振ってくれていた。それを見てボクも手を振り返す。
美味しいご飯をありがとうございます、という気持ちを込めて。
そしてあっという間に食べ終えてしまった。
空になったお皿を見て少し物足りなく感じていると、さっきのおじさんが新しいプレートを持ってきてくれた。
「嬢ちゃん、お腹空いてるんだろう?だったら腹いっぱいになるまで食べな!」
「え、でもいいんですか……?」
「応ともよ!今日はお客さんがいるってんで作りすぎちまったからな。自由にお代わりしてくれていいぜ!」
「わぁ、それじゃあいただきます!」
そんなやり取りをして、お代わりを食べていると水月と朝陽がやってきた。揃って大きめの紙袋を持っている。
「姉さん、どこかに行くなら私達も起こして。探したんだから」
「ごめんごめん、二人ともぐっすり眠ってたから起こすのが悪くて」
「起きたらたつ姉がいなくて驚いた……。次からはちゃんと起こして……」
機嫌が悪い妹達を宥めながら話を聞く。お父さんとお母さんが既に戻ってきているようで、二人は身支度を済ませてきたらしい。今はこの後の予定の相談を斎藤さんとしているらしい。
「そういえばその紙袋はどうしたの?」
「ああ、そうだった。お母さんが姉さんと私達にって、お弁当を作ってくれた」
数段に重なっている重箱の中には、からあげとかハンバーグとかおにぎりとか運動会のメニューみたいなラインナップが入っている。割合的には茶色七割、白二割、その他一割って感じだ。
「これだけあれば大丈夫でしょ……」
「そうだな。ここのご飯を食べ尽くす事はないと思う」
「あら、遠慮しなくて食べていいんですよ?龍希さんのお代わりの分ぐらいは確保できているでしょうから」
「日高さん、姉さんの食欲を甘く見ちゃいけませんよ……」
日高さんの言葉に、朝陽が大真面目な顔でツッコミを入れる。
ボクの食欲って言ったって大したことないと思うけどな。確かに人よりは少し食べるけど、そんなに大食いとかじゃないと思うよ?
「ちょっと前に街中のデカ盛りを一日で制覇してきたのは誰だっけ……?」
「そ、それはみんなが大げさに言ってるだけで、そんなに大した量じゃなかったし?」
「その前の街頭でやってたフードファイトに当日参加して、有名なフードファイターに大差をつけて優勝してきたのは?」
「あ、あれはお腹が空いてたからちょっと多めに食べられただけで……」
「「姉さん(たつ姉)?」」
「……はい、ほどほどにします」
そんな落ち込んでいるボクの様子を見かねたのか、日高さんが助け船を出す。
「そ、そんなに気にしないでもいいのよ。多少量が減ったところでまた作ればいいんだし」
「いえ、ここの皆さんに迷惑をかける訳にはいきませんから」
「ん、食べ物の恨みは怖い。それにたつ姉は止めないと際限なく食べ続けるから……。ちゃんとコントロールしないと……」
「……」
そんなやり取りを挟みつつ、食事を終わらせる。お母さんの作ってくれた弁当も含めて、二回お代わりしたけどちょっと物足りない気分。気のせいかもしれないけど、普段よりも食欲が増している気がするのだ。
「ご馳走様でした!みなさん、美味しかったです!」
調理のおじさんはボクの声にサムズアップで応えてくれる。うんうん、やっぱりご飯を作ってくれる人はみんないい人だね。
「ご飯も食べたし、そろそろ行こうか。今日は病院に行くんですよね?」
「はい。龍希さんの検査を行う予定ですからね。あと、一応私も同行することになっています」
「そうなんですか?」
「既に病院の方に話は通してありますが、直接行った方が手続きもスムーズなので。ある程度交流のある私が同行することになりました。よろしくお願いしますね」
「はい!よろしくお願いします!」
炊き出しの場所を後にして、昨日のテントで両親と合流する。こっちも話し合いは終わっていたようで、すぐに出発することになった。検査によっては結果が出るまでに時間が掛かるものもあるらしく、今日は病院で泊まることになるらしい。
入院するのは初めての体験なので、ちょっとワクワクする。
病院は車で一時間ぐらい移動した場所にあった。
すぐに手続きを済ませて、早速と検査に入る。よくある健康診断でするようなことから、あまり見覚えのない機械を使った検査まで色々と行った。終わる頃には日も暮れかけで、もう夕方になってしまっていた。
そうしてラウンジで待っていると、看護師さんが呼びにくる。今日中に結果が出たものがあったので、先にそっちを確認するとのことだった。
そして診察室に入って検査結果を聞かされる。
「検査の結果なのですが、どうも龍希さんの体の細胞が異常に活性化しているんです」
「えっと……それはどういう状態なんでしょうか?」
「そうですね。例えると、全力疾走をずっと続けている状態と言えば近いでしょうか。本来であればすぐに体力を使い切って倒れてしまうはずなのですが……龍希さんの場合はそれがない。まるでどこからかエネルギーが補給されているみたいに。その為、常時体が活性化して運動と超回復を繰り返しているような状態になっているんです」
活性化していると言われてもよく分からず、お母さんが代表して尋ねる。するとお医者さんからそんな返答が返ってきた。
ボクはその説明を聞いてもいまいち理解できなかったけど。
「つまり、どういうこと……?」
「えっと、たつ姉は常時運動しているような状態だけど、何故か体力が尽きないのが不思議ってこと……」
「ああ、なるほど!……でも、どうして?」
「こちらでも色々と考えてみたのですが、原因は分かりませんでした……申し訳ありません」
そう言って頭を下げるお医者さんに気にしないように伝える。
「それにしてもなんでだろう?ボク、体力はむしろ無い方だと思うんだけど……?」
「あの、それからもう一つおかしな結果が出たところがありまして。いや、これはさすがに機械の故障だと思ったのですが何度やり直してもこの結果になってしまい……」
そう言って一枚の紙を差し出される。
それを受け取り見ると、書かれているのは身長とか体重とか視力とか学校の健康診断表みたいなことだった。
皆もそれを横から覗き込んでくる。
「そこの体重の項目をご覧になってくだされば分かると思いますが……300㎏あるんです」
「……はい?」
言われた意味がわからず、渡された紙を凝視する。
その体重が書かれている場所には、先生が言ったように『300』の文字が印字されていた。
「うそん……」
「確かに人間の体重でも300㎏前後という例は存在します。しかし、龍希さんの場合は筋肉も脂肪もこの年代の女の子の基準値程度のはずなんです。にも関わらずこの体重というのは明らかに……」
「そういえば来るとき妙に車が重かったような……?」
お父さんの一言に思った体をびくりと震わせる。お、重い……生まれて初めて言われたけど、何故だろう。グサッと来たよ……
「……あなた?ちょっとデリカシーが足りないんじゃないの?」
「あ、ああ!?ごめん龍希!?ほ、ほら気のせいだったかもしれなし。それに300㎏なんて本当にあるわけ――」
そう言ってボクのことを高い高いの要領で持ち上げようとするお父さん。
しかし、ボクの身体は地面から一ミリも上がらず、微動だにしなかった。
「……」
「ご、ごめんよ龍希!?お父さんの筋力が足りないばかりにっ!?」
「……いや、父さん。これは明らかに重いよ。普段の姉さんの体重じゃない」
お父さんに続き朝陽もボクを持ち上げようとするが、失敗してそんなことを言う。そういえば朝陽はしょっちゅうボクのことを持ち上げてるもんね。朝陽が言うってことは、本当に体重がおかしなことになってるのかもしれない。
しかし、その事実が分かったところで原因が分からない。お医者さんも他の検査結果と照らし合わせたりしたのだが、原因不明らしい。そのことにみんなして頭を悩ませていると、日高さんが口を開く。
「……これはスキルが関係しているのかもしれません」
「え……?」
ダンジョンに行っている間の短期間で、ここまでの変化をボクの体が見せている。とするならば、ダンジョンと同じく世界に新たに追加されたシステム、ステータスに原因があるかもしれない。そして、ステータスの中でこのような変化をもたらせるとしたら、それはスキルしかないだろうということらしい。
「……確かにその可能性はあるかもしれません。医者としてはふがいない限りですが、スキルの力というのは医学的には全くと言っていいほど手つかずです。この不思議な現象も超常の力、スキルが関係しているというならあり得るかもしれません」
「龍希さん……ステータスを見せていただいてもいいでしょうか?」
ボクの体の異常を調べるために、ステータスとスキルを確認することになった。
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