第13話
地球の意志が示したサイト。
その存在はあっという間に世界中の人々に知れ渡ることになり、そこに書かれた情報もすぐに認知された。もちろん期間限定の仕様変更だけでなく、その他の項目についてもだ。そうなってしまうと、唯一名前が書かれている柊龍希の名前が注目されるのは自然な流れであった。
日本では、その名前を確認してすぐに調査が行われた。その結果同名の人物が日本には一人しかしない事。そしてその者はまだ未成年の女の子であるということが判明する。
集まった大人たちは迷った。半年後に迫った魔物の放出に彼女の力を借りるかどうか。
何せこのランキングが正しければ、彼女はダンジョンを攻略しているのだ。だったら協力してもらうのが一番いいに決まっている。
しかし、彼女は未成年の普通の女の子なのだ。そこに良心が咎めないわけがない。だからこそ迷うのだ。日本の為に協力してもらうのか、それとも何もせずそっとしておくか。
その場では結局結論が出ず、まずは状況を見る事が決まった。しかし、一部の欲にくらんだ者たちが動き出したのは言うまでもない。それを見越した日本の上層部が柊龍希に護衛を付けるように指示を出したのも同じくだ。
しかし、そのすぐ後に『カルマシステム』が導入され再び混乱が起こるのだがそれは別の話だ。
~~
翌朝、見覚えのない天井を見上げながら目を覚ます。
目をしばしば瞬かせながら、体を起こす。ぼーっとする意識のまま辺りを見回すと、隣に朝陽と水月、その向こうには空になった簡易ベッドが二つある。
「あぁ~~……」
そうだ、昨日は自衛隊のテントに泊めてもらったんだ。
意識が覚醒していくのに従って昨日の夜のことを思い出す。
地球の意志の依代っぽいミニ地球が消えた後のこと。ボクが疲れていたこともあって、騒ぎが収まると酷い眠気に襲われた。お腹も空いていたけど、眠気の方が勝っていた。うとうとしていることに気が付いた日高さんに、休むように言われて案内されたのがこのテントだった。
その後の事は寝惚けててよく覚えてなくて、いつの間にか眠ってしまっていた。
「そういえばスライムちゃんは……?」
昨日は確か抱えたまま眠ってしまったはずだが、近くには姿が見えない。
何というか、あのスライムボディは抱えていると程よく心地いいのだ。
もしかしたら外に出ているかもしれないと思い、ベッドから出る。水月と朝陽はまだぐっすりなので、起こさない様にそーっと抜け出す。
お父さんとお母さんも何処に行ったのか気になる。テントを出ると、既に高い位置に太陽が昇って眩しく光が照り付けていた。自衛隊の人達もみんな動き出している。
「もうお昼ごろになるのかな?」
どうやらかなり眠ってしまったみたいだ。それはともかく、辺りをぐるっと見回してみるも両親はもちろんスライムちゃんの姿も見えない。
テントの前でどうしようか悩んでいると、向こうから見覚えのある人影が走ってきた。
「おはようございます、龍希さん。よく眠れましたか?」
「日高さん、おはようございます!はい、お陰でぐっすりです!それにしても、よくボクが起きたの分かりましたね」
「龍希さんを見かけた他の隊員がしらせてくれたんですよ。それよりも、まずは身支度を済ませてしまいましょうか。それにお腹も空いているでしょう?」
その言葉に反応するように、ぐぅぅ~~という音が聞こえてくる。
さすがに恥ずかしくなって咄嗟にお腹を抑えていると、クスクスと笑いが聞こえた。
「一日以上何も食べていませんからね、仕方ありません。本当は昨日のうちにと思っていたのですが、かなりお疲れのご様子でしたので」
「いや、えっと……後で戴きますぅ」
「それでは準備しておきますね。ご両親は着替えなどを取りに一度家に帰っていますので、先にシャワーで汚れを落としてきましょうか。その間に戻ってくると思いますので」
「ありがとうございます!さっきから気になっていたので。制服もボロボロになっちゃいましたし」
ボクの格好はダンジョンに巻き込まれた日と同じ制服のままだ。さすがに着替えている暇なんて無かったからね。
それにしてもと、改めて自分の格好を見る。制服は擦り切れたりほつれたりしているが致命的に破れている所とかはない。
「あれ……?」
そういえば、ビッグスライムと戦っている時に右腕の袖口から先を吹き飛ばしたはずだよね?それなのに今はそんなことがあったなんて分からないように、元に戻っている。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです。それよりもスライムちゃん知りませんか?テントの中に姿が見えなくて」
「ああ、それもお願いしたかったんです。ご両親と一緒に起きてきたのですが、その後ダンジョンの前から動かなくて。誰も言葉が分からないので、どうしたのものかと」
詳しく聞いてみると、両親が起きるとそれに反応するようについてきたのだそうだ。そのままテントの外まで一緒に出てくる。そして両親が家に戻るのを見届けると、ダンジョンの前に移動する。その後はずっとそこから動かなくなったらしい。
話かけてみると反応はするのだが、何を言いたいのか分からずじまい。結局、ボクが起きるまで放置することになったそうだ。
「よく分かりませんけど、先にそっちに行きますね」
「分かりました。では案内しますね」
日高さんに案内されながらスライムちゃんの行動について考えてみる。ダンジョンの前にいるってことは、別に戻りたいってことではないのかな。その気なら自分の意志で入っていくだろうし。それに一言もなく居なくなってしまうほど、薄情なスライムだとも思えない。
「眼鏡さんは何か分かる?」
『……まあ、推測はつきますね』
「ほんと!?それってどんな?」
『いえ、まあ大したことではないと思うので本人から聞くといいと思いますよ』
「……?」
よく分からないけど、とりあえず本人に聞いてみることにしよう。
そこまで大きい場所でもないので、ダンジョンの前にはすぐに着いた。そして日高さんの言った通り昨日出てきた光の渦の前に桃色のスライムがいた。それを数人が遠巻きに見ている。警戒しているというよりは物珍しさで眺めている感じかな。
「おはよう、スライムちゃん!」
すると、すぐに反応を見せ体を半回転させる。
ということは顔は向うを向いていたってことだ。やっぱりダンジョンを見ていたらしい。
「……(おはよう龍希。ちゃんと休めた?)」
「うん。もう元気いっぱいだよ!それよりもスライムちゃんの方だよ。こんな所で何やってるの?」
「……(念のための警戒よ。不用意に誰かが入らない様にと、中から魔物が出てきた時に対処できるように)」
どうやらスライムちゃんなりに昨日の話を聞いて行動していたらしい。
「でも、魔物が出てくるのは半年後だよ?それにここは自衛隊の人たちがいるから、一般人は入って来れないだろうし」
「……(それはそうなんだけど……)」
『スライムちゃんは心配しすぎですよ。地球の意志がわざわざ嘘をつくとは思えません。半年後に出てくるというのは間違いないと思いますよ?』
「……(……そうね、ちょっと神経過敏になっていたかしら)」
「スライムちゃんって神経あるの?」
「……(それぐらいあるわよ……たぶん)」
スライムちゃんも自分で納得したようなので、日高さんに報告に行く。
ここにいた理由をボクから説明すると「心配してくださりありがとうございます」と撫でられていた。日高さんもかなりスライムちゃんに慣れてきたように思える。
こうしてみていると、やっぱり魔物とも仲良くなれそうな気がするんだよね?
「スライムちゃんは洗う――必要はなさそうかな。それじゃあボクはシャワー浴びてくるから、日高さんと一緒に待っててくれる?」
「……(シャワーって言うのは体を洗うものなの?)」
「うん?そうだよ?」
「……(だったら私がやった方が早いわね。【水魔法:清浄】)」
スライムちゃんの言葉と共に、ボクの体表を何か流れるような感覚が走る。それも一瞬のことで、すぐにその感覚も無くなる。
「……(どうだった。スッキリしたでしょ?)」
「えっ?……ほんとうだ、スッキリしてる!」
さっきまでは多少の不快感があったのだが、今は風呂上がりみたいに爽快感が満ちている。
「すごいすごい!どうやったの!?」
「……(水魔法、それも簡単なやつよ。こっちの方が早いし、隅々まで綺麗になるのよね。一応ダンジョンから戻ってくる前にも使ったのよ?血のりとか凄かったんだから)」
やっと謎が一つ解けた。どうりで戦ったにしては制服が綺麗になっているわけだ。確かに粉塵とか自分の血とかで酷いことになってたもんね。というか今までそのことを気付かなかったことに自分でも驚いているよ。どんだけ鈍感なんだか。
というか、出る前にしてもらったってことは24時間どころかちゃんとお風呂入ってるみたいなものじゃん。さっきまで感じていた不快感は一体……
「思い込みって怖いよね……」
「……(何か言った?)」
「ううん、何でもない。それより、お母さんたちが戻ってくるまで先にご飯食べちゃおっか。さっき日高さんに誘われたんんだ!スライムちゃんも何も食べてないでしょ?」
「……(私の場合は食事は必須ってわけじゃないけど、食事は気になるわね。一緒に行くわ)」
「うん!それじゃあ日高さん、ご飯食べに行きましょう!ボクお腹すいちゃいました~」
「……ええっと、今のは一体どんなやり取りがあったのでしょうか?」
そう日高さんに苦笑いで言われてしまった。
そうじゃん。ボク以外にはまだスライムちゃんの言葉は分からないんだった。
謝りながら、すぐに今のやり取りを説明する。すると合点がいったと納得してくれるのと同時に、スライムちゃんの方をちらちらと見る。
「あの、日高さん?」
「あ、いえ、龍希さんが受けたという魔法が気になってしまって……」
「あ、だったら受けてみますか。気持ちいいですよ!スライムちゃん、お願い出来る?」
「……(いいわよ。はい【水魔法:清浄】)」
「……っ!?」
すぐに変化が現れたようで、一瞬体を震わせる。
そして自分の体を見ながら心底不思議そうな顔をしていた。
「本当にスッキリしますね。驚きました……」
「ですよね。一家に一人スライムちゃんって感じですよね!」
「ふふ、それはいいかもしれませんね」
なんだか日高さんとちょっと仲良くなった気がする。
これはスライムちゃんのお陰かな?
スライムちゃんを抱えて、日高さんと話しながらご飯のある場所まで向かった。
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