第12話

地球の意志が作ったと思われるサイトにあったランキング。

 『ダンジョンソロ攻略数ランキング』と銘打たれた項目。その一番上、つまり一位の場所にボクの名前が書かれていたのだ。

 ボクの驚いた声に、みんなも「なんだ、なんだ」と集まってくる。


「さっきのサイトのランキング……ここにたつ姉の名前があった……!!」


「うそっ!?」


 その話が朝陽に伝わり、お母さんに伝わり、お父さんに伝わり、日高さんに伝わり……結局その場の全員に知られてしまった。さらに、他にも複数のランキングの項目があったようで、それぞれに確認し始める。


「あっ、こっちの『レベルランキング』でも一位に龍希ちゃんの名前が入ってる……うわっレベル40?私なんてまだレベル1なのに凄い……」


「こっちもですね。ええと『トレジャーランキング』?なんでしょうか、これ?」


次々とサイトにあった各ランキングが網羅されていく。二位以下は誰もいないか、多すぎて以下略とされていることが多いみたい。一応名前で検索もできるみたいで、水月が自分の名前で検索をかけると圏外と出た。どうやら他の皆も同じみたいで、一部のランキングを除いて全員圏外になっているみたいだった。

水月曰く、ほとんどがダンジョンに関連するランキングな事が大きな理由だとか。ボク以外にダンジョンに入った人がいないからこうなってるんじゃないかとのこと。そもそもエントリーの資格がないみたいな感じかな?


 でも中にはボクも含め誰も乗っていないランキングなんかもあったりした。タイトルからどんなものか想像できるものもあれば、意味不明なものもあったり。何というか凄く雑多としている。いや、絶対にこんなに作る必要ないと思う……

ちなみにボクは自分が入っているランキングでは全部一位だった。


「……なんか、ここまで来ると怖いんだけど」


「いや、私はこの短期間で一位を総なめにしてる姉さんの方が怖いけど……」


 朝陽に呆れたような目で見られる。

そんなこと言われてもボクだってほんと意味分からないけどね!?


「しかし、これはまた困ったことになりましたね」


「……?」


「名前が知れ渡るとデメリットが大きいということです。下手すると個人情報が特定されてしまう可能性も……」


「そ、そんなまさか~大げさに言いすぎですよ~」


「たつ姉、現代の情報化社会を舐めちゃダメだよ……?」


 水月はネット関係に強く、家でもよくパソコンを弄っている。

 そんな水月曰く、名前だけでも通っている学校とか住所とかが特定されてしまう可能性があるらしい。ネットには特定することを生きがいにしている人が居るらしく、個人情報も丸裸にされるとかなんとかetc,etc……


「何それ怖い……」


「それにたつ姉の名前はかなり珍しい……。それもあって、ちょっとまずい事になるかも……」


「ど、どうしよう!?あれだよね、急に家に来たり学校の前で待ち伏せされたりするんでしょ!?」


「しかもたつ姉は小さくて運びやすい……誘拐、されるかも……」


「あばばばばば」


 地球の意志め、なんてことをしてくれたんだ!?

 このままじゃ色々大変なことになってしまうかもしれない……!?

 

「……(泡喰ったように慌ててどうしたの?)」


「す、スライムちゃん!やばいよ、ボク誘拐されちゃうかも!?」


「……(はぁ!?急になにバカなこと言ってるのよ!?)」


『はぁ……お二人とも落ち着いてください。あくまで可能性の話ですし、誘拐されると決まったわけではありませんよ。そんなことよりも――そろそろ後ろにある物体に気づいてあげては?』


 それもそうなんだけど、落ち着いていられないよ!

 それに後ろには壁しかないでしょ――


「……え、なにこれ?」


 眼鏡さんが言われて後ろを振り向いてみると、そこには地球があった。

 あ、地面だったらどこを見ても地球だろって話じゃなくて。言葉通り、地球があったのだ。ミニチュアサイズで掌に乗るぐらいの大きさだけど。最初は地球儀に見えたけど、それにしては造形がリアルすぎる。凹凸はしっかりしているし、水も煌めいて見える。極めつけは、ゴマ粒よりも小さい何かが動いているのだ。

 その地球っぽいナニカはその場で回転を繰り返している。


 もっとよく見てみようとその地球っぽいものに顔を近づけると、唐突に頭の中に声が聞こえてきた。まるでさっきと同じように。


『ふむ、ようやく気付いたか』


「しゃ、しゃべった!?」


『そんなに驚くようなことでもないだろう。先程もあったばかりなのだから』


「……えっと、もしかして」


『うむ。お前にはまだ個人的な用事が残っていたのでな。全員に伝えるほどの事でもないので、こうしてわざわざ出向かせてもらった。改めて名乗ろう、私は地球の意志である』


「「「……」」」


 ミニ地球は回転に加えて明滅を繰り返している。その声は確かにさっき聞いたものと同じ、中性的な感じの特徴の掴めない若い声。


間違えようもない――地球の意志の声だった。


 その事実のその場の全員が呆然とする。

 あれだね……人って本当に驚いた時は声は出ないものなんだね。


 大人組はボク達よりも早く驚きから立ち直り、地球の意志との会話を試みる。

 代表して口を開いたのは、あの熊みたいに大きな自衛隊の人だった。


「地球の意志殿。私はここの部隊を預かっている斎藤と申します」


『うむ、あまり個人との会話は控えたいのだが仕方あるまい。知っていると思うが、私は地球の意志だ。悪いが質問に答えてやる気も時間も無いぞ。先程も言った通り私はそこの娘に用があるのだ』


「それはいったい……!?」


 そう言った瞬間、ミニ地球はそれなりにあった距離を無視していきなりボクの目の前に現れた。

 突然のことに体に緊張が走る。

 

『まあそう固くなるな。攻撃をしようという訳ではない、むしろ逆だな』


「逆、ですか?」


『そうだ。では私の要件を告げよう――柊龍希。こちらの予想を遥かに覆し、誰よりも早くダンジョンを攻略した者よ。その功績を称え、汝に褒美を与えに来た――とりあえず、何か願いは無いか?できうる限りそれを叶えよう』


 ……願いは無いかだって? 

 

そんなものあるに決まってるでしょっ!!

ついさっき頭痛の種がちょうど出来たところだからね!


「あのランキングをどうにかしてください!実名が出るのは誘拐されたりとか、住所特定されたり色々ダメなんです!」


 言ってやった!

ちょうどあんたのしてくれたことで困ってるんだよって言ってやったぞ!

 作った本人に言えば、この問題も解決するだろうからね。そう思って安心していると、帰ってきた答えはボクの予想とは違ったものだった。


『……う~む、それは難しいな』


「……えっ?」


『導入したばかりのシステムな上に、あれは大勢が使うものだ。一人の意見でホイホイと変更するわけにはいかない。別の願いにするのだ』


「そんなぁ……」


 だってさっき出来る限り叶えるとか言ってたじゃん……

 

 地球の意志の返答に軽く絶望してると、助け船が入った。


「少しよろしいか?」


『ん?……確か斎藤だったか。いいだろう、この娘も考えが纏まらんようだからな。少しアドバイスしてやってくれ』


「いえ、私が言いたいことは先程の話についてなのです」


 すると熊の人、斎藤さんは個人情報が漏洩する危険性について地球の意志にくどくどと語り始めた。そして時折相槌をしながら、斎藤さんの話を聞いている。何を思っているかは分からないが、話を聞く気はあるようだ。


「――といった問題があるのです。ですのでどうか、先程の件について考え直してはいただけないでしょうか?」


 すると、地球の意志はすぐには答えずしばらく沈黙を保つ。

 これは、悩んでいるってことだよね……?これでもしかしたらどうにかなるかもしれない。

 ありがとう、斎藤さん!


 そして悩んだ末に地球の意志が出した答えは――


『いいだろう。先程の願いを叶えるとしよう』


「やったーー!!」


『ただし、サイトそのものをどうこうするわけではない。手を付けるのはそのような不埒なことをする輩の方だ』


 そう言うとミニ地球がひと際強い輝きを放つ。しかし、それ以外には特に変化は起こらず光は次第に収まっていく。


『本当はもう少し先で導入する予定であったシステムを使う。その名も――カルマシステムだ』


「かるま、システム?」


『そうだ。詳しくはサイトを確認すれば追加されているはずだが、簡単に説明しておく。概要は簡単で、人の善行と悪行を数値として見る事が出来るようになるというものだ。古い書物にも秤を使ったりしてその者の罪を測る話があるだろう?』


「それは業の秤や、エジプトのアヌビスの秤のようなものでしょうか……?」


 いまいちイメージが付かずにいると、白衣の女性が口を開く。

 業の秤?って言うのはよく分からないけど、アヌビスの秤といえば何となく分かる。あの犬みたいな頭の人が持っている秤のことだよね?テレビだったか教科書だったかで見たことがある。


『まあ大体その認識で合っている。要するに罪の重さを秤ではなく数値化するだけだ。ああ、もちろん見えるようにはしない。マスクステータスというものにする。それが負の数値になると、かなりのデメリットを被ることになる。要するに、悪人の生きにくい世の中になるということだな』


 そんな信じられないような話を聞かされながらも、地球の意志ならばと思ってしまう。もしその話が本当なら、確かに誘拐とか悪い事はしずらくなると思う。みんなも同じことを思ったのか、携帯で詳細を確認し始める。 

 ボクもそうしようとすると、地球の意志に引き留められる。


『少し待て。これは元々導入予定のもので、さすがに褒美とは言えないからな。これを送ろう』


「あっと――」


 突然空中に現れたものを受け止める。それは黒い布の塊で、ボクがすっぽり隠れてしまうぐらいの大きさがある。


『それには認識阻害の効果が施されている。それを身に着けていれば滅多なことでは見つかるまい。他にも色々と効果がかかっているから自由に使うといい』


「あ、ありがとうございます!」


『うむ。それでは用件は以上になる。さらばだ!』


 それだけ言い残すと、ミニ地球はその場から消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る