第11話

地球の意志から告げられた突然の仕様変更。

 半年間に限り、ダンジョンでの死亡が無かったことにされるというのだ。これにはこの場の全員、いやきっと世界中の人が驚いていることだと思う。


 そしてまだ地球の意志の言葉は続く。


【他にもいくつか細かい限定的な仕様の変更がある。が、それはここで言うのではなく自分たちで確認してもらうこととしよう】


 すると、この場にいた全員の携帯電話だったり端末の通知音が鳴り響いた。


【たった今、世界中の端末にあるサイトへのリンクを送った。その先にはこちらが作ったダンジョンに関する連絡をするためのサイトに繋がっている。そこに今回の仕様変更の件や、今後の細かいお知らせなどを載せていく】


 生憎とボクの携帯は充電が切れてしまっているので、隣の朝陽の画面を見せてもらう。送り先のメールアドレスが存在しないのも気になるが、リンクからサイトに移動する。すると、最初に出てきたのはデフォルメされた自転する地球と「now loading」の文字。真っ暗な画面が明けると、ページが現れる。公共の機関が作っているような、清潔感のあるデザインだ。


「ええと……あった、仕様変更!朝陽、これこれ!」


「ちょ、姉さん。分かったから少し離れて!」


 おっと、思わず興奮してしまった。朝陽から離れながら画面を覗きこむ。そこには、よくある規約の同意画面みたいに箇条書きで、ずらっと変更内容が書かれていた。

 ああ、見ているだけで眩暈がしてくる……


 そんなことを考えていると、隣から服をくいくいと引っ張られる。いつの間に朝陽とは逆隣りに水月が座っていた。さっきまで朝陽の向こう側にいたと思うんだけど、いつ移動したんだろう?


「たつ姉、たつ姉。とりあえずたつ姉に関係ありそうで、重要そうなのはコレ」


 そう言っていくつかの変更内容を示してくれる。

 水月が指さすのは主にダンジョンの攻略に関する項目のところで、

・特定の個人、またはパーティーによる攻略はダンジョン一つまでとする。なお、入ることを拒むことは無いが、ボスモンスターへの挑戦権を失う。

・ダンジョンを一度攻略した者は、攻略後一週間はダンジョンに入ることが出来ない。

・攻略パーティーを複数に分割しての攻略はそれを認めるものとする。

・攻略に対する貢献度によっては、上記の項目を認めない場合もある。


 こんな感じの話がつらつらと書かれていた。

 確かにここら辺の項目に当てはまるのは、今のところボクだけだと思う。何だか少数精鋭での攻略は認めないって言っているように感じる。地球の意志はなるべく大勢の人にダンジョンに入って欲しいのだろうか?


……ところで、この桜の花はいつになったら消えるんだろう?次々と振ってきては、降り積もっていく。そのうち小山ができるんじゃなかろうか。


【確認はできたか?ではこちらからのお知らせは以上となる。質問などは受け付けられないが、様子をみて仕様を変更する場合もある。よってそこに書かれる情報には十分気を払うように……ああ、それからもう一つ。それからダンジョンの前に石碑を設置する。サイトにある情報が見られるようにしておく。ネット環境の無い地域はそこで確認するように】


【それではまた重要なお知らせがあれば、現れるとする。この新しい世界を楽しむといい】


 そして最初と同じように鐘の音が聞こえてくると共に、地球の意志の声は聞こえなくなた。数度、鐘の音が鳴り響くとそれも聞こえなくなり辺りを静寂が包む。

 あまりの大きな情報の連続に、ボク達は呆然としていた。しかし、それも少しの間ですぐに再起動する。今の話の内容を整理しつつ、さっきのサイトの情報をチェックしたりする。


「そういえば、スライムちゃんにさっきの声は聞こえてたの?」


「……(ええ、聞こえてたわ。大変なことになったわね)」


 スライムちゃんにはちゃんと聞こえていたらしい。

 ボクの時はダンジョンにいたから聞こえなかったのかな?スライムちゃんにも聞こえたってことは地上にいれば聞こえるのかもしれない。

 ……いや、そういえばボクって気絶してたんだよね。だったらそれが原因かもしれないね。


「そうなんだよねぇ……魔物ってどんな感じなのかな?ボクってスライムちゃんとビッグスライムしか知らないでしょ。他の魔物ってスライムちゃんみたいに友好的だったりしないのかな?」


「……(う~ん、むしろ私みたいなのは変わり者だと思うわよ?私もスライム以外の種族は見たことないけど、みんな好戦的というか狂暴だったもの)」


「あ~そんな感じか~」


 もしかしたらスライムちゃんみたいに話の分かる魔物もたくさんいるんじゃないかと思ったけど、微妙な感じだ・


『いえ、それは魔物全般の話ではなく種族のせいですね』


 魔物と仲良くするのは難しいかな、なんてことを考えていると眼鏡さんがそんなことを言った。


「どういうこと?」


『まあ、端的に言いますとスライムちゃんの種族が特に狂暴というか……何せ種族名が“バーサーカースライム”ですからね』


 どこかで「やっちゃえバーサーカー!」なんて声が聞こえた気がした……

 え、バーサーカーって何?スライムちゃんそんなにやばそうな種族の方だったの!?


『バーサーカーの名の付く魔物は基本的に闘争本能のみで動きますからね。理性なんてものはありません。その点で言えば、最初から理性があったスライムちゃんが変わり者というのは間違っていませんね。恐らく知能が高かったことが関係しているのでしょう』


「……(私ってそんな種族だったのね……通りでおかしいと思ったわよ、あいつ等。話しかけても雄叫びしか上げないんだもの)」


 表情は分からないけど、きっと顔があったらうんざりしているんだろうな。理性皆無の狂った集団の中に一人投げ出されるなんて考えたくもない。それどんな世紀末って話だよ。


「……あれ、でもそうしたらあのボスモンスターは?スライムちゃんとは種族が違うはずなのに最初からかなり敵意むき出しだったよ?」


『ボスモンスターとはそういう存在ですから。あれはダンジョンの最後の砦。あの場に踏み込んでくるものは何者であろうと敵と認識し排除しようとします。マスターも友好的な接触は不可能だと感じたでしょう?』


「確かに……そっかぁ。そんなに簡単な話じゃないよね。もし魔物と仲良くなれたら外に出てきても大丈夫なのに」


『それは理想的でしょうが、実現は非常に難しいことですね。とはいえ、スライムちゃんのような例もあるのも確かです。まだまだ分かっていないことも多いですし、これからに期待というところでしょう。それに外に出てこないようにすればいい話ですからね』


「まっ、そうなんだけどね」


 眼鏡さんの言う通り魔物がダンジョンの外に出てこないようにすればいいのだ。言うだけなら簡単だけど、それが難しい事も分かっている。


「あと半年か……これからどうなるんだろう?」


 きっとこれから世界は色々と変わっていくんだと思う。なんたってダンジョンに魔物なんてファンタジーが出現したうえに、それが外に出てくるという話もあるのだ。将来どころか、明日にも何が起こるか分からない状況にボク達はいるのだ。


「(ボクはどうしたいんだろう……?)」


 ふと、みんなの顔を眺めてみる。

 みんな今の話を聞いていたはずだ。あれを聞いて何を思ったのかが気になりその表情を窺った。

 

 お父さんはやっぱり不安そうな顔をしている。あんな事があったんだからしょうがないよね。あまり気が強い方じゃないし。眉を八の字にして、スマホを画面を眺めていた。そんなお父さんの肩に手を置いて一緒に画面を見ているお母さん。お父さんと違い不安は見えず、真剣な眼差しで画面を見ていた。いつもは快活なお母さんだから、こんな顔を見たのは初めてかもしれない。怒った時とはまた違った真剣な顔をしていた。


隣を見れば妹達、水月と朝陽がいる。水月は一生懸命にスマホの画面をにらめっこをしている。この子は昔から頭がいいからね。表情は無だけど、顔立ちがいいからボクよりモテる……というか妹達は基本的にお姉さま系なのだ。


妹なのに……

それはともかく、多分少しでも役立つ情報を集めようとしているんだろう。頭を使うことは本当に得意だからね。


 反対側では朝陽が空中で指を滑らせている。

これは……ステータスを見ている?ステータスは空中に表示されて許可がないと他人は見る事が出来ないらしい。

朝陽は多分ステータス画面であろうものを操作しながら、顎に手をあてて考え事をしている。朝陽は水月とは反対に運動が得意だ。頭が良くない訳じゃないけどね。運動は輪をかけて凄いのだ。ポニーテールの髪を揺らして運動する姿はそりゃあ絵になるのだ。

 

 お父さんもお母さんも水月も朝陽も、何か行動を起こしている……


 今度は自衛隊の人達の方を見る。

日高さんを始めとした自衛隊の人達は、今の内容のメモを読み直している人。どこかに連絡している人。お母さんとお父さん、水月と同じようにさっきのサイトの画面を確認している人。それぞれやっていることはバラバラだけど、同じように自分に出来ることをしている。


 ……なんだか一人だけワクワクしてしまった自分がバカみたいだ。みんなこんなに真剣に出来ることをしようとしているのに。

 いや、そんなことで落ち込んでいる場合じゃないよね。ボクも自分に出来ることをしないと!


 とりあえず朝陽みたいにステータスでも確認してみよう。ダンジョンでの事もあったし、ずっと気になってはいたのだ。何か分かることもあるかもしれない。

 そこで自分がステータスの開き方を知らないことに気が付く。そこで、朝陽に聞こうと思った時の事だった。

誰かの「あっ!」という声によって中断させられた。

水月が普段は半目に開いている双眸を大きく見開いていたのだ。


「水月、いきなりどうしたの?」


「たつ姉……これ見てっ……!!」


「ちょ、近い近いって!?」


 そう言ってスマホの画面を見せつけてくる。

 勢い余ってお姉ちゃんの顔にめり込んでるからちょっと離れてくれないかな……!

 

 スマホを引き剝がして、ようやく画面が見えるようになる。見ると、そこに映っていたのはさっきのサイトだった。だけど、仕様変更の画面とはまた違った場所らしい。

 目立つように一番上にでかでかと書かれているのは自己主張が激しく光ったり大小を繰り返している豪華な文字。


 何とか解読すると、そこには『ダンジョンソロ攻略数ランキング』と銘打たれていた。

そしてその下には……ボクの良く知る名前が――


「なんで……何でボクの名前が書かれてるのさ!!?」


 ランキングの一位の所にボクの――『柊龍希』の名前が書かれていた。

 丁寧に振り仮名付きで……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る